「ん……」
目が覚めた時、空はすでに明るかった。ベッドサイドのテーブルに置いてあるデジタル時計を見ると、4時30分と表示されていた。寝返りを打つと、彼の姿が視界に映った。ああ、忘れるわけない。昨日、俺はシズちゃんと
「…………」
ふわりと金髪を撫でる。布団から見えるシズちゃんの肩に、ふと自分の姿を見てみると、裸だった。お互い何も着ずに眠ってしまったのか。思わず苦笑いが洩れた。
「……シズちゃん」
名前を呼んでみる。自分の中がすごく温まるのを感じた。すると、ゆっくりと閉じられた瞼が上げられて、俺を映した。
「……いざや?」
「おはよ、シズちゃん。ごめんね起こしちゃって」
「いや……俺たち……」
「……うん」
お互い見つめ合って、照れ臭そうに笑った。これって、すごく幸せじゃない?
「まだこんな時間だから新羅たち起きてないだろうし、散歩でも……っつ!」
ベッドから出ようと上半身を起こしたら腰と言えないようなところに鈍い痛みが走った。……初めて経験するけど、こんなに痛むものなんだ。
「おい大丈夫か!?」
シズちゃんが慌てたように起き上がって俺の腰をさすってくれる。
なにが、化け物だ。こんなにも優しい手つきで俺を労ってくれているというのに。
「……ごめんね」
「あ? なんで謝んだよ。俺が、その……がっつきすぎたせいだし……」
「……そんなことないよ。もう平気」
そっとシズちゃんの手を離して俺は今度こそベッドから出た。やっぱり腰の痛みは半端ないがとりあえず着替えないと。バッグの中を漁っている間、シズちゃんはやり場のないように目線をさまよわせていた。
「シズちゃんも、着替えれば? クーラーの効いた部屋で裸だと風邪引くよ」
「あ、ああ」
そして私服に着替えた俺たちは、その後ホテルを出た。海辺を二人で散歩する。
「人全然いないねー」
「まあまだこんな時間だしな」
サーファーの人がちらほらいるくらいで、ほかには同じく早朝の散歩の人が少ししかいなかった。緩やかな波の音と蝉の鳴き声がする。海風が心地好い。
「臨也」
「ん?」
「……その、後悔とか……」
「してるわけないじゃん」
「そっか。……俺も」
安心したように笑い、少し小さめな声で言ってくれたその言葉が嬉しくて、そっと手を掴んだ。
「……!」
「いいでしょ?」
顔を背けながらも強く握り返してくれてまた俺は嬉しくなった。
「海入りたいなあ」
「我慢しろ。後で入れるんだから」
「俺、腰痛めてるし入れないよ」
「……ったく、」
呆れたように息を吐いた後、俺の膝裏に手を添わせて、なんとそのまま持ち上げてきた。
「なっ……!」
これは、所謂お姫様だっこというものだ。かああ、と顔が熱くなる。
「な、なにすんの!」
「海入りてえんだろ? てか、さっきから足震えてんの分かってんだよ。おとなしくしとけ」
「っ……」
まさかバレてたとは。俺としては普通に歩いていたつもりだったが、痛みはごまかせなかった。シズちゃんは俺をお姫様だっこしたまま海へ歩きだした。こんな体制になっても、彼の右手と俺の右手は繋がれているということに喜びを感じた。
「……シズちゃん、服濡れちゃってるよ」
「構わねえ」
ザブ ザブ 波をかき分けてどんどん深くへ歩みを進める。それがなんだか、変な気持ちになった。このまま歩き続けたら沈んでしまいそうに思えた。
「シズちゃん」
「…………」
「ねえ、シズちゃん」
「……」
彼は腰くらいまで浸かったところで、ピタリと動きを止めた。
「……もう、ここまででいいよ」
「……ああ」
繋いでいる手はそのままに、もう片方の手を彼の首に回した。
「わりぃ」
「……なんで謝るの」
「もう少し歩いたら、沈むとこだったな」
「別に沈んでも良かったかも」
「俺もそう思っちまった」
その時、ばしゃりと近くを泳ぐ人の水しぶきが俺たちにかかった。
「……」
「……ふ、あはは、風呂入り直しだね」
「だな」
吹き出すように声を出して笑って、それから、目を合わせて静かに唇を重ねた。
もう二度と、彼と離れたくないと思った。
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