新羅視点



「臨也がさ、無断で早退しやがって」

放課後、一人、帰ろうとしている静雄くんの背後から声を掛けた。
予想通り、というかまあ、やはり反応は薄かった。振り向いたその顔は何も考えていないように見えた。

「そのせいでさ、俺が注意受けちゃったよ」

あーあ。と困ったように吐く。静雄くんは気のない返事をして、小さく言った。

「俺……臨也のこと、止めるわ」

「……それは、好きになることを止めるってこと?」

「…………ああ……」

たっぷりと間を取って答えられた言葉に、僕は表情を崩さなかった。所詮は他人事だ。セルティ以外に興味はない。それでも気にかかってしまうのは少しばかり不器用な二人に同情してるからだろう。

「なんで? 屋上で何かあった?」

「……まあ、な」

朝、静雄くんからメールをもらった。屋上にいるから。臨也に伝えとけって。僕も面倒な役を買ったものだと少々呆れた。そのことを思い出しながら顔を前に向れけば夕日がそこら一帯をオレンジに染めていた。

「そのことについて深く追求するつもりはないけど、一応聞いとこう。どうして諦めるの?」

「あいつは俺のことを全く好きじゃねえし、俺は……人間じゃねえから」

自分で言って顔を歪めてる。それなら無理して言わなければいいのに。自分で自分を痛めつけていいことなんてないのだから。でも、その言葉を出してくる彼はきっと否定してもらいたいのだろう。だから僕はしてやることにした。

「静雄くんは人間だよ」

「違えよ。だって、俺はあいつのこと……ダメだ。俺は駄目なんだよ」

いや違った。人間って言ってもらいたいわけではなさそうだ。ただ投げやりになっているだけだ。今までそんな自分は嫌だった姿を受け入れて、それを認めることで諦めるしかない方向にしているんだ。

「あいつムカつくよ。ここまで俺を本気にしといて。マジでムカつく。消えればいい」

「……そんな静雄くんに一つ、四字熟語を教えてあげよう」

「んだよ……」

「愛多憎生。覚えておけばいいさ」

僕の知識の中引っ張り出したそれは、僕とセルティには無縁だろうと思われる言葉。きっと静雄くんと臨也にはぴったりだ。

「新羅」

「ん?」

「結局俺の存在を肯定してくれる奴なんていないんだな」

「ここにいるじゃないか」

ニコニコしながら言ってやれば、アホか。と言われて終わってしまった。ひどい。なんだかんだで僕は誰よりも君の存在を認めているのに。

「……臨也を諦めて、これからどうするの?」

「普通に。今までと変わらずいる」

「それができるのかな」

「……しないでどうすんだよ。他になんかあんのかよ」

「退学すれば? その方が手っ取り早いよ」

「……なんで。臨也一人にそこまでしねえよ」

「でもその臨也一人が静雄くんの中心なんでしょ? 離れるのが一番早く忘れられる方法だよ」

「それは、そうだけどよ……」

好きになるのを止めるって言って止められたらどんなに楽か。それができない静雄くんの中では臨也から離れることに対して戸惑いが生じているのだろう。仕方ないけど。

「まあ、時間を掛けて、じっくりと忘れていけばいいさ。そっちの方が傷も穏やかに消えてくからね」

「……ああ。とりあえず、関わらないようにする」

「……じゃあ僕たちがこうして話すことも、少なくなるかな」

「だな」

その時何故か、寂しいと感じた僕は、いろいろぐだぐだ言いながらも、彼らを友達と思っているのだろう。と、今気づいた。

「可哀相だよ」

昨日、静雄くんと臨也のことを可哀相とは言ったが、今回は俺も可哀相だった。友達と一緒にいることを楽しいと思っていただなんて。







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