「だって、お前、……自分で言うのもなんだけどよ、俺には飽きたんじゃねーのか」
「…………」
真っ直ぐに見てくるその視線が痛かった。今頃になってそんなことを聞かれるなんて。無視された時から、彼と俺のあの短い日々は全てなかったことになっていたかと思っていた。だから、なんでそんなこと。
「……臨也」
「そうだよ」
「…………」
「君にはとっくに飽きた。けど、ここで延々と一人で解けない問題をやっているのをほっといて明日先生にそれが知られて怒られるのは面倒と思ったからだよ」
自分で言っていて意味が分からなかった。なにを言っているのだろうと疑問を持った。理由を無理矢理こじつけているとしか思えない。
「……そっか。だよな」
フッ と彼が、困ったように笑った。俺はこれ以上口を開いたらなにを言ってしまうか分からなかったので、プリントを奪って、できたとこまで丸つけをしてやった。
「終わったー!」
「お疲れ様。やればできんじゃん」
10時過ぎ、彼は俺のサポートにより全問正解でプリントを終えた。すごく疲れた。途中変なことを言い出すものだから気まずくなってしまったし。まあいい。終わったならとっとと帰ろう。なんとなくこの空間に居続けたくなかった。椅子を元の位置に戻して教室を出ようと足を進める。が、彼もなぜか隣に並んで歩いてきた。
「……なに?」
「帰んの」
「それは分かるよ」
「……一緒に帰ったらだめか? どうせ途中までだし」
「……別に、いいけど」
君、ついさっきなんて俺に近づこうとすんだよとか聞いてこ、なかったっけか。俺はてっきり近づくなって遠回しに言われたと思ったのだが……そうではないらしい。
「お前、夏休み中どっか行きたいとことかあるか?」
「え? ……海とか」
「じゃあ行くか」
「……ええ!?」
な、なにを言い出すんだ。近づく、どころか遊びに行くって。今まで散々無視してきたくせしてなんで急に。
「今日の礼、してえからよ」
ああなんてこった。こんなことになるならプリント手伝うんじゃなかった。誰が手伝うなんて言い出した。俺だ。なんでそんなことを言った。それは……
「…………」
どう返答しようか、答えかねていると彼はしまったというような顔をした。
「あ、わりぃ。二人とか、おかしいよな……新羅と門田も誘うか」
「あ、いや、そういうわけじゃなくて……」
なんで否定してんだ。俺。
「……うん。行こっか。海」
そして行くと賛同してしまうなんて。
「よし。じゃあ日にちとか時間決めねえとな。あ、門田と新羅は……てかお前、門田って知らないか」
「んー、名前だけは知ってるよ。いいよ誘っても」
「分かった」
こうして、俺は再度、彼との関わりを取り戻してしまった。そのきっかけを作ったのは、やっぱり俺だ。
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