静雄Side
何が起きたか分からなかった。
気づいたら俺は海に向かって落ちていて、臨也に反射的に手を伸ばしたが届かなかった。
俺は何か考えるという事ができなくてただ伸ばした手が最後で、ドボン と海中に入った。
ズブズブと沈んでいく。俺はゆっくりと目を閉じる。目頭が熱くなったが海の水に紛れて自分が泣いているのかも分からなかった。
音は、沈んでいく音だけで、誰の声も届かない。目を開けば光も見えなくなってきていた。
――死ぬのか。
そう思った時、でもそれでもいいと思った。何もかもがどうでも良かった。息が苦しくなり瞼が重くなってきて、再び閉じたらそこから俺の意識はなくなっていた。
「……くん……」
この声は、
「――ずおくん」
なんで圧迫感がないんだ? 俺は海の中にいるはずなのに。ああ、じゃあもう俺は、
「静雄くん!」
「……新、羅……?」
軽くなった瞼を開けると、そこには心配そうに俺を覗き込む新羅と……こいつは確か俺のクラスにいたような……
「大丈夫か」
「……ああ」
そういえば俺は何故ここにいる。ぐらぐらとする頭を回転させる。俺は、俺は……
「っ……!」
臨也。
それを思い出すと同時に起き上がろうと体を動かすが新羅に止められた。俺も体が怠かった。
「静雄……」
「なんで……臨也は?」
「知らない。君をここに連れてきてくれたのは偶然屋形船に乗っていた門田くんなんだ」
「あ?」
新羅が投げ掛けた視線の方を向いてそいつを見る。そうかこいつ門田っつーのか。なんかいた気がする。
「……なんで助けた。てかなんで新羅の家知ってんだよ」
「……助けんのは人として当然だろ。こいつの家は……まあ結構有名だからな」
歯切れの悪い喋りになんだか腑に落ちなかった。でも特にそんなに気にもしなかった。
「……ねえ静雄。何があったんだい? 君は臨也と遊びに行ってたはずだ。なのになんで」
「なんで? ……こっちが聞きてえよ。俺は、臨也を……」
「静雄……本当に何が、」
「…………」
頭を抱える。俺だって何も分からないまま落とされたんだ。ちくしょう。
「……とりあえず今夜はここで休みなよ」
「いや、帰る」
「君は酸素不足で一度気を失ったんだぞ。休まないとダメだ」
「帰るつってんだろ」
「……」
一人になりたかった。門田という奴が送るか? と声を掛けてきたが断った。臨也に電話もしたかった。俺は臨也が好きなんだ。あんな事があったって、臨也も俺を好きでいてくれてると思っているんだ。
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