静雄視点



このルートは……と、電車に乗った時に思った。学校帰り、電車、そして乗り換えて……

「ここに来るのも久し振りだねー」

かつて臨也が俺を落とすために使われた東京湾。それからレインボーブリッジ。それがよく見えるレストラン。そこに俺達はいた。

「前もこの席に座ったよね」

「……なんのつもりだよ」

「ははっ、分かんない?」

「分かんねーよ……」

今はもういろいろあったおかげで、臨也のことを理解しているつもりだ。だからこの場所にもわもわとした気持ちを抱える必要もないのだが……一種のトラウマのようになってしまっている。せっかく出掛けるというのにこの場所を選んだ理由が全く分からなかった。

「リトライかな?」

「は?」

「ほら、前はさ、俺すっごく気持ち的に重かったし、だから楽しい思い出に塗り替えたいなあって」

「ああなるほどな……俺もそれはそうだけどよ。なんつーかクるよな。この景色見ると、この後落とされんじゃねえかって思っちまうよ」

冗談混じりに苦笑いしながら言うと臨也も微妙な表情を浮かべて笑いながら答えた。

「ひどいなぁシズちゃん。あの時は悪かったよ。まあさ、だから今日はいい思い出を作ろ」

「そうだな」

あの時のことをこのように笑いながら話せるなんて、こんな日がくるなんて思わなかった。すれ違いばかりでどうしようもなかったが、このような形に収まれて良かった。

「なにか食べ物取りに行こっか!」

「ああ」

沢山の種類が並べられた中、臨也は幅広くちょこちょこと取っていた。それと違って俺は好きな物だけ選んで皿に乗せていく。そして席に戻ったら何故か怒られた。

「シズちゃんデザートばっかじゃん! 主食もちゃんと食べないとだめだよ」

「う……めったに食べ放題とか来ないんだから好きな物だけ選んだっていいだろ!」

「だめー。ほら、パスタ分けてあげる」

フォークに絡めたパスタを俺の口に運んでくる。なんで「あーん」にするんだよ。
 ドキドキしながら口を開けると、パスタの味が口内にふわりとひろがった。

「ねえシズちゃん、食事終わったらあそこ行こうよ」

そうして指差した先はあの時と同じ場所だった。

「いいぜ」

複雑な気持ちであり、でも今また行くことでそれは違う思い出に変わるんだろう。臨也が変えたいと思うように、俺だって変えたかったし、あそこから見る景色は嫌いじゃなかった。



食事を終え、しばらく歩いて着いた場所。違ったのは季節が変わったことにより気温が上がったことだった。
 二人手を繋いで歩く。薄暗い青になってきた空に濃い色をした海がきれいだ。


「確か、この辺だったよね」

臨也が足を止めたとこは、忘れもしない俺が落とされた場所。繋いでいた手を放し、両肘をついて海を眺める臨也に伴って俺も海を見た。

「懐かしいなあ」

俺はこくりと頷いた。あの海の中に、落ちたんだよな。信じられない話だ。そんで、門田が助けてくれて新羅の家連れてかれて。

「ちょっと昔話をしてもいいかな」

海を見つめたまま臨也が言った。なんの話だ、と思いながらもまた俺は頷いた。







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