門田Side



レインボーブリッジを眺めながら、俺は昨日のことを思い出した。



臨也から頼み事があると言われた。なんだか良い予感はしなかったが一応、内容を聞いた。

「シズちゃんを助けてほしいんだ」

「……は?」

「ああ、シズちゃんってさっき言った俺と付き合ってる人のことなんだけどね」

「いや、それは分かる。……助けるってどういう意味だよ」

唐突すぎる。説明不足だ。それを表すように顔を歪めると臨也は小さく声を出して笑った。

「うーん……説明すると長くなるしいろいろと言えない部分もあるんだ。まあドタチンは海に待機してくれればいいよ。俺はシズちゃんを海に落とすからそれを拾ってくれればいい」

「……なに言ってんだお前……」

淡々と告げられたその言葉の意味が理解できなかった。いや、理解はできたが、なんというか、現実味がなかった。

「場所はレインボーブリッジだから、そこ周辺から屋形船に乗って。時間は6、7時位。日にちは明日。やってくれる?」

「ちょ、ちょっと待てよ。なんだよそれ。どういうことだよ」

「……それは説明できない部分だな。
 シズちゃんを助けてくれた後は、ここに行って」

そう言って一枚の紙切れが渡された。ピラ とそれを見るとそこには住所と簡単な地図らしきものが書かれていた。

「医者の家。外傷はなくとも海に落ちてるんだから、一応連れてってやって」

「お前……分かんねえよ。なんで助けるように頼むくせに落とそうとすんだよ」

「だからそれは言えな……」

「言えないんだったらやらねえ。理不尽すぎる」

「……それは困ったな」

額に手を当ててわざとらしく困ったように笑っている。
俺は絶対に理由も聞かずに協力なんてしてやらねえ。だっておかしいだろこんなの。

「……妹のためなんだよ。頼むよ。協力してくれ」

ワントーン下げて小さく臨也が何かを言った。それは俺の耳にはうまく届かなかったから聞き返すがなんでもないと言われた。


「……じゃあ、これだけは言っとくよ。俺はシズちゃんが好きじゃない。でもシズちゃんと付き合ってんのはシズちゃんを傷つけるためなんだ。俺は彼を騙してる。そのことを明かした上で海に落とす」

バキッ

俺は臨也の胸倉を掴んで立ち上がらせ、殴っていた。
理由はムカついたからだ。なんだよそれ。なんでそんなことすんだよ。
勢いよく地面に滑った奴の上に馬乗りになって再び胸倉を掴んだ。


「っ……痛……」

「お前、なんなんだよ」

「……ドタチン。人にはどうしても言えないことがあるだろ。分かってくれ。頼むよ……」

本当に、なんて理不尽なんだ。そう思ってたまらなかったが、その言葉を吐く臨也の顔は何かに耐えているように苦々しくて、とても辛そうだった。

だから、俺は臨也の上から退いて立ち上がり、言った。


「……分かった。協力する。殴ったのはその代償だ。こんなひどいお前だって、助けようとするってことは、同情の余地があるってことだからな」

そして俺は踵を返してその場を去った。無駄なことは考えないようにした。なんにしろ明日、平和島静雄を助けてから、分かることは分かるのだろうから。


「……同情、か」


ドアを閉める直前、臨也のそんな言葉が聞こえた。







そして現在、

俺は屋形船の中からレインボーブリッジの遊歩道に立ち、何か言い合いをしている二人を見る。マジで居やがる…と、なんとなく信じ難い光景を目にしてひしひしとこれから実行されることへの緊張が浮かんできた。

そんな時、急に動かなくなったと思えば、臨也が平和島静雄を海に落とした。

「……!!」

平和島静雄は、臨也へ手を伸ばしていたが届かず、垂直に水中へと落下した。マジかよ……マジかよ。
臨也の方に視線を投げ掛ければ、俺の方を見ていた。

「! くそ! どうしろってんだよ!」

助けなければ。その一心に駆られた驚きで固まってる体を本能のままに動かして屋形船から海に飛び込んだ。







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