You are not alone.


 黒咲隼は直線的な男だとユートは思っている。感情の起伏や口数が少ない分、彼が求めてくる時はいつも直球だった。

「ユート、来い」

 なんとも色気のない言葉だが、それが何の合図かユートにはもう解っている。ベッドの上で手招きされれば、それに従う他の選択肢はなかった。
 レジスタンスになって、度々ユートは隼と身体の関係を持っている。スタンダードに来てからは更に隙間を埋めるように回数を重ねていた。どちらからしようとけしかけたのかはもう覚えていない。たまたま同じ気持ちだったからした、それだけのことだ。
 隼に近寄り、膝に手を置くとすぐさまその手を引かれた。瞬く間に世界が反転し、天井を背にした彼しか見えなくなる。覆い被さってくる大きな身体をユートはそのまま受け入れた。

「は、んっ……」

 隼の唇が覆ってきてちゅ、ちゅっ、と何度か吸われたかと思うと、ユートの唇の隙を割って舌が入り込んできた。ぬるぬると互いの舌を絡ませあって、じゅっと吸われる。吐息も舌も全て奪われてしまいそうな強引とも取れる口づけだったけれど、気持ちと身体、ともに昂っていくのを感じた。
 口づけをしながら、いつの間にか隼の手はさっさとユートのシャツを脱がしにかかっていた。ネクタイが外れ、ボタンを途中まで外されるとそのまま胸の上までシャツをたくし上げられる。隼は露になったユートの両乳首を摘み、くりくりと転がした。
 最初はくすぐったいだけだったそこも時と回数を経て、彼によって性感帯へと作り替えられてしまっている。指で弾かれたりきゅっと摘ままれたりするとじんと乳首の先から痺れ、身体が揺れた。

「っはぁっ、ぁっ…!…んっ…!」

「声、我慢するな……お前の声は興奮する」

「あっ……だって…!」

「お前がもっと好くなっているところが見たい」

 隼は上半身を脱ぎ捨てると、今度はユートのスラックスを脱がし始めた。下着とともに下げられて下半身が剥き出しになり、ふるりと内股が震える。ユートは思わず膝を閉じた。

「恥ずかしいのか?俺とお前の間柄にはそんなものいらないだろう。俺だってお前には全てを見せている。お前も全て見せろ」

 そう言う隼の金色の瞳は真摯にユートを見ていて、その威光にまたドキリと胸が高鳴る。獲物を狩るような鋭い眼。だが、それだけの冷たさではない。鈍いけれど温かさを感じるのだ。その温度は、ユートに安心感を与える。
 ユートは隼の言葉に従い、ゆるゆると股を開いた。

「いい子だ」

「んんっ、ん…!」

 隼の無骨な手が内股をするりと撫でると、今度は長い指が中心に絡みついてきた。じわりと濡れた先端の雫を全体に塗り込めるように隼が手を動かす。液体と空気が混ざり擦れる卑猥な音を聞き、ユートはきつく眼を瞑った。
 敏感なところを触られて得る快感とともに、隼の手が自分に触れていると考えるだけでユートは昂りを感じた。普通でないことをしている、その背徳感と汚く欲望にまみれた自分を親友に見られているという羞恥が快感のスパイスになる。それを知って箍が一度外れてしまえば、ユートは一気に快楽にのめり込んだ。

「あっ、あっ、あっ…隼…!はぁ、あんっ…!あ……」

「お前の顔……興奮する……。気持ちいいか?」

「っ…!気持ちいい……きもちいい…!なぁ、隼っ…!俺も……」

「俺のも、触ってくれるか…」

 ユートの言葉に、一旦隼が身を引いた。ユートが見ている前で彼はスラックスと下着を脱ぎ捨てる。その仕草や全体的な身体つきは、同性の自分から見ても実に男らしい。知らず、ユートの心臓がどくんと高鳴った。
 ベッドの端に座った隼に招かれ、彼の膝に乗る。自然と引き合うままにまた唇を合わせて、ユートは互いの間にある二本の性器をまとめて両手で扱く。

「はぁっ、ふっ…はぁ……」

「ユート……気持ちいい……お前の手……」

「俺も…!」

 ユートの手に隼の手が重なり、扱く速度が速くなっていく。一人で扱くのとは全く違う気持ちよさと昂りに翻弄される。触れ合う吐息と密着した身体、そして擦れる肉棒の感触にどうしようもなく興奮した。
 きっとハートランドが平和なままだったら、あり得なかったことだろう。唯一無二の親友と、性交してるなんて。ユート自身最初は信じられない気持ちでいた。
 だがそれは、すぐに二人の日常に塗り替わってしまった。
 降って湧いた現実を受け止める間もなく、二人は大きな力に抗う者となった。反転した世界で戦う日々の中で、精神は早くにすり減ってしまっていた。自分が自分でいられなくなる、その寸前で繋がることで、まともでいられるのだ。互いに自分を現実に引き留めるための儀式ともいえよう。
 大切な親友だからこそ、剥き出しの肌と本能と感情に触れることで一種の安堵を覚える。彼が、自分が、確かにここにいるのだと、実感できる。

「っ、ユート……そろそろ下を触らせろ」

「んっ…ああ」

 隼の切羽詰まっている声を聞き、ユートは彼の上から退いた。そして再びベッドに横たわって自ら脚を開く。隼は内股に口づけて痕を残しながら、きゅうきゅうと開いたり閉じたりを繰り返している孔に触れた。それだけでも妙な感覚に襲われて、ユートはきゅっと唇を噛む。
 彼の指が流れ落ちてくる先走りを掬い、孔の周りの筋肉を解すように揉む。しばらく周辺を愛撫してユートの力が抜けてくると、ずるりと中へ入ってきた。

「はぁ、ふ…!っ……!」

「大丈夫か?ゆっくり呼吸しろ……そうだ」

 隼に言われる通り、深く息を吐いてはゆっくりと吸い、それに合わせて尻に入った力を抜いたり逆に力んだりして指を呑み込んだ。最初にあった違和感も、彼が指を出し入れするにつれて慣れてくる。そうなると、ただ指を入れられているだけでは物足りなくなった。

「隼、っ…!」

「何だ?」

「触ってくれ……中、触って……」

「触っているが?」

「違う、そうじゃなくてっ……」

 抗議するために隼の顔の方へ向くと、彼は端正な顔に意地の悪い笑みを浮かべていた。
 解っている。解っているのだ、彼は。ユートが何を求めているのか、どこに何を欲しいのか。解った上でユートの反応を楽しんでいる。彼はこんなに意地悪な性格だっただろうか?そうじゃないんだ、となじろうとした時、ユートの身体をビリッと強い電流が貫いた。

「ああァあぁッ!あぁっ、あぅっ!」

「ここか?触ってほしいのは」

「っぁん…あぁ…!しゅん、っ…!いやだぁ!」

「嫌だ?さっきは欲しいと言っていたのに……いつの間にお前はそんな我が儘になった?」

 中にある一点に、隼の指が擦ったり摘まんだりと様々に形を変えて刺激を送ってくる。その度に腰が抜けるような快感が襲いかかってきてユートはあられもなく身を捩って喘いだ。もっと欲しいのか、それから逃げたいのか、ユートには判別がつかない。だが逃げないと我を失ってしまうような恐怖に駆られる。
 ふと、隼がぐっとユートの手を握った。ぼやけた眼を彼に向けると、汗を額に浮かせて微笑んでいる。顔が近づき、吐息が耳にかかった。

「入れたい。お前の中に入りたい。いいか?」

「ん……ああ…!」

 コクコクと頷き、ユートは隼にしがみついた。再び熱い口づけが降ってくる。さっきよりも激しく口内を掻き回され、隼が興奮しているのがわかった。
 股の間に、熱くてスベスベしたものがピトリと押し付けられる。ユートの身体はそれにビクッと反応を示したが構わず、隼はユートの中に押し入ってきた。

「あぁっ…!う、くっ……」

「っ……狭いな……。ユート、大丈夫か」

「平気、だ…!動いていいぞ……」

 隼がゆっくり腰を動かす。ユートの中に彼自身を馴染ませるように。隼が中へゆっくりと入ったり出たりを繰り返す。痛みはない。しかし中が圧迫されるのを感じて、息を深く吐いて堪える。
 ユートのよりも一回りほど大きいそれが中で更に大きくなっていて、隼もかなり興奮しているのが解った。きっとすぐに激しく動きたいに違いない。けれど、彼はあくまでユートの様子を見るようにゆっくりと動き続けた。
 最初の頃、隼は挿れるとすぐに欲望のまま動き始めていた。だが痛みに耐えるユートを見て、それを止めたのだ。ユートを気持ちよくする、彼はそれに重きを置いてくれる。そうやって気遣ってくれるのを実感するだけでもユートは嬉しかった。彼になら全てを奪われてもいいと、そう思った。

「あ……あっ、ぁんっ…!隼…っく、……しゅんっ…!」

「ユート…!」

 両手を繋ぎ、視線を結び、名前を呼び合う。口づけをしては唇を離して吐息と喘ぎを重ね、また再び口づける。身体を繋げてそれを繰り返しているうち、互いの存在以外何も感じられなくなっていた。たった二人の世界で快楽を貪る、楽園のような幻想に囚われていく。

「はぁ、あぁ…あ……あん…あっ!はぁ、あっ…!」

「っ…ユート……あぁっ…気持ちいい……おまえの中、くっ……!」

「おれ、っ、も…!っあぁ、はっ、ああぁっ…!」

 興奮した声に名前を呼ばれ、段々と隼の動きが激しさを増していく。もうユートの頭も中もどろどろで、そこは隼を受け入れ快感を享受するための器官に成り果ててしまっていた。
 肉がぶつかる衝撃も、入口が擦れる感覚も気持ちいい。彼の亀頭がぐりっといいところを突くと、ビリビリと腰から痺れが伝わりユートは背中を浮かせて悲鳴を上げた。

「あぁアアアッッ!!だめ、だめだそこっ……ダメっ……あぁっ!!あっ、あぁ!やだぁあ!!!」

「嫌、じゃないだろう?ここを突くと、っふ……お前の中……よく締まるぞ…」

「そこっ、そこぉ!やあぁアッ!あぁんっ、あぁーーっ!!っ…あうっ……あっ…」

 頭が真っ白になって意識を強い力で引っ張り上げられた直後、パンッとユートの目の前が弾けた。ビク、ビク、と弛緩していく身体を放り出し、息を吸おうとパクパク口を動かす。

「イッた……みたいだな……よかったか」

「あ…あぁ……あ……」

 ぐしゃぐしゃになった視界に世界が映り込み、その中心に隼がいる。彼は微笑んでいる。意識が少しはっきりしてくると、ゆっくり頬を撫でられているのに気がついた。
 きゅっと心が締め付けられたようになって、ユートは思わず隼に手を伸ばした。彼は迷わず握り返し、ユートに引き寄せられるように覆い被さった。唇が重なる。幾度か上下の唇を交互に吸われ、ようやくユートは意識を現実に近づけた。

「大丈夫か」

「んっ……あぁ……へいきだ……」

「すまんな……俺ももう、限界だ…ユート。お前の中に出していいか」

「そんな……おれ、隼の、出されたら……」

「心配するな。どうなっても、俺が責任を取る」

「ちょっと……しゅんっ…!まて、まだ、まっ…ああ"ぁ!!」

 隼が起き上がった途端脚を大きく開かされ、真上から彼にのし掛かられた。狭い路を開いて奥へ奥へと進んでいく隼に、ユートは堪らず悲鳴を上げた。だが彼の攻めは留まるところを知らず、怒濤のように激しい音を立てて腰を打ち付ける。
 奥の方を激しく突かれて、身体中が瞬く間に強い痺れに支配された。下半身が溶けてなくなったような錯覚さえ覚える。快感の渦に呑まれるままに、ユートは喘ぐことしかできなかった。隼、と繰り返し自分を犯す者の名を呼ぶ。それがユートを現実に手繰り寄せる唯一の存在だった。

「やあア!!またっ!なんかくる、なんか…ああ!!あぁん、っ……あぁっ、……んっ、あぁ!」

「はぁ……はぁっ…!俺もっ、イくぞ……ユート…!!」

「はんっ…!ひっ、あぁっ、……ああ!あぁん!い、ぁっ…いいっ!くる、くるぅ…!しゅん、くるっ…!あぁっ…」

「んんっ、っく、うぁっ、あ、ぁ…!」

「あぁん!あっ、あぁあっ……!!!!」

 再びユートの意識がぎゅっと引き絞られて弾けた後、数拍遅れて隼が呻き、動きを止めた。どく、どく、と熱いものが腹を満たすのを感じて思わず孔が締まる。

「隼」

「ん…?」

「よかった……」

 興奮が冷めて心が穏やかさを取り戻していくと、気恥ずかしさと共になんとなく彼に甘えたくなった。普段ならば考えられないことだが、今ならきっと許されるだろう。ユートは荒い呼吸をする隼を引き寄せて自分から口づけをした。すぐに彼はそれに応えた。最初のような激しさはなく、浅瀬の穏やかな波のように唇を軽く重ねては少し吸って離れる、それを繰り返す。 

「俺もだ」

 唇を離してそう言うと、隼はユートの中から自身を引き抜いて横にごろりと寝転んだ。
 戦場に立つことになってからあまり見ることがなくなってしまった穏やかな笑みを浮かべ、労るような手付きでユートの頬やこめかみを撫でる。
 それは幼い頃ユートや瑠璃を寝かしつけてくれた時の手付きと全然変わっていなくて、ユートはじんと懐かしさが身体の奥から込み上げるのを感じた。

「ユート、お前は消えるな。お前がいなかったら俺はとっくにどうにかなっていたかもしれない。お前がいるから今の俺がある。…お前はいなくなるな」

 ふと、ユートを撫でていた隼が笑みを消し、何かに耐えるように顔を歪めた。次いで、ユートが何か答える前に腕が回ってきて、彼の顔が肩口に埋められる。いつも頭一つ分上にある顔が、今はユートの視線の下にある。ユートが戸惑いがちに頭を撫でると、ぎゅっときつく抱き締められた。
 嗚呼……ユートは深く息を吐いて唇を噛み、隼の頭を抱き込んだ。
 隼がどれ程の傷を心に負っているのか、ユートには理解することはできない。想像することなど、到底できないことだろう。ユートは隼ではない。彼の痛みは彼しかわからない。だからこそ、自分が見ていることしかできないのがもどかしいのだ。
 それでも、ユートができるのは彼と共に戦うことだけだ。彼が地獄へ行くと言うなら共に着いていく。それは彼と戦場に立ったときから決めていたことだった。
 その中で求められ、身体を重ねることが彼の支えになるならそれも悪くはない。

「俺はいつでもお前と共にある……。心配するな」

 それが自分の使命だと言い聞かせるように、ユートは囁いて震える隼の頭を抱き締めた。

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