変わらないもの/前
恋心というものはやっかいなもので、時が経つ毎にどんどん貪欲になってゆく。そしてそれが、不安と焦りを生み出してしまうのだ。
朝早くから、荷物を持って出かけるミハエルを見送る為にトーマスとクリスは玄関に立っていた。
ミハエルは今日から3日間、修学旅行に行くことになっている。
「忘れ物はないか?大丈夫だとは思うが気をつけて行けよ」
「大丈夫ですって、姉様。姉様こそ、僕がいない間、クリス兄様と喧嘩しないで仲良くしててくださいよ?」
「…っ、余計なこと心配すんな!わかってるよ!お土産買ってこいよ!」
「いい機会だ、楽しんで来なさい、ミハエル」
「はい、兄様、姉様。行ってきます!」
元気よく手を振ってミハエルは家を出た。
今日から3日間、クリスと二人だけの生活が始まる。兄とはいえ好きな男性と二人きりで一つ屋根の下で過ごす…十分あり得ることではあったが、三人兄弟ゆえに滅多になかったことにトーマスは今更ながら頭を抱えた。
(3日も二人きりとか気まずいじゃねーか…!)
しかしそう思っているのは自分一人だけ。クリスは特にどうも思っていないだろう。いつも通り、部屋か研究室に籠っているんだろう。そうだ、自分も平常心でいつも通り、気にせず過ごせばいい。
そう結論づけたところで、朝食を食べる為にさっさとリビングへ戻ってしまった兄に声を掛ける。彼は少し後から授業なので早起きした分悠長に朝を過ごすつもりだろう。
「じゃあーちょっと早いけど俺も学校行くから。今日の晩飯はー…」
「あぁ、トーマス」
リビングの扉が開き、中からクリスが姿を現した。予想外のことにトーマスは一瞬固まった。いつもなら返事もしないくせに。
「今日は二人しかいないから外食することにしよう。18時半に駅前に来てくれ」
「は……あぁ」
「費用の面は心配するな。では、行ってきなさい」
クリスはそれだけ言うと、またリビングに戻った。
初日から早々発生したイレギュラーに、しばらくトーマスは動けないでいた。
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