ミーン ミーン
蝉の鳴き声が響く。
「あぢー……」
ボロいアパートの一室、俺は地面に転がっていた。布団の上は暑い。すぐにシーツが温まってしまう。それならまだ畳の上の方がマシだった。
夏休み、普通高校生は遊びやらバイトに明け暮れているだろう。だが、俺はバイトもしてないし遊ぶような友達もいない。俺だって高校生なんだ。青春らしいことをしたい。くそ。リア充爆発しろ。……いや、俺にだって一応彼女はいる。ん? 彼女? 違うあいつは男だ。なんて言えばいいんだ。そんなことはどうでもいい。
あいつを誘ってどこかに行こうか。それは何度も考えたが場所が浮かばなかった。あいつ日焼けすんの嫌。夏休みは引きこもりになる。とか言ってたし。
それなら俺が家に行ってやればいい。が、なんか、なんつーか、……エロいじゃねーか。だって二人きりだぞ! ああでもそろそろそういうことしてもいいよな……入学して一目惚れしてすぐ付き合って、今までしたことと言えば帰り道で手を繋いだ。あと、別れ際にキスをした。も、もちろん触れるだけの。
……え? そこまでだけどなんかおかしいとこでも。どこの中学生だと?
「うるせぇ黙れっ!!」
ツー ツー
……良かった。壊れてない。
「なんだよ悪ィかよ。童貞で何が悪い。そこまでは言ってないか。でも絶対新羅の奴遠回しにそう言ってやがったうぜぇうぜぇうぜぇ……」
ミシッ 携帯を握る手に力が入った。やべぇ壊す。
と、そこで切れたばかりの携帯が再び鳴り出した。新羅……
「んだよなんか文句あっかよ!」
「うるさーい! 何なになんなの!」
「……あ? いざや?」
新羅と決めつけて出たが、相手は俺の彼女……彼男? だって彼氏は俺だから他になんと言えばいいんだ。ああそれはどうでもいいんだった。それよりも何故臨也。
「もー。いきなり怒鳴らないでよ失礼だなあ。ねえねえシズちゃん暇? だよねえ暇に決まってるよね。じゃあさ……」
「おい。勝手に話を進めるな」
「だって暇でしょ?」
「くっ……」
こういう時に予定がある。と言えればどんなにかっこいいことか。生憎俺は超、暇してたとこだ。
「……なんだよ」
「今から俺の家来ない?」
「ぶはっ」
ついさっき言った。エロい。その誘いを平然としてくる臨也の言葉に俺はいちご牛乳を吹いた。
「な、なななんで?」
「あのね、今さっき新羅からメールがあって、シズちゃんのこと家に誘ってやれって。ちょうど俺も暇だったし」
あの眼鏡野郎……! ぐしゃりと音がして、苺牛乳のパックが潰れた。少ない金でせっかく買ったのに……
「いやでも二人っきりで密室っていうのは……」
「二人っきり? なに言ってんの妹もいるよ」
「え」
「あ! シズちゃん妹の相手してやってよ。シズちゃん体おっきいからきっと喜ばれる」
おっきい。その言葉が卑猥な意味に聞こえてしまったのは俺だけではないはず。なんだよその言い方。おっきい? シズちゃんのおっきくて口に入りきらないみたいな言い方するんじゃねえよ。
「どうする? 来る? 来ない?」
「い、行く!」
いろいろ考えときながら、やっぱり臨也には会いたいわけで。久しぶりに会うな。夏休みに入ったのが二週間前だからそれ以来一回も会ってねえ。二人っきりじゃないならエロいことにもならないだろうし! でもちょっと残念な気が……いやいや、これでいいんだ。うん。今はまだ健全な付き合いをするんだ。
「……てか、新羅に言われたからって言うのは建前で、ホントは俺がシズちゃんに会いたいだけなんだけどね」
「……ん?」
今、あれ? 幻聴らしきものが聞こえたぞ? なんだこの俺のための幻聴は。素敵すぎる。
「じ、じゃあ後でねっ!」
「いざ……」
ツー。電話は切れてしまった。あの臨也の動揺したような声……もしかしてさっきの言葉は幻聴じゃなかった?
「……マジかよ」
俺はスエットにTシャツというだらしない格好のまま家を飛び出した。自転車に鍵を差し、さあ! 出発する。
暑かった。太陽はジリジリと俺を街を焼いていて、自転車の座るとこも暑かったけど気にしてらんない。
俺も青春してるな。うん!
早く会いたい。もう会える。
臨也の家まで自転車を飛ばしていく!
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