静雄Side



「夕飯、行こ」

そう言われて連れて来られた場所は、お台場の中にあるバイキングの店で、店内からはレインボーブリッジが一望できる。きらびやかな内装にどこかシックな雰囲気があり、高い店というのは一瞬で分かった。


「お、おい、本当にここでいいのかよ」

「だって色んな食べ物あるし? 景色もいいじゃん」

「でも高いだろ!」

思わず叫んだら、周りの人からの視線を一斉に浴びた。臨也は苦笑いをして俺の眉間に指を当ててきた。

「しわ寄ってる」

そして、若干引き気味の店員さんに案内されてバルコニー席に座った。

「高くてもいいんだよ。俺が来たかったから」

「……その内、なんかして返すな」

その言葉を聞いた臨也の顔が一瞬、若干歪んだ気がした。

「いいよ別に。これはシズちゃんへのお礼なのに、返されたら困る」

なんだか、変な感じがした。いつも通りなのになんか違って、どうしたものかと思っていたら臨也が席を立った。

「食べ物取りに行こう」

「……ああ」


本当にいろいろな種類の食べ物があった。和風、洋風、中華。そして一際俺の目を引いたのはケーキや果物のコーナーだった。

「シーズちゃん。まずはご飯系から行こうよ」

顔を覗き込んできた臨也が俺の手を引っ張っり主食系のとこへ小走りに行く。

「なに食べたい? 俺はパスタだなあ」

「じゃあ俺も」

「分かった。おいしそうなの取っておくね。じゃあシズちゃん適当にサイドメニュー選んどいて」

そう言って離された手がなんだか寂しくなったが俺は皿を一枚持ってサラダや魚などを取ることにした。ありすぎてどれにしたらいいのかさっぱり分からなかった。



「いただきまーす」

結局俺がうまそうだと思ったのを適当に取った。臨也の好きなものもあったようで、安心した。
そういえば臨也とこうして外で食事をするのは二回目だ。いや、一回目は食事というか、シェイク飲んでただけだ。
学校で弁当を食べたりする時もたまに目にするが、臨也の食べ方は見ていて不快にならない。マナーがなってるというか、全ての動作が心地好い。
顔が良くて、頭も良くて、体細くて、モテるだろうこいつが俺を選んだことは今でも不思議だ。

「……ん? なに?」

ふと、視線に気づいた臨也が顔を上げる。俺は見すぎたと思い、パッと目を逸らした。

「いや、なんでもねえ……」

なんだか後ろめたさがあり、それから顔を向けることが出来ずにいると臨也がテーブル越しに近づいてくる気配がした。

「ソースついてる」

指先でくいっと掬い取られたそれはパスタのソースだった。びっくりして目線を動かせば近すぎる顔に心臓がドキリと跳ね上がった。

そして俺は、なんとなく。そう、なんとなくだった。目の前にあるその唇にかぶりついた。

「……!?」

それは一瞬のことで、すぐに顔を離したら臨也は真ん丸に目を見開いていた。
周りをちら、と見たがみんな食事や景色に夢中で誰一人俺らのことを見ていなかった。

「な、なにすんの!」

動揺からか、さっきとは変わって声を荒げてあわあわとしている、可愛かった。俺も潔く自分のしたことを実感して顔を真っ赤にした。なんとなくですることじゃねーだろ!

「あー……お前があんな近くにいるから、なんかしたくなって……」


臨也は俺の言葉を聞いて更に赤くなった顔を隠すように景色の方へ向けていて、その視線がレインボーブリッジを捉えたら、表情が一気に暗くなっていた。というか切なそうだった。

「……臨也?」

その様子に気づいて声を掛けると臨也はそれを指して一言ぽつりと呟いた。

「あそこ、行こう」


俺に目を向けて、笑った臨也の顔はどう見たって歪んでいた。







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