まず、絵の具で白紙一枚を水色に塗る。その上に水を垂らして今度はそこにオレンジ色を垂らす。そんな空の色をしていた。木々の隙間から洩れる光に照らされながら池袋を歩く。まだまだ暑いな。

「おい、ノミ蟲」

やっぱり来た……周りには大量の人がいるというのに相変わらず見つけるのが早いなあ。後ろを向けばちょうどサングラスを外したとこだったシズちゃんがいた。

「やあシズちゃん久しぶりだね!」

「お前よぉ……ちょっと来い」

「え、やだ」

「んだよ。じゃあなんで池袋来たんだよ」

「仕事ですぅー」

ここ一ヶ月シズちゃんとは会ってなかった。お互いの都合が合わなかったことや、俺は新宿で取引というのが多くて池袋に全く来ていなかったから。

「それって、今からかよ」

「20時から」

「まだ18時だぞ」

「家にいても暇だっからさー」

「じゃあちょっと付き合えよ」

「やだ。なにする気」

多分、やることは決まっている。しばらく会ってないしシズちゃんのことだから、自分でもしないのだろう。溜まりに溜まったそれを体内にぶち込まれるのは勘弁したい。絶対に仕事どころではなくなるだろう。

「あー、じゃあシズちゃん、ちょっとおいで」

「あ? どこ行くんだ」

「いいからいいから」

そうして俺は無視して歩き出す。ついて来ないならそれでいいし、……まあついて来るだろうけど。
 そのまま俺は一度も振り返らず、路地へと入った。

「こんなとこに来て、なにすんだよ」

そこで俺はやっと振り返った。怪訝な顔をする彼に軽く笑いかけ襟を掴んで引き寄せる。

「キス、しようよ」

「……あ?」

「セックスしたら止まらないでしょ。でも久しぶりに会ったのになにもしないって言うのもしらけてるし、せめてキスしよキス」

「……一ヶ月経ってもお前のアホはさは健在なようだな」

「失礼だなー! もう、シズちゃんからしてこないなら俺がする」

「あ、お前なに言っ……」

言葉を言い切る前に唇を塞ぐ。静かに重ね合わせて、10秒くらいしたら離した。

「どう? 久しぶりな俺の唇の感触のは。シズちゃんの唇はちょっとかさついてたね。もー、リップつけとくようにって渡したじゃん!」

「……うるせえよ黙れ」

今度はシズちゃんから乱暴な口づけが贈られる。手首を掴まれて壁に押し付けられ、いろんな角度から何度も何度も何度も。
 その度に、唇を合わせているだけだというのに腰の辺りが痺れてしまう。ずくずくと、甘い痺れが。

「ん……」

また唇を重ねられて。しかし先ほどとは違い優しい口づけだった。安心して薄く口を開いていると、ぬるりとした感触が……これって、うぁ、舌入ってきた。ここまではしないつもりだったけど、その場の空気というのはすごいもので、見事に流された俺はもっと口を開いて受け入れてしまった。
 ぴちゃぴちゃと口の中からいやらしい音が響く。俺は無意識に股間をシズちゃんの足に擦り付けていて、鼻から抜けるような甘い声を絶え間なく零していた。

「ん、ん……はぁ、ふ……」

シズちゃんも乗ってくれて、膝でぐいぐいと刺激してくる。堪らない。そしてもどかしい快楽に微かに開いた目が潤んできた。

「ぷはぁ……は、ああ、ああ、」

やっと口が解放されて自然と声が漏れる。や、ちょっとこれやばい……

「シ、ズちゃん……やめ、ああ! 膝ぁ……気持ちいいよぉ」

足がガクガク震えてきて、なにかに縋り付かなければどうにかなってしまいそうで目の前の首に腕を回した。

「あ、ああ、シズち、ゃ……あああああ!」

びくびくと全身が震えて、一際高く喘いで俺は服を着たまま達してしまった。ああ……やってしまったな。散々シズちゃんのことを言っていたが、俺だって我慢をしていて、欲求不満だったんだ。

「は、ぁ……ね、シズちゃん、俺、仕事が……」

「はっ、もう諦めろ。まだ、序盤だぜ?」

その言葉に期待で足から爪先まで電流が走ったような感覚に陥った。無造作に携帯を取り出し仕方なく、今回の取引先に連絡を入れた。

「今日は……別の大切な用事が入ってしまいました」

通話が終われば、携帯を落として俺達はずりずりと地面へと沈んでいった。







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