黒き衝動と悲愛の間に

※21話その後妄想という感じです。少し暴力的


 光が収まった後見えた景色は、とある路地裏であった。

(またここへ飛ばされたか)

 ユートは肩に担いでいた隼を降ろして辺りを見回す。硬いコンクリートに残る生々しい爪痕。ここで戦闘を行った者が、只ならぬ力を使う者であることを示している。
 隼。胸の内で傍らに眠る彼の名を呼ぶ。するとその声に反応するかのように発せられた、小さな呻き声が聞こえた。

「う…」

「気づいたか、隼」

「っ…ユート…?」

 隼は意識を覚醒させると同時に起き上がり、ハッと何かを思い出した表情で先程のユートと同じように辺りを見回した。恐らく"彼女"の影を探しているのだろう。ユートは眉間の皺を深めて隼の行動を見守る。
 果たして、彼の第一声はユートの予測したものと違いないものであった。

「彼女は…瑠璃は。ユート…!」

 やはり。彼の声にユートは一つ息を吐く。あの程度では隼の認識を変えるに至らなかったようだ。その徒労と彼の反応を見ればため息を吐く他ないのが実情であった。

「言っただろう、彼女は瑠璃ではないと。そして彼らは俺達が追っている奴らとは無関係だ」

「だが!」

「何度も言わせるな隼」

 胸倉を掴んで引き寄せ、端整な顔を睨み付ける。急な体勢の変化に再び彼が顔を歪めて呻く。まだ腹に痛みが残っているのであろうか。しかしそれでも、彼の琥珀色の瞳はその濁りを取り払おうとしなかった。ユートにはわかる。これは真実を認めていない眼だ。

「あの爪痕。あんたがやったんだろう」

「………」

「無茶をするな隼…俺はあんたを見ていられない…。自分の身も省みず一人で突っ走って、そんなあんたの後ろ姿を見る俺達のこと考えたことあるのか。あんたまでいなくなったら、俺は…」

「……瑠璃…」

 彼の一言は小さなものであったが、ユートの言葉を遮るのには充分であった。ユートの見解は全くもって間違っていたのだ。真実を見るどころか瑠璃の幻影しかその眼に映っていない。ユートの声は届いていないことは明白であった。否、何度自愛をしろと言ったところでその言葉は彼に届くことはないのだ。何よりも大切な、瑠璃という存在を取り戻すまでは。
 ユートは唇を噛み、半ば突き飛ばすように胸倉を掴んでいた手を離した。

「何するんだっ…ユート!!」

 隼は腹部を抑えて再び地面に倒れこんだ。数回咳き込んだ後、また彼の眼がギリッと鋭くユートを睨み付ける。その瞳はユートすらも邪魔だと言い切った、あの時と同じ色をしている。それを感じ取った時、ユートは頭に血を上るどころか逆に背筋がスッと冷えていくのを感じた。

「あれだけでは、俺の言葉は伝わらなかったようだな?」

 発した言葉は氷を含んでいるかのように冷たく重い。気づけばユートは倒れた隼の上に圧し掛かっていた。大概自分も短気だな、とまるでその行動を別の自分が客観的に眺めているように、自然と口元に笑みが浮かぶ。
 行動に出てからのユートの手は早かった。素早く隼のコートを開くとスラックスのベルトに手をかけて外し、ジッパーを下ろした。

「っく、こんなとこで何をっ…やめろっ、ユートッ!」

 彼はユートの腕を掴んで抵抗したが、パンと一発その頬をはたいてやれば目を見開いたまま大人しくなった。その隙を狙ってスラックスを一気にずり下げれば勢いで下着まで脱げてしまい、色素の薄い脚が外気に晒される。丁度いい、とばかりにユートは彼の脚を持ち上げて開いた。

「あんたは頭が固いから、こうして言い聞かせたほうが手っ取り早い」

 いい格好だな、とその耳元に囁いてやると彼の身体がビクリと震えた。秘部を晒されている羞恥か、ユートに対する恐れか…もしくはそのどちらも感じているのだろうか。いずれにしろ今の彼には抵抗するという選択肢はない。抵抗すれば拳をその身に浴びることがわかっているのだから。
 開かれた脚の中央に位置する性器の下で小さくすぼまった孔に、少々乱暴に指を入れる。ぐっ、と喉の奥で潰したような呻き声が上がり、尻がぎゅっとユートの指を締め付ける。折れそうになるほどの強い圧力を感じながらユートは無理矢理抉じ開けるように指を回した。

「いっ…っ、痛い…ユート、やめっ…痛いっ…!」

「こうした、ほうがっ…言うこときくだろ、あんたはっ…!」

 隼が痛みを訴えたところでユートに行為を中断するつもりなどないことを悟ったのか、隼は首に巻いているスカーフを口に含んで噛み締めた。きつく閉じた眼の端からはぼろぼろと涙が零れている。無意識にか、伸びてきた彼の手にぎゅっと腕が掴まれた。爪が食い込み一瞬痛みに顔を歪めるが構わず、ユートは指で隼の中を広げ続ける。
 しばらく掻き回した後ユートは指を抜き、自分の前を寛げて彼の幾分か広がった孔に今度は性器を宛がった。咄嗟に隼の身体が強張り、スカーフを噛んだまま眼が見開いてユートの方を見る。
 ユートは少しばかり口角を上げてその眼に応え、一気に性器を突き挿れた。

「ぐっ…がっ、あ"ぁ"ああぁア"ァっ!っは、あ"ああっ!」

「痛いか?…そうだろうな。痛みで目が覚めただろうっ…!現実を見ろ、隼……」

 痛々しい悲鳴を上げ、挿入の衝撃で隼の身体は痺れたように震えた。苦しみと痛みで首を振りながらえづく彼の腰を掴み、ユートは意識に訴えかけるようにガツガツと激しく腰を振る。涙や涎で汚れた彼の頬を撫でながらも、腰の動きを休めることはなかった。
 隼はすがるようにユートの腕を掴む手に力を入れ、喉からひきつった悲鳴を上げ続ける。

「ヒグッ…いぁ"っ、ヒッ…ア"ァッ…るり、瑠璃ィ…!」

「っ、あの子は…瑠璃じゃないッ…!」

 咄嗟にユートは声を荒らげ、隼の口を己のそれで塞いだ。乱暴に舌を差し込んで口を開かせ、彼のそれと絡ませながら音を立てて吸う。苦しそうに漏れる吐息がズクリとユートの背を震わせた。今までずっと彼と居てキスをしたいと思ったことなど、一度もなかったのに。
 唇を離し、口の端から零れていた唾液を吸うようにちゅっと口付ける。最早言葉を上手く紡げないのか、その口から溢れるのは意味を持たない音ばかりであった。意識も朦朧としているようで、彼の瞳は像を結ぶことなく虚無に開かれたまま空を映している。
 ユートの動きに合わせるように収縮するそこに性器を締め付けられ、若い雄は溜まった熱を解放しようと脈打つ。中を抉る動きはそのままに、ユートは低く隼の耳に語りかけた。

「彼女は…瑠璃ではないっ……」

「はひっ……あっ、ぁ"っ……っはあ…は、んっ…く…!」

「隼、わかってくれ…。彼女にも大切な世界がある…彼女自身の、世界がっ……」

「はっ、…っあ!っく、んんっ……はっ、…っ…!」

「隼っ……ん、っく…!」

 視界が白く瞬き、ユートは動きを止めた。下半身が浮いたようになり、性器が大きく脈打つ。隼の中が蠢く感触と溜め込んでいた精子を放出する快感に暫し放心し、大きく息を吐いた。
 一頻り射精した後、ユートは自身の頬を伝う汗を拭って後孔から性器を抜いた。隼はう、と呻いて微かに身動ぎをするが、脚は力なく開かれたまま、中央の孔からツツ…と白濁が溢れる。その白の中に、僅かな赤色が混ざっているように見えた。
 痛みのみを与える性交で彼の性器は勃起も射精もするはずなどなく、その頭は項垂れたまま。ユートは唇を噛み、力を失っている彼の身体を支えるように抱き締めた。

「隼……」

「はぁ……はぁっ…、ん…」

「瑠璃はきっと…生きてる…」

「はぁ……、…ん……」

「また、一緒に探し直そう。大丈夫だ…必ずまた会える…。必ず……」

 その言葉は自分自身に言い聞かせているようでもあった。また三人、明るい空の下で笑い合うことができれば。ユートは脳裏で過去の在りし日を思い返す。彼女を取り戻したい、その願いは彼と同じなのだ。ただ彼は生き急ぎ過ぎている。ユートにとっては瑠璃も隼も同じように大切な存在。大切な世界。脆いくせに無茶をしがちな彼を止めるのは自分の役目だ。

 落ち着いたのか、耳元で聞こえていた息が段々と小さくなっていった。隼、と呼び掛けて背中を撫でると、ユートの背にも手が回るのを感じた。彼から言葉はなく、ただ抱き締められている。ユートも更に腕に力を強め、その肩口に顔を寄せた。
 果たして隼を彼女の幻影から救うことが出来たのか。それはユートの知りうるところではない。だが少しでも、自分の存在が彼の心を救うことができれば。そう願いながらユートは眼を閉じて彼の抱擁をその身に感じた。

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