「なに……これ」

夏休み2日目、俺は8時40分から始まる補習に、彼に会わないようにと8時に来た。もちろん彼はいなくてほっとしたがそれよりも……
どうしよう。帰ろうかな。だってこんなの、心の準備が、

「あ」

ガラッ よし帰ろう。と決め教室の扉を開いたら、扉の先には彼がいた。
二人で目を真ん丸にして驚く。が、彼はすぐに目を逸らして教室の中へ踏み出した。

「……?」

俺は静かに教室の扉を閉めて、彼が見てる黒板を見た。
「先生出張のため、プリントをやって教卓の上に提出」
そこには、そう書かれていた。

「…………」

しばらくの沈黙が流れる。彼は、教卓からプリントを一枚取って席に着いた。

「チッ……」

面倒くさそうに筆箱からシャーペンを出し、問題を解き始めた。
何かしなければと、俺も、プリントを取り自分の席に着いた。



しばらくして、俺は全問解き終わった。
再度教卓まで歩き、解答用紙を取った。チラリと彼を見たら、全然進んでいなかった。……これは、いつ帰れることやら。
俺は自分のプリントの丸つけを終え、荷物を持った。
帰ろう。と思った。だが、固まってる彼の姿を見て俺の口からは自然と言葉が洩れていた。

「手伝ってあげようか」

彼は、びくっとして、ゆっくりと振り返った。

「手伝って、くれんのか」

少し遠慮がちに、控え目な声で問い掛けてきて、俺は小さく頷いた。彼は戸惑ったように視線をさまよわせてからぽつりと、

「頼む」

と言った。



椅子だけ彼の傍に寄せて、俺は問題に指を差して丁寧に説明する。

「あ? 今のとこよく分かんねえ……」

「じゃあもう一回言うよ?」

こんな展開になるとは。予想外だ。しかしシズちゃんは飲み込みが早かった。これならあと30分もなく帰れそうだ。でも、この空間が終わってしまうのも嫌で、複雑な気持ちでいた。

「うん。正解。次の問題にいこうか」

「……なあ臨也、」

「ん?」

今までとは違う雰囲気で話掛けられ、何故か動揺してしまった。というか名前呼ばれた……久しぶりだ。

「なんで、俺に近づこうとすんだよ」

「っ…………」

びっくりした。そんなことを聞かれるだなんて。怪訝な目で彼を見上げると、とても真剣な眼差しをしていた。

「な、んでそんなこと、聞くの?」

「…………」

バクバク バクバク
心臓の音が止まなかった。







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