シズちゃんが落ちていくのを見つめてから、俺はドタチンに目配せした。彼は、はっとした顔をしてから海に飛び込んでいった。うん、それでいいよ。それからまた目線を移した。その先は、奴だった。

「ねえ!」

運がいいことに、奴は俺のことを見ていた。ドタチンが飛び込んだ場面が見られるのはいろいろと厄介だったから良かった。

俺は一声掛けてから奴の元に歩み出す。だんだんとその姿が明確になってきて、妹二人の笑顔とキモい笑顔が見えた。

「イザ兄久しぶり!」

舞流の明るい声に、笑い掛けてやり、奴をキッ、と睨みつけながら言う。

「これで満足でしょ? 俺は平和島静雄を精神的にも肉体的にも潰したよ」

「ああ、様子を見ていて分かったよ。さすがだな」

「妹たちを返して」

そんなにスムーズにはいかないだろう……と思っていたが、驚くほど素直に奴は一歩下がった。罠か何かとも考えたがとりあえず二人の腕を引っ張ってこちらに連れる。だが何もない。

「……やけにあっさりしてるね」

「ここでお前に変なことしたって、いいようになるとは思ってないからな」

「その通りだよ」

奴は嬉々とした様子で笑い、俺に礼を言ってきた。……これからまた会社に戻れて、昇任できるんだ。気分がいいのだろう。俺はニッコリと思いっきり作り笑いしてやってから踵を返した。
そして、片手ずつ妹と手を繋ぎ、来た道を戻る。奴も、直々に帰るのだろう。今は平和島静雄が潰れたという達成感に浸っているようだ。

「あの人とね、他の人もいてね、すっごい優しかったんだよ! イザ兄が忙しいからって、面倒見てくれて」

「そっか。待たせて悪かったな」

囚われてた時の様子を聞かされる。食事はちゃんと食べさせてもらっていたらしくとりあえず安心する。手荒なことをされたわけでもないし、普通に生活していた。ただ学校は休みにされていたようだ。

「いろいろあったんだな」

「うん! ……あれ、イザ兄なんか顔怖いよ」

「……変……」

「え? なんだよ二人揃って。あれだ。イザ兄はちょっと疲れちゃったの」

妹に心配かけるわけにはいかない。何もないようにそう言うと二人は安心したように笑った。奴らの話を聞いていると胸糞悪くなって、それが顔に出てしまったのだろう。

「今日は久しぶりだし、なんでも作ってやるぞ。何食べたい」

「わーい! じゃあハンバーグ!」

「……同……」

「よし分かった。帰ったらすぐに作るから、お前らとりあえず着替えろ」

服は、奴らが用意したと思われるものを着ていた。風呂にも入れてもらえずずっと同じ服を着ていた……という展開よりはいいものだが、でも気に入らない。着替えさせたら即刻捨ててしまおう。

最後に、海を見た。シズちゃんの姿もドタチンの姿もなくて、上手くいったかな。と思う。

これでいいんだ。俺が本当に大切にすべき存在はこいつらなんだから。
それでもドタチンにシズちゃんを助けるように頼んだのは、彼をまだ捨てきれていないのかもしれない。







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