臨也が新宿へ引っ越しの準備をしている時だった。机の鍵のついた引き出し。その奥からある物が出てきた。
「花火……?」
部屋には傾いた陽が射していて、臨也と、その手に持つ花火をオレンジに染めた。
蝉の鳴く声が遠くなる。
「おい臨也、今晩空いてっか?」
放課後、新羅は彼女に会うべくとっとと帰ってしまい、門田はバイトがある、と同じくすぐに帰った。いつも二人と帰ってる臨也は仕方なく一人で帰ろうと教室を出た時だった。廊下に並ぶ窓に寄り掛かりながら腕を組み、あからさまに苛々とした様子の金髪を見つけたのは。
「……俺引っ越しの準備で忙しいんだけど」
「今日一日。夜だけだ。そんくらい、いいだろ」
引っ越しの忙しさを知らないのかこいつは。業者などに頼んで自分の荷物が見られるのは嫌なので全部箱に区別して詰め込んでんだぞ。と心の中で呟きながらも話を続ける。
「無理。学校があるから夜が主な活動時間なんだよね」
「今日だけだから、頼む」
「…………」
なにを必死になっているのやら。静雄と臨也は全然話さなくなったし、メールもしなくなったというのに今更。臨也はしらけた態度で溜息をついた。
「……今夜だけだよ」
「お、おう! じゃあ、18時に公園で待ってるから」
途端、明るくなった静雄の顔に多少面食らいながらもその言葉には頷くしかなく。去りゆく背中を見つめながら、こうしてまともに話したのは何ヶ月振りだろうかと思い返す。
高一、入学早々お互い惹かれ合い付き合い。初めこそとても初々しくもよく喧嘩ばかりしていた。
初々しさは一、二ヶ月ほどで慣れにより段々消えて、喧嘩は高二になってから口喧嘩に収まる程度に変わっていた。
そうして関係が穏やかになっていくのが良かったのか悪かったのか、
高三の現在では、今のように冷めた関係になっている。静雄はどう思っているか知らないが、少なくとも臨也はそう思っていた。
静雄の背中が完全に見えなくなったとこで臨也も足を進めた。18時まで少しでも荷物まとめを進めなければ。
そして家に帰って机の上にスクールバッグを投げた時だった。
「あ……」
それが目に入ったのは。
臨也はそれを手に取りふと考える。そして、至ったのか無造作に鞄に突っ込んで引っ越しの準備を再開した。
18時。前までは夕日がきれいだったというのに、8月の終わりとなった今はぼんやりと暗くなってきている。雲一つない空には、早くも星が見えた。
「臨也!」
「……シズちゃん」
公園の入口、電灯の下で二人は待ち合わせていた。静雄の姿を確認すると臨也は弄っていた携帯をしまい、前を向く。
「わりぃ待たせちまって」
「何言ってんの。今18時ぴっただよ」
「マジか。良かった間に合って。えーと、じゃあどうする?」
「誘っといてなんにも考えてなかったわけ? まあいいや。これやろう」
これ。と言って出されたのは花火セットだった。静雄は怪訝に眉を寄せてそれを見る。
「花火?」
「うん花火。やろーよ」
「いいけどよ……公園の許可は」
「そんなのどうにでもなるでしょ」
軽々しく言う臨也。に相変わらずだなと苦笑いし先に公園の中へ入って行った背中に続き足を踏み入れた。
「この辺でいっか」
公園の真ん中に立ち止まり、バリッと勢いよく袋を開けた。中からまずは二本出して、静雄に一つ手渡した。持参してきたライターで火を点すが……
「あれ? 点かないなあ」
「……一応聞いとく。これいつ買った」
「んー? 引っ越しの準備してたら出てきたからなあ。結構前じゃないの?」
「それは点くわけねえだろ!」
「あはは、だよねー」
そんなことは分かっていたけれども、それでも目に入った時何故かバッグに入れてしまったんだ。臨也はそんなことを考えながら静雄から一本花火を取り返して自分の持っていたもう一本と袋をまとめて近くのごみ箱に捨てた。
「ま、仕方ないか……」
その一瞬、臨也の表情が曇ったことに気付き、静雄は腕を引っ張った。
「え? なに」
「今から買いに行くぞ」
「は? え、なんで」
「やりたいんだろ、花火」
「そういう訳じゃない!」
「いいから来い!」
半ば強制とも言えるように臨也を連れて公園を駆け足で出た。
その後はもう瞬間的なことのように思えて。連れ出されたのはすぐ近くのコンビニで、手に取ったそれは最後の一袋だった。買えばまた走って公園に戻ってきて、静雄は笑顔で「始めるか」なんて言った。こんなんじゃ、自分がわがままな子供のようだ。臨也は少し恥ずかしい気持ちを抱えながらもまた、袋を勢いよく開けた。
火を点せば、バチバチと音を立てて暗い公園に光がふわりと洩れた。向かい合っている臨也と静雄の顔がよく照らされている。
「火、くれよ」
静雄が自分が持っていた花火を臨也の花火にそっと寄せ、しばらくしたら光が強くなった。
「きれー……」
「ああ」
花火はだんだんと光が弱まってやがてそれは消えた。辺りは一気に暗くなったような気がして二人はすぐに次の花火を取り出して火を点けた。
臨也は、なんとなく多少の気まずさを交えながらも心が温まっていくような気がした。
「最後の、一本だね」
お互い手に取った最後の花火が火花を放ってバチバチと辺りを照らした。消えていくのが悲しくて静雄の顔を見た。すると静雄も同じ気持ちだったのか、臨也の顔を見ている。
「なあ臨也、この後、俺んち来ねえ?」
「……いいよ」
花火を終えて、自然と指を絡めて二人は静雄の家へ向かった。偶然なのか、今日を狙ったのか、静雄の家族は旅行で誰もいなかった。
「相変わらずだね」
久しぶりに中へ上がった臨也はキョロキョロと室内を見回しながらそんなことを言った。
前は毎日のように来ていたから部屋の変化など気にすることはなかったのに、懐かしい香りに包まれて臨也は胸がいっぱいになった。
「俺の部屋、行こうぜ」
「うん」
静雄の後を着いていく。ドアノブに手が掛かり、真っ暗な部屋に入ったところで彼は動きを止めた。
「……シズちゃん?」
「……臨也」
振り返った静雄の顔は、暗闇の中でも分かるほど真剣で臨也は少し驚いた。
「抱いて、いいか?」
その言葉に大きく目を見開き、動揺からか足が動かなくなるた。
「な、なに言ってんのシズちゃん」
「いいの? 悪いの?」
「っいちいち聞くなよ!」
なんで彼はこんなにも自分の調子を崩すのが得意なのだろうか。そんなことを思いながら臨也は静雄に腕を引っ張られベッドに倒された。
「んぅ……!」
いきなり噛み付くようなキスをされて、流されないように臨也は自分から積極的に舌を絡めた。
「ふぁ……」
キスが終わった頃には臨也の目はとろけきっていて、お互い荒く呼吸をしていた。
「ん、しずちゃん……早く触って」
「ああ……」
乱暴ともいえる手つきで臨也の服を上半身、下半身と脱がしていく。
「ねえ……こんなの」
「……? なんだよ」
「シズちゃんも脱いでよ」
「……悪ぃ。んな余裕ねえわ」
「シズちゃ、……やぁ!」
するすると首筋、鎖骨を伝って下りてきた手が胸のピンク色の部分に触れた時、臨也の身体が小さく跳ねた。
「待っ、やっぱ……」
久し振りに感じる快楽に恐怖を抱いて今になって抵抗をしてみるが、静雄は構わず少し反応を示している下半身に手を伸ばした。
「ひゃぁあっ……」
ぶるりと肩を震わせ赤い瞳を潤ませる。その顔は欲情を煽るだけでしかないのに……裏筋に指を這わすと嫌々と首を振っているがもっと刺激するように先端に爪を立てた。
「やあぁああっ!」
透明の液体を零して股を閉じようとしている。
「だめ」
「や、あ、ぁあ、ぅぁ……」
静雄は臨也の足を肩に抱えると、素早くサイドの引き出しからローションを取り出して、よく見えるようになった臨也の蕾に垂らした。
「ぁっ……つめたっ!」
「少しの間、我慢、しろ」
「う……あああ! やだ、痛い、痛いシズちゃん!」
「っく……」
しばらくしてなかっただけあって、指を一本入れただけでもかなりきつかったらしく、臨也はひどく顔を歪めた。
「シズちゃん……やだぁ、痛……お尻怪我しちゃう……!」
ついにはボロボロと涙を流し出して、さすがにここまできて容赦なくするのは気が引けたのかゆっくりと指を抜こうとした。が、
「抜いちゃだめ」
「え?」
「痛む、けど、久し振りだから……仕方ないよ。続、けて」
そんなこと言われても、静雄は臨也の痛みに耐える顔なんて見たくなかった。
「早く」
「……知らねーぞ」
それでも痛みを感じてる本人が求めてるなら、それを拒むほうがいけないだろう。おそるおそると再度指を入れた。
「ぅ……っつ」
しばらくしてスムーズに抜き差しできるようになってきたところでもう一本指を入れた。二本で中を開くように動かして、その時人差し指がある一点を掠めて臨也が明らかに痛みとは違う声を上げた。
「ぅやああん!」
「やっぱ、ここか……」
「や、あ、シズちゃ、そこばっか突かないで……」
「気持ちいいんだろ……? お前のこれ、勃ってるぞ」
「はぁっ……ああ! あ、ああ」
臨也の勃ったものを緩急をつけて上下に扱かう。たまらない快感に声が止まなかった。このタイミングでいけば、少しは楽だろう。静雄は自分のモノをズボンから出し、後孔にあてがった。
「挿れるぞ……」
「や、ああああ……!」
そして一気に挿れてそこからはもうお構いなしに好きなように突いた。臨也の細い腰を掴みギリギリまで引き抜いては奥まで突っ込んで。
「臨也……いざやっ」
「あ、ああ、しず、しずちゃ……ひゃああ」
喘ぎを漏らすその唇。静雄は食らいついた。深く深く、すべてを味わうかのように。
「んー、ん――」
「っ……」
そのまま二人は重なり合って同時に達した。
次の日、歩きずらそうにしていた臨也をおんぶして学校に連れて行き、久し振りに一緒に昼食を食べて二人で下校した。
別れ際、繋いだ手を離すのが惜しかったが、微笑み合って静かに解いた。
夜、臨也の携帯に電話がきた。
「もしもし……」
「……」
「? なに?」
「……お互い、辛くなるだけだからもうやめようぜ」
「…………」
相手は静雄で、内容は臨也にとってやはりそうかというものであった。
顔が見えてるわけではないが頷いて電話を切った。
携帯を手にしたまま窓を開けて顔を外に覗かせるとそこには綺麗な満月が輝いていて、ああそういえば昨日の今日は一緒に花火してたっけ。そんなことを思って悲しいとか思ってなかったはずなのに涙が頬をつたった。
今頃思い出したことは、あの花火は去年静雄と一緒に買ったものでやろうって言いながらもくだらない喧嘩をしてやらず仕舞いだったものだ。
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