遠くからサイレンの音がする。

俺たちがこうして寄り添い合い、眠りにつこうとしている時にだって、他ではいろいろなことが起こっている。ここでは、こんなにも穏やかな時が流れているというのに別のとこではとんでもないことが起きたりしていたり。ここではこんなにも愛し合っているのに別のとこでは誰かが別れ、出会っている。
それは周りから見ても同じことで。誰かに穏やかな時が流れている時、俺は取引をしていて彼は借金取りをしていて。誰かが愛し合って幸せな気分に浸っている時俺は一人パソコンを打っていて、彼は一人カップラーメンでもすすっていたりする。全く笑える話だ。時間は誰にでも平等だがその中でしている行動は誰しも違う。不平等だ。誰かが幸せなのに誰かが辛い思いをしているだなんて。きっとそう思うのは辛い思いをしている側だけだ。幸せな方は、幸せなのだ。自分の幸せを手放して辛い思いをしてる人に合わせるなんてことはない。だって幸せなのだから。
俺だってもちろん。俺が楽しければいい。俺だけが幸せでいればいい。当たり前のことだ。それが俺。

「うるせえな……」

「……ね。眠れない」

彼だって。サイレンの音に誰かは焦燥や悲しみを乗せているのに、それを、うるさいで一蹴してしまう。ひどい人間だ。
真っ暗で、ここは池袋にあるラブホで、大きな窓に掛かるカーテンを開けっ放しにした部屋の中に、ポツンと壁沿いのど真ん中に置かれたベッド。そこに俺達は布団も掛けずに抱き合っていた。街の光と月の光がちょうどいい。

「シズちゃん」

「ん?」

「んー」

首に腕を絡めてぎゅっと抱き着く。シズちゃんは愛おしむように俺の髪に唇を落とした。
痛んだように見えて柔らかい金髪が顔に当たって気持ちいい。
はむ。 その髪を唇で加えてみる。

「いざや」

「なあに」

すぐに口から離してシズちゃんの顔を見上げる。とても、落ち着いた表情をしていた。落ち着いているというか、眠そうだった。

「おやすみ。シズちゃん」

くしゃ。と優しく髪を掴む。梳くようにして撫でていけば気持ち好さそうに目を細めて、静かに閉じた。

そっと首から手を解いてゆっくりと布団から抜け出した。真っ裸だったことに気づき、適当に落ちていたシャツを拾って羽織った。
バルコニーまで移動して、窓に映るシズちゃんを一瞥してから、開けた。

ポケットから煙草を一本と、ライターを取り出す。夜の街を眺めながらそれに火を点けた。

「苦ッ……」

少しむせて、くるりと振り返る。
街をバックにして室内にいる彼を見据えた。

世界でどんなことが起きてようが、煙草が苦かろうが、俺の視線の先にシズちゃんさえいれば、それでいいと思った。







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