静雄視点



それはすごく不思議なことだった。でも違和感はなくて。ただこうなることは当たり前のようにも思えた。

「もう真っ暗だねー」

「だな」

お互い抱き合ったまま海と空を見る。ここをこんなに穏やかな気持ちで見れることにも驚きだ。

「あーあ、どうしてくれんのさ! シズちゃんのせいで、今日帰りたくなくなっちゃったよ」

「はっ、俺もだよ。お前責任取れ」

「シズちゃんが取るんだよ」

「俺は悪くないっつーの」

「ははっ、てかこれどっちも悪くないんじゃない?」

「俺も実はそう思ってた」

くだらないようなやりとりを繰り返して笑い合った。見上げてくる臨也の表情は幼くて、ここから俺を突き落とした奴がこいつとは信じられなかった。

「まだ高校生だってのに……お前のおかげでいろんな体験しちまったぜ」

「良かったね。これからの人生できっと役に立つよ」

「それはない」

誤解や葛藤を生じてすれ違いながらも、今こうして抱き合って同じ風を感じれている。

「っとに、なにがあるか分かんねーよな」

「でも、こうなるってことは元から決まってたんだよ」

「なんだよそれ」

「人はなるべきことにしかならないってことだよ。俺たちが生まれた時から俺たちがくっつくのは決定事項だったんだよ」

「なーに乙女みたいなこと言ってやがる。」

臨也の口からそんな言葉が出てくるのはひどく違和感だ。こいつは運命とか信じそうにない。

「じゃあもしもこの先俺と臨也が別れることになったらそれも決定事項なのかよ」

「そうなるね」

「肯定するなよ。……別れるわけねーだろ」

俺は臨也の頭をうずめるようにして胸に押し込めた。

「そんなこと言って、この先なにがあるか分からないよー?」

「もう十分ありすぎただろ」

「確かに」

俺は臨也の髪を梳いて、臨也は甘えるように胸に擦り寄ってきた。ガラにもなくこの時が一生続けばいいとか、俺も乙女のようなことを考えてしまった。

「あ、いたいたー」

二人の時間を過ごしていたと思ったら、聞き慣れた声がして海に目を向けた。

「静雄くーん! 臨也!」

「新羅!? それに門田まで……手前らなにしてんだよ」

「新羅とドタチン?」

胸元から顔を離して臨也も海に目をやった。そこには夜の海に光る屋形船に乗った新羅と門田が笑いながら俺たちのことを見ていた。

「新羅が、多分ここだとか言って連れてきたんだよ」

門田の発言に俺たちは顔を歪めた。何故分かった。そこでふと俺は今臨也を抱きしめているということを思い出して慌てて離れた。

「あはは、僕たちには遠慮しなくてラブラブしてていいよ。あと場所を何故知ってるかって? 君たちが考えてることくらい分かるさ。ずっと一緒にいるんだからね」

新羅の言葉に呆れて息をついていると目の前の臨也がニヤニヤと笑っているからどうしたと声を掛けた。

「じゃあ、新羅の言葉に甘えて遠慮なくラブラブしよーよ」

「なっ……! なに言って……」

「照れなくていーよ。ラブラブできんだから素直にラブラブしよ」

肩に腕を回して抱きついてくる臨也にドキドキするが、新羅と門田に見られてることでなかなか俺から腕を回せずにいた。
 そこで、門田が顎で臨也を差して俺に合図をしてきた。合図するくらいなら見ないでほしいんだけどな。
 待つような臨也の視線を浴びて、俺は周りは気にせずこいつだけに集中しようと決めて、後頭部と腰に腕を回して唇を寄せた。

「え、シズちゃ……」

臨也との口づけはこれで何回目だろうか。まだそんなにしてないが今回のキスが一番幸せに感じた。触れ合ってる部分がじんわり熱くなって、お互いの体温が伝わってくるのと同時に気持ちも流れ込んでくるようだ。



「……手の掛かる二人だね」

「もう問題起こさないでほしいぜ」

「同意だ。彼らが幸せでいてくれたら僕たちが楽になるよ。……でも、こんな展開になるのは予想外だったな。二人共バラバラになってその内お互い憎しみ合うようになるのかと思ってたからね」

「臨也の相談に乗ってた俺にとっては、離れるってことが逆に違和感だったけどな」

「前に静雄くんに教えたんだけど、愛多憎生なんて言葉、彼らにはいらなかったかな」

「どういう意味だそれは」

「言葉の通りだよ。愛が多すぎて憎しみが生まれる。でも彼らは、うん。幸せそうだね」

「……あいつら見て、安心したぜ」



そんな二人の会話が聞こえるはずもなく、俺と臨也は唇を重ねては離してを繰り返していた。

「シズちゃん」

「ん?」

海の音と夏の終わりを告げるような夜風を浴びて、周りの景色や屋形船の光が輝く中、至近距離で臨也が口を開いた。吐息が掛かって顔が熱くなる。

「大好き」

「……俺も、好きだよ」

そしてまた引き寄せられるように唇を重ねた

よくよく考えたら俺達が過ごしたのはまだ短い期間でそう思ったらこれから先にもっと長い時間あって、きっと毎日が楽しくてすぐに過ぎてしまうだろう。そんな未来に思いを馳せながら俺は心の中で言った。



もう一生離さねえ、と。







1009072221





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