「アホみたいなアホと呑んだ」


『よぉ、久しぶり!これから空いてるか?飲みに行かねぇ?』

 突然来た、腐れ縁からのメール。突然の誘いに俺は驚き、直ぐ様電話をかけた。

『おー、ギラグ!久しぶりだなあ、元気か?』

「アリト!どうしたんだよ急に?」

『へへっ!実は俺こっち帰ってきてんだよ!なあ、仕事はもう終わりだろ?飲みに行かねぇか?』

 俺は特にこれから予定などなく、二つ返事で承諾した。

「ってか当てと金はあんのかよ」

『まあな。いいから行こうぜ』

「俺にたかる気じゃねぇだろうな。言っとくが俺もそこまで金持ってるわけじゃねぇからな」

『大丈夫だって!心配すんな!じゃあ駅前で待ってっから』

 そんなやり取りをし、俺は簡単に身支度を済ませて鍵と財布をポケットに入れ、家を出た。



「ひっさしぶりだなぁ、ギラグ!相変わらずデカくてわかりやすいぜ!」

 駅前で待っていたアリトがこちらに向かって手を振っている。数年ぶりに見る奴は、多少は背が伸びたんだろうが相変わらず小さいままだった。

「おめぇは相変わらず小せぇままだな。ちゃんと食ってんのかぁ?」

「あったりめーだ!食ってねーと筋肉鍛えらんねーからな!」

 服も表情も大人びたかと思えば、脳まで筋肉なのは変わらないらしい。得意げに腕の筋肉を自慢してくる。昔はそうやって、互いの筋肉を自慢しあってたな。

「これからどこ行くよ?」

「うーんとな…あ、俺行きてぇとこあんだよな。なかなか肉と酒が旨いとこで、前にベクターが教えてくれたんだよ」

「ベクターかよ…あいつの情報あてになんのか?変なの掴まされたんじゃねぇだろうな」

「俺も一回行ったことあったけど旨かったし。そこ行こうぜ!」

 他愛ない談笑。何年経っても変わらない俺達。その変わっていない感じが喜びから安心感へと変わる。
 何よりも久しぶりに会うアリトが元気で、再び会えたことが嬉しかった。ガキの時からつるんでいた奴だが、高校を卒業して以来、全く会っていなかったから。

 居酒屋に入って酒を呑み、軽く食い物をつまみながらするのは、互いの近況報告。高校卒業してから、俺達は別々の道を歩んでいた。
 俺は大学へ進学した後、地元の高校に戻り体育教師となった。クソガキ共の面倒を見るのは忍耐強い俺でも骨が折れるが、ガキだった俺らを見ているようで微笑ましく、またやりがいもあった。
 俺はアリトにそんな教師生活のことやつい最近あった体育祭のことなんかを話した。奴は俺の話をニコニコしながら、興味深そうに聞いていた。
 こいつちゃんと人の話聞けるようになったのか、成長したな。

「あのギラグが教師だなんてなぁー。でもお前俺に勉強教えんのとか上手かったし、そういうの似合いそうだもんな」

「まあてめぇに教える程骨の折れる奴にはまだ会ってねぇけどな。てめぇ程の頭の持ち主はある意味奇跡だぜ」

「へへっ!そりゃどーも」

「褒めてねぇよ。ところでおめぇは最近どうなんだよ?」

 アリトの夢は昔から唯一つだった。それは、プロボクサーになること。中学に、プロボクサーになったOBがいた。そいつがガキのアリトの眼にはとても輝いて見えたそうだ。そのOBに憧れて、プロボクサーを志し始めた。

「俺、プロになるんだ。絶対見る人達に諦めないことを教えてやれるプロボクサーになりてぇ。あの人みたいになりてぇんだ!」

 高校に入ってから、部活ではなくジムに通い、トレーニングをずっとしてた。
 高校を出てアリトは本格的にプロを目指す道を歩み始めた。プロの世界が甘くねぇことはわかる。だがアリトならなれるんじゃねーかって、俺は本気で思ったから奴を応援した。
 奴がへばった時に、喝を入れてやるのも俺の役目だった。

「聞く?聞くか?ギラグ」

 アリトの眼が途端にキラキラと輝き始めた。どうやら悪い報告ではないらしい。報告したくてたまらないという顔がそれを物語ってた。

「おう、どうなったんだよ?」

「実はなぁ……プロ入りが決まったんだよ!!!」

「マジかよアリトオオオオ!!」

 居酒屋の席の一画で俺は柄にもなく声を上げ、アリトと拳を突き合わせた。人のことでこんなに、自分のことのように喜ぶのは初めてだ。

「ようやく叶ったな、やると思ってたぜ!アリト!」

「ああ!実は俺、お前に一番に報告したくて帰ってきたんだよ」

「わざわざかよ?電話でもよかったんじゃねぇのか?プロだと忙しい身だろ」

「直接言って、お前が喜んでくれるのを見たかったんだ。俺がプロになれたのは、ギラグ…お前のお陰だからさ」

 アリトは感極まったのか、若干涙眼になりながら懐かしそうに語った。

「俺がさぁ、マジで腐った時あったろ。あん時本気で、諦めちまおうかと思ったんだよ。でも、お前が俺を叱り飛ばしてくれたから立ち直れたんだ。…なあ、覚えてるか?」

「ああ、あん時大学の授業サボってお前んとこ行ったな、確か」

「ギラグは俺を本気で殴り飛ばして言ってくれたんだよな。『てめぇの夢はどこに消えたんだよ!てめぇはひたすら前向いて夢追っかける以外に何ができんだ。ここで腐ったらマジで屑野郎だぞ』ってな。お前のお陰で俺、そこで吹っ切れちまったんだよ。俺にはこれしかねぇって。だから頑張れた」

「まあアリトならやると思ってたよ。立ち上がったのはおめぇの力だ。俺はただ背中をちっと押してやったに過ぎん」

「照れんなってギラグ!…感謝してるぜ。ま、本当の勝負はこっからだかんな」

「そーだ!おう呑め、アリト!てめぇの出世祝いだ!俺が奢ってやる!」

「お前、金ねーんじゃなかったのかよ」

「ああん?めでてぇ日に金出さねぇ男んてクソだろ。心配すんな!」

 俺もアリトもその日は、潰れる寸前まで呑んだ。懐かしい思い出話や高校時代つるんだ懐かしい面々の話など、話題は尽きない。

「あー、アイツ等にもアリトのこと報告してやりてぇぜ」

「こりゃぁ一丁全員集めて呑みに行くしかねぇな!本当アイツ等今何やってんだろ」

「ミザエルは今KCにいるらしいぜ」

「マジかよ!?アイツ企業とかに就職するタイプだったか?」

「かなり優遇されてるらしいぜ。なんでも社長のお気に入りらしい。ソリが合うんじゃねぇか?」

「ふーん、流石大手KCの社長は変わり者だな」

「で、ナッシュとメラグは…アイツ等二人揃って医者目指してるからな、まだ大学だろ。弁護士目指してるドルべもまだ大学院通ってんじゃねぇか?ベクターは俺も知らねーんだよなあ」

「アイツ等も大変だなぁ。あ、ベクターはこの前テレビに出てんの見たぜ」

「はぁ!?」

「期待の若手俳優とかなんとかで紹介されてんの見たな。アイツ外面はいいじゃん?ぜってぇ人気出るぜ!」

「てぇことは…さなぎちゃんにも会ってんのかぁ!?うっわー…クソ、羨ましいぜ…サイン貰えるか聞いといてもらおう」

「お前も相変わらずだなギラグ」

「なんのことだ?」

 和やかに流れる時間は意外にも速かった。惜しいがもう帰る時間だ。俺は明日も仕事がある。

「アリトは今自分の家か?」

「ああ。どっちかの家で朝までと言いたいところだがお前明日仕事だろ?また呑もうぜ」

「ああ、そうだな。次は皆集めてやろうぜ。じゃあな!」

 アリトと別れ、一人夜道を歩く。酒といい肴のおかげで今日はよく眠れそうだ。まだ先の、決まってすらいないかつての仲間達との再会に思いを馳せながら、俺は帰路についたのだった。



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元ネタは中の人のツイッターです
アリトの中の人とギラグ兄貴の中の人が呑みに行ったという呟きを見て、うっかり萌えて書いてしまいました
バリアンズの中の人達皆仲良くて、やりとりを見ててほのぼのします

この前も初詣のお話をされてて萌えました
メラグが「あら、優しいのねギラグ」何て言って、ギラグ兄貴が照れてました

ああ、バリアンズ可愛い


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