温室の花は知らない


「君のデュエル、筋はよかったよ」
「くっ……」
「けど…残念だったね。相手が悪かった。相手が僕じゃなけりゃその戦術も通用してたかもしれないのにね」
 壁際に追い詰められた裏切り者は、倒れたまま顔だけ上げて僕を見た。悔しさと無念さと憎しみが入り交じった表情だ。もう見飽きた。つまらない。
 人を笑顔にするエンタメだとか言って僕を驚かせようとして、色んな演出やタネを仕掛けてきたけど、残念ながらデュエルがあっけなさすぎてそんなもの楽しむ暇なんてなかったよ。

「勝っても負けても笑えるデュエルっていうならなんでそんな顔するの?君自身デュエルが楽しくなかったってことだろ?そう、デュエルに楽しみなんて必要ないんだよ。プロフェッサーのために勝てばいいだけなんだから」

「黙れ!今に見てろ…先生が…いや、俺の他にも遊勝塾の仲間はたくさんいる!必ずアカデミアの野望なんか阻止してみせる!お前らなんかに…」

「…うるさいなあ。さっさとカードになれよ」

 僕がデュエルディスクを操作すると、裏切り者は言葉と一緒に光になって、カードの中に吸い込まれていった。

「負けた身でガタガタ言うなんて往生際が悪いんだよ」

 カードの絵は見るも不快な顔をしていた。僕はそれをさっさとポケットに仕舞う。本当はムカついたから破り捨ててやろうかとも思ったけど、それはしない。プロフェッサーに怒られちゃうから。
 なんだか知らないけど、アークエリアプロジェクトのためにはカードにするだけじゃなくてカード自体も必要なんだって。だから面倒だけど、持って帰らなきゃ。

「そういえば、こいつ仲間がいるとか言ってたな…先生がどうとか。柚子を見つけた時も…」

 柚子を見つけたのは偶然だった。シンクロ次元から飛ばされた僕は一旦アカデミアで体勢を立て直し、新たな情報が入るまで脱走者の始末をしていた。そこで見つけたんだ。
 まさかデニスから連絡が入る前に見つけるとはね。

「でもまた飛ばされちゃったし、あのユーゴとかいう奴が柚子と一緒にいると僕じゃ手を出せない…。そうだ。デニスに、柚子を確保したらそのままアカデミアに連れていくように言っておこう。ついでに、脱走者どもが行き着いてるところの調査も…」

 僕は再びデュエルディスクを取り出し、無線連絡システムを立ち上げた。履歴からデニスのディスクを検索して発信する。
 しかし、いつもはすぐ応答してくれるはずの彼が、今回は全く出ない。
 何度か時間を置いてかけ直した。僕の連絡を無視するなんていい度胸じゃないかと苛立ちすら覚えた。一方で、もしかすると誰かと交戦中なのかもしれないと思った。可能性としては後者の方が高いかもしれない。

「まあ、これだけ履歴残しておけば気づくでしょ。僕は一旦帰ろう」

 僕は用意しておいた船を出してアカデミアへと戻った。



 デュエル自体は何ら苦もないけど、実は夜からずっと任務のために動いてたお陰で、僕の疲労はピークに達していた。アカデミアに着いた途端ドッと疲れと眠気が押し寄せてきた。自分の部屋が遠くて、そこまで歩くのが苦痛だ。
 いっそこのまま入口の草むらで眠りたいとも思ったけど、そんなことをすれば僕のイメージダウンだし、恨みのある奴が僕をカードにしようとするかもしれない。
 外にも内にも敵が多いのは僕が一番解ってる。

「そうだ、デニスの部屋借りよう。そっちの方が近いしね……」

 僕はとぼとぼと歩いてデニスの部屋に向かった。今までも何回かあった。彼も僕の部屋が一番遠いのを知ってたから、一緒に任務についてたとき体力に限界が来た僕を泊めてくれたりもしたし(僕がまる2日くらい動きっぱなしなことも多々あった)、僕が一人で動いてて疲れたときに部屋使っていいよと鍵を渡してくれている。
 彼は僕がアカデミアで一番信頼してる奴だ。彼の部屋なら、背後を気にせず眠れる。
 だからスムーズに辿り着くことができた。部屋に入った途端、自分の部屋みたいに僕は靴だけ脱いで着替えもせずシャワーも浴びずに、ベッドに倒れ込む。やっと緊張が解けて大きく息を吸い込むとすぐに眠気が僕の意識を包み込んでいく。微かに彼の匂いがする。僕はそのまま眠りに落ちていった。

「………あれ、デニス…帰ってないの」

 何時間くらい眠ったんだろう。窓から射していた日はとっくに暮れて部屋は真っ暗だ。いつも知らないうちに布団がかかっているのに今日は掛かってなくて、まだ部屋の主が帰っていないことを知った。ディスクを見たけれど着信の履歴はない。もう一回発信してみた。でも、呼び出し音はするけど向こうのデニスは出てくれなかった。

「…寒いなあ」

 真っ暗な部屋の中で、デニスのデュエルディスクを呼び続ける青い光だけが煌々と輝いている。僕は咄嗟に寒さを覚えて布団に潜った。

「人の連絡を無視するなんて、許さないから……帰ってきたら僕も無視してやろう」

 膝を立てて、そこに額をつけて扉が開くのを待った。
 彼はきっといつもの調子で帰ってくるだろう。そして電気をつけたら僕がベッドを陣取っていることに気づくんだ。「Sorry!連絡僕も返そうとしたんだけど邪魔が入っちゃってさ〜!」って具合でね。だけど僕が知らんふりしてるから段々声が切羽詰まってきちゃって、「機嫌直してくれよ」って困った声で謝るんだ。僕がベッドから降りなきゃ寝られないからね。でも僕だって鬼じゃないから、誠意が見えたら降りてあげる。で、彼も任務頑張ったからちゃんと「お疲れ様」って言ってあげて、次の任務の打ち合わせをするんだ。彼は優秀な戦士だからね。他の奴らとは違う。軟弱な、エンタメがどうのとか言ってる裏切り者とは違う。僕が唯一信頼する人間だから。一緒にプロフェッサーの為に戦う戦士だから。流れは完璧なんだ。僕の連絡を無視したことは許してやるから。
 だから、早く帰って来いよ。

 いつの間にかデュエルディスクの青い光は消え、僕はまた闇に取り残された。


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デニスが自殺したショックから立ち直れずつらつらと書いてしまいました
ユーリの知らないとこでカード化なんて、あまつさえ自殺って悲しすぎる。しかも魂ごとカードになったから、もうユーリの元に行くことすらできないなんて
この犠牲がなんらかの形で、彼自身が報われてほしいと思います

(2016/7/18)

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