ホテルに着いて、チェックインを済ませ、それぞれの部屋に入った。別れ際ドタチンに助けてと目線を送ったのだが苦笑いを返されて終わった。いや、この展開にもってきたのは紛れもなく俺なんだけどさ……
ガチャリ 扉を閉める。部屋にベッドが二つあることが救いだった。シズちゃんは荷物を部屋の隅に置いて、ごそごそと中を探っていた。
「お、俺シャワー浴びてくるね!」
「あー分かった」
シズちゃんは一度もこちらを見ずに軽く答えた。なんか、昼食の時からそうだったけど対応が冷たいような気がする。そもそも、俺たちが一緒にいる時点でおかしいんだよね。シズちゃんの中で俺はひどい奴なんだろうし、まあ実際ひどい奴だけどさ。
俺がこんなにシズちゃんのことを意識してるなんて思ってないだろう。
「はー」
ジャー。流れるシャワーを頭から浴びる。汗が流れて気持ちいい。
自分の身体を見て思う。ガリガリだなあ。海で見たシズちゃんの身体を思い出す。しっかりとついた腹筋。だけどムキムキってわけじゃなくて見栄えよくて。それにたくましい腕。俺とは全然違うな。
キュッと蛇口を回してシャワーを止める。そこで気づいた。替えの服と下着を持ってきてない。どうしよう。とりあえず備え付けのタオルで身体を拭い、バスローブもあったので身を包む。よし。この格好で出て、シズちゃんがシャワーを浴びてる間に下着を穿けばいっか。
「上がったよー」
なんともなかったかのようにベッドルームに入ると、シズちゃんはベッドの上に寝転がって携帯をいじっていた。
「ああ。じゃあ俺入……」
「? どうしたの」
起き上がって俺に目を向けたシズちゃんは眉間にシワを寄せた。え、俺なんか変?
「……なんでもない」
すっ、と目線を逸らして、すたすたと早足で歩きバスルームへと入っていった。
「……なに」
なんだったんだ。まさか下着を穿いてないのがバレたはずもない。あ、下着穿かないと。
水音がして、シズちゃんがシャワーを浴びてるのを感じさせて何故だかドキリとした。こんなに音って伝わってくるんだ。
シズちゃんは10分くらいで上がり、髪を拭きながらバスルームから出てきた。黒の短パンに白いシャツという楽な格好だった。しまった俺もシズちゃんがシャワー浴びてる間に着替えるべきだった。バスローブとかなんかやだ。
シズちゃんはまた俺を見ずにベッドにどかりと座った。
「俺、もう寝るから」
ぽつりとそう言ってごそごそと布団にもぐっていた。なんだか俺はすごく虚しかった。背を向けているシズちゃんに一言声を掛けた。
「……なんか冷たくない?」
ギクリとした様子で、でもこちらは向かずに答えた。
「別に……」
「嘘だ。なんで? 俺が嫌いだから?」
「ちげぇよ」
「あのさあ、優しくしたり冷たくしたりさ、そんな気分的にコロコロ対応変えられたら困るんだよね。嫌いだったら始めから優しくなんてしないでよ」
「だから違うっつってんだろ!」
シズちゃんがいきなり怒鳴りつけるように言ったのでがびくりと怯んだ。なんで俺がいけないみたいなことになってんの。身体を起こして俺と目を合わせたシズちゃんは言った。
「お前、全然分かってねえよ」
「……なにが」
「俺の気持ちなんて知らねえくせに」
「それを言うならシズちゃんこそ……俺の気持ち知らないくせに……」
ああやばい。なんか泣きそう。シズちゃんの気持ちなんてもう分かってんだよ。それなのになんでシズちゃんは俺がなにも理解してないみたいに言うの。
「じゃあお前の気持ち言ってみろよ」
「……やだ」
「言わなきゃ分かんねーだろ」
「分かんなくたっていいよ」
「じゃあ俺は言う」
「なに」
やだ。シズちゃんが近づいてくる。ベッドに座って足を垂らしてる俺の目の前に屈んで、俺と目線をぴたりと合わせて、吐息が掛かるような距離で、
「やっぱ……お前のこと忘れらんねえんだよ」
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