会ったら喧嘩、喧嘩、喧嘩。まったくどうしようもない関係だ。
それは学生時代からのことで。今頃どうこうできるような問題じゃない。
それでも一度だけ、俺はシズちゃんとひとつの過ちを犯したことがある。



「シズちゃん、ちょっとおいでよ」

放課後、窓の割れた教室。荒れた机、椅子。血を流して倒れる人々。

「……んだよ」

なにかに耐えるように拳を握りしめてこちらを見ようとしない。ここまでやっといて、いまさら後悔か。

「……まーた人を傷つけちゃったね」

まあこれも全部俺が仕向けたことだけど。それを知らないシズちゃんは、多分、俺をただのうざい奴と思っているだろう。

「……用がないないら出てけ」

「それがあるんだよなあ。おいでって言ってんじゃん」

「ふざけんななんで俺がてめえに従わねえといけねえんだよ」

「はは。用があったってこれだ」

「…………」

「ついてきて」

踵を返して血生臭い教室を出る。後ろからはシズちゃんがついてくる気配がした。

「どこに行くんだよ」

「図書室」

簡潔にそう答えるともうなにも言わなかった。俺がこれからなにをしようとしてるかなんて、知らないだろう。

「ちょっと待っててね」

適当な理由をこじつけて、職員室から貸りた鍵を差す。中に入って、内側から鍵を掛け直した。放課後にわざわざ来る人なんていないだろうけど、一応用心に。

「ねえ、シズちゃん」

ガラリとした図書室の中、奥の方まで歩く。窓際で止まってそこで振り向いた。

「なんで俺のこと嫌いなの?」

「気に入らねえからだよ」

「理由になってないよー。……だからさ、理由探せばいいと思うんだ」

シズちゃんは相変わらず俺を睨んでいた。思わず苦笑いがこぼれる。

「俺のこと殴ったって、すっきりしないんでしょ? じゃあ、違うことしてみればどう? 理由見つかるかもよ?」

「なに言ってんだてめえ……」

「とりあえず、触ってみなよ」

襟を掴んで引き寄せ、顔を近づける。シズちゃんはというといやそうに顔を歪めた。とても失礼なことだ。まあ俺だってこんなに近寄ってるだけでも吐き気がするけどね。

「男とヤるのって抵抗ある? 俺はあるよ。はは、だって気持ち悪いもん男なんて。シズちゃんなんて特に。 でも、いいよ。今回は協力してあげる。殴るのはだめだからね」

「はあ?」

俺は学ランを脱いで、赤いシャツを片手でたくし上げた。

「っ…………」

「気持ち悪い? だよねえ。俺、男にしてはきれいな身体してると思うけど」

「ふ、ざけんな! てめえなにがしてえんだよ!」

「至近距離で怒鳴らないでくれる? 耳が痛む。……ほら、触ってみなよ」

トン、と窓に寄り掛かり、襟を掴んでいた手をシズちゃんの手に移動させた。
そして、その手を俺の肌に這わせる。

「……どう? 俺に触ってみて、なんか気持ちの変化は?」

「知らねえよっ!」

「そっかあ……じゃあもうちょっと触ってみようか」

「いい加減にしろよ……殴るぞ」

「言ったはずだよ。殴るのはだめだって」

「んなの関係ねえ!」

「これはさぁ、シズちゃんのための行為なんだよ。殴ったって、いつもと同じ。すっきりしないんでしょ? もう俺も喧嘩で追いつめられる度殴られんのはこりごりなんだよ。俺が嫌いな理由でも見つけて、違う方法で解消してほしいの」

「……だからってなんでこんなやり方で見つけようとすんだよ」

「んー……殴るのと反対のことだから?」

そして、腹や脇の辺りをさまよわせていた手を、上へ上へと導き、色づく部分へと触れさせた。

「……男でもさ、感じるらしいよ。ここ」

「だからなんだってんだよ……」

「ちょっと、撫でてみてよ」

俺は掴んでいた手を放し、動きをシズちゃんに任せた。いきなりのことに戸惑っていたが、小さく息を吸って指先でそこに触れてきた。

「ぅ……」

「……どうなんだよ」

「ん……ちょっと痺れる感じ。……もっと触ってみなよ」

「……」

シズちゃんは、無言でまた、触れるだけの行為をしてきた。そのもどかしさに俺はまた指示を出した。

「舐めて、みたり」

「は? ……」

「てかもう、好きなようにやっちゃていいから。シズちゃんの何かが変わるまで、好きにしていいから」

「……お前、意味分かんねえよ」

「シズちゃんに分かってもらおうとか思ってないし」

こんなこと言ったら殴られるかなあとかそれなりの覚悟はしてたけど、予想に反してシズちゃんは俺のふくらみもない胸に顔を寄せてきた。

「ん……」

触れていただけの指は、少し立って赤みが増したものを摘むようにして、ぐりぐりと動かし、もう片方では舌で舐められて、背筋がぞくぞくした。……あは、なに俺。本来の目的が分かんなくなってきちゃった。というかそもそも、本来の目的ってなんだっけ? 俺自身、なんでこんなことを提案したのか実はよく分からなかった。

「ぁ……は、あ、ぁあ……」

触られて、舐められたことにより高まった性感が、下のほうまで伝わってきた。不意にそれを膝で押されて身体がビクリと跳ねる。

「あ! あ、やめ……押すなっ……!」

「お前が勝手にしろって言ったんだろ……っ」

心なしか、シズちゃんの息は荒くなっていて、顔も赤いように思えた。

「そうだけどさっ……あ、やぁ……!」

服越しの快感はすごくもどかしかった。仕方なく自分でベルトに手をかけてズボンと下着を一気に下ろした。

「なにしてんだてめえ……」

「俺にだって我慢ってものがあるんだよ……早くさっきみたいにしてよ」

「お前言ってることがめちゃくちゃだな……」

そう言いつつもまた膝でそこを押してきた。すでに先走りは溢れていて、シズちゃんのズボンを濡らす。

「ん、ん……は、はぁ……」

「ふざけんなよ、一人で感じてんじゃねえよ……」

「え……?」

そう言うと、俺と同じようにズボンと下着を下ろしたシズちゃん。そこから出てきたものは、完全に反応していて背筋になにかが走った。なんだよシズちゃん……俺なんかに反応しちゃってんのかよ。

「や、あああ……っ!」

そこで襲ってきたすさまじい快感。下半身に目を向けると、シズちゃんのと俺のがぐちゅぐちゅと音を立てながら擦りつけ合っていて、その光景に喉が鳴った。

「や、やだぁ……シズちゃん! あ、あぁ……やめ、気持ちいいか、ら……」

「それならいいじゃねえかよ……なにがやなんだよ……」

「気持ちよすぎるんだよっ……! や、あぁあ……」

「やべ……」

さらにシズちゃんは、二つまとめて手で上下に扱きだした。なにこれ……やばい、やばい……もう、

「や、だめ……イっちゃう……もうイっちゃうからぁ……!」

「俺も……っ」

足がガクガクと震えて、うまく立ってられなくて目の前のシズちゃんにしがみつく。シズちゃんは空いてる片手で俺の頭に腕を回し、たくましい胸に顔を押し付けるようにされた。

「あ、あああああ!」

「っう……」

頭が真っ白になる感覚。なにも考えられない。俺はほぼ同時にシズちゃんとイった。

そこから、俺の意識は途切れた。



「ん……」

「……起きやがったか」

「……あー、そっか。俺とシズちゃん……ここどこ?」

「図書室だ」

さっきまではオレンジ色の光が差し込んでいたというのに、今は真っ暗だった。周りもよく見えなくて、シズちゃんがどこにいるのかさえも分からない。

「……なにか変わった?」

とりあえず、それを聞いてみた。だが、意味はなかったようで、

「なんも変わんねえよ」

そんな回答が返ってきた。
 だんだんと目が慣れてきたところで、ふとシズちゃんの掌が俺の額に触れた。

「……なに……」

「なんでもねえよ」

慈しむようにして優しく置かれた手は、頭に移動して俺の髪を梳いた。

「満足しないならさ、」

人を殴った後にした行為。そのせいで行為中シズちゃんの胸元に顔を押し付けられた時、そこからはたくさんの誰かの血の臭いがして俺は確かに気分が悪くなった。

「満足するまで何度も何度も抱けばいいよ。今度はいれたっていいし」

「……それで手前になんのメリットがあんだよ」

「メリット、か。とりあえずさ、抱く代わりに、殴らないでよ。それだけで俺はいいよ」

「…………」

こんなことしたってなんの意味もないのは分かってる。俺たちは、交わってはいけない存在なんだ。きっと、交わることだって不可能なんだけど。それでも

「またシたくなったらさ、いつでも誘えばいいよ。もう俺からは誘わないから」



そして、それからシズちゃんから誘ってくることはなく、もちろん俺からも誘わず、関係は一瞬のものとして終わった。でも俺はあの時のことを忘れてないしシズちゃんだって多分忘れてない。

あの時のことを思い出すたびにこの胸に込み上げてくるものの正体なんて知りたくもなかった。







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