静雄視点



倉庫から、臨也とバラバラで出されて、俺はあてもなく歩いていたのだが、臨也からの電話があって、出たい気持ちに駆られて、でも出てはいけないとストッパーがかかる。ここで臨也と関係を取り戻してしまえば、また危険な状況にさらされることは目に見えていた。
 すると、次に新羅から掛かってきて、臨也の出て行った方向を思えばきっと今一緒にいるのだろうと勘付いて、無視した。

それからも何度も何度も掛かってきて、さらには門田からもきた。これは出ないとやみそうにない。仕方なく、一番話しやすい門田の電話に出た。

「もしもし、門田」

『静雄……お前、臨也が』

「ああ分かってる」

『……なんであいつの電話にでないんだ。新羅も、心配してたぞ』

「悪かった……。なあ門田……」

『なんだ?』

「もう俺の前で臨也の話はするな」

『…………は?』

なんだこれ。
ちくしょう自分で言ったくせに心臓が痛みやがる。

臨也のことは。完全に忘れる。俺の記憶の中から抹消する。それがあいつのためになるんだ。臨也のことは考えないし話すつもりはない。俺はそれだけ言って電話を切った。

「チッ……」

やっぱり帰る気にはなれず、池袋を歩き回る。もしかしたら家に来られるかもしれない。それも考えて俺は今日は外にいようと決めた。

その時、

「あっ……!」

横の真っ暗な路地から声が聞こえて、なんだ、と思い目を遣ると、その姿に硬直した。

「い、ざや……」

やばい。今迫られたら逃げられる気がしない。そう考えていたが、俺は臨也の様子がおかしいことに気付いた。

「臨也! お前、なにしてんだよ!」

思わず駆け寄り、膝をついて抱き上げた。

「シ、ズちゃん……?」

だが、俺の名前を呼んでから静かに目を閉じた臨也は浅い呼吸しかしておらず、意識を失ってしまったらしい。

「おい……おい!」

身体から血がサーと引いていくのが分かる。どうすればいいんだ。こういう時に新羅がいれば……

「待ってろ! 今新羅呼ぶからな!」

携帯を開き俺は即刻、新羅に連絡した。



「……うん。今は大人しく眠ってるし、平気だよ」

「そうか……」

あの後、セルティのバイクに乗ってきた新羅がその場で応急処置をしてから家に来た。俺は帰ると言ったのだが、それは許さないとでも言うようにバイクに乗せられ、連れて来られたのだ。
臨也は今、新羅の部屋で眠っている。俺たちはリビングのソファーに向かい合って座る。

「静雄くん、臨也はね、奴らに痺れ薬のようなものを飲まされていたんだよ」

「え……」

そんなの知らなかった。こいつ、そんな状態であんなに叫んだりしてたのか……

「それなのに、勝手に外に出てっちゃって……多分静雄くんを探すためだけどね」

「…………新羅、やっぱり俺帰る」

「臨也が起きるまでは待ってやりなよ」

「いい。帰る」

「君が良くたって臨也はよくないんだよ」

どっちも一歩も譲らない。そんな感じだった。しばらく睨み合って、そうしていると新羅がため息をついた。

「まったく……じゃあせめて手紙でも……」

「だめだ。残っちまう」

「……臨也の気持ちになってくれ。君も同じような体験を前にさせられたんだから分かるだろ?」

「けどよ……もう臨也を危険な目に遭わせたくねえんだよ。俺が関わったら、また臨也に辛い思いさせちまう……」

「君はなにも分かってないね」

「あ?」

しつこく突っ掛かってくるこいつにただでさえイライラしていたのに、そんなこと言われてムカついて思いっきり音を立てて立ちあがった。

「奴らはこうなることを狙ってたんだよ」

「何言ってんだてめえ……」

「静雄くんにとって臨也は、それこそかけがえのない存在になりつつある。それはもちろん臨也にとっても。お互いにその存在がいなくなるということは、かなり痛手だ。二人が傷ついて、立ち直れなくなることが奴らの狙いだよ」

「っ…………」

「実際今、臨也はあんな感じで、君も頭の中めちゃくちゃだろ?」

「…………」

「奴らにまんまと嵌められていいのかい?」

新羅の言葉は、俺にとって重かった。それが身体にも影響したようにボスンと音を立ててソファーに沈み直した。そんなこと言われたって、これで戻ったとしてもまた同じようなことがあって今みたいな展開になるんじゃないのか? どうせ繰り返すなら、まだ今のうちに終わらせたほうが……

「君は臨也を守る自信もないのか」

「なっ……!」

馬鹿にするように笑って揶揄するような新羅の口調に頭に血がのぼる。

「んなわけねーだろ! 俺はあいつを守りてえから別れるんだよ」

「ほらまた言い訳。はぁ。奴らに向かって対抗する気はないんだ。奴らに従ってそれで守ったつもりでいるの?」

「っ……んだよみんなして……門田も、お前も、そうだよわりぃかよ。俺はあいつを守るために 逃げんだよ。わりぃかよ!」

俺は、そんなこと言いながら、本当は立ち向かって守る自信がないだけで、
倉庫で臨也がナイフを突き立てられて、首から少し血が流れているのを視界に収めた時、俺は一歩も動けなかった。怖くて。力があるくせに、それが使いきれなくて、この力はなんの為にあるんだ。いっそのこと、力がなければ楽だったのに。

「シズちゃん……」

はっ、と息をのんだ。新羅の視線につられてゆっくりと顔を後ろに向けると、そこには臨也が立っていた。







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