【よかれと思って】ベクターが、してあげるっ!【ドルベ編】


「よぉドルべ」

 三年生の廊下に、ベクターが現れた。ドルべの姿を見つけてニヤニヤと笑みを浮かべている。

「何の用だ?」

 ベクターがこういう笑みを浮かべている時はあまりいい予感はしない。「よかれと思って」よからぬことを企んでいる笑みだ。警戒するドルべに、するりと腕が回された。

「ツレないなあ。お前の様子を見に来てやったのによお。…ナッシュとの仲は進展したのかよ?」

「なっ…!何のことだ!」

 突然切り出された話題に、余り見た目の変化はなかったがドルベは少なからず動揺しているようだった。ほんの少し頬が紅い。

「しらばっくれたってダメだぜ〜?知ってるんだから。お前とナッシュが付き合い始めたの」

「それをどこで…!」

 彼の表情はまさに「図星」と言ったところか。煽られ煽られ、表情がみるみる変わっていく。ベクターはそんな滑稽な彼に吹き出したいのを堪えた。

「俺の情報力舐めんなよ?つってもまあ、ギラグの情報網なんだけどな」

「ギラグ…!」

 ドルベは歯を食い縛り、余計なことを…と呟く。かなりの剣幕だが、恋は盲目というのを体現したといったところか、彼が周りの目に疎いだけだとベクターは思う。
 ベクターは全く無の所から知ったのではない。彼はナッシュを追いかけすぎている。ドルベの行動を見れば、ナッシュを少なくともそういう意味で好いているのは目に見えて明らかだった。
 その推測を確信に変えるため、ギラグをさなぎちゃんの限定ブロマイドで釣った。そうすると、あらまビックリ、ナッシュがドルベの重い好意を受け入れて応えたという情報を得たのだ。ナッシュはドルベの行動…若干犯罪染みたものや変態染みたものも全て、自分を思うが故のものだと思っているらしい。間違いではないが、少し寛容すぎないだろうか。
 しかし当人達がどうあれ、ベクターにとっては収穫だった。そのおかげで面白いことを思い付いたのだから。

「そう怒んなって。俺は恋するお前の為にちっとばかし一肌脱いでやろうと思っただけだよ。俺達仲間だろう、なあ?」

 ドルベは仲間、という言葉に弱い。彼は七皇の中で一番仲間思いだった。ベクターがそう諭してやれば、途端に彼は警戒を解いた。真面目故に至極単純だ。

「何をしてくれる気だ?言っておくが、ナッシュに迷惑が掛かることだけは許さない」

「ばぁっか!もうアイツに目ェつけられんのはこりごりだよ」

 盛大に溜め息を吐きながら言い、ベクターはぐいっとドルベの顔を引き寄せ、声のトーンを下げてその耳元に囁いた。

「…お前らは、セックスまだなんだろ?」

「な…何を!」

 今度は、ハッキリと動揺した。セックスという単語くらいで蒸発しそうなほど顔を真っ赤にする彼はウブというか童貞臭いというか……とりあえず性について全くの未経験であるということを断定し、ベクターは話を続ける。

「顔に出てる出てる。まあ、お前らがヤるとしたらどうせお前が受身になるんだろ?」

「当たり前だ。ナッシュを傷つけることなど、私にはできない。し、しかしまだそういうのは早いと思うのだが……」

「早くなんかねーぜ。男子中学生、思春期ってもんはなあ、動物みてーに性欲旺盛なんだ。お前はピンと来ねぇかもしんねーけど、アイツは一度人間世界を経験してるから性ってもんに触れてるはずだ。アイツがムラッと来て、今すぐにでもお前を抱きたい、と言われたらどうよ。…お前はナッシュの思いを拒否すんのかよ?」

「する、わけがない…。私は、それだけでも嬉しいのに……」

「だろぉ?でもなあ、男同士でスル時、どこ使うか知ってるか?このケツの穴にチンコ入れんだぜ」

 言いながら、ベクターはドルベの尻を撫でた。突然のことにふるりと身体をこわばらせ、彼はベクターを睨む。電車の中で痴漢された生娘のような反応だった。

「そんなんじゃナッシュのことを受け入れらんねぇなあ。いいか、ケツ穴っていうのは本来セックスには使えねぇ。無理に入れようとすると切れて滅茶苦茶痛いんだぜ?」

 不安を煽るように言ってやれば、ドルベは唇を噛み締めていた。ナッシュを受け入れられないと絶望しているのか、それとも痛くても我慢しようと思っているのか。そんな思い込みで悲壮感すら漂う彼が見ていて哀れに思え、ベクターは今度こそ笑いが堪えきれずフッ、と吹き出した。

「何笑ってる」

「いや、お前があまりにも真面目に考え込むからよ。ホント頭かてぇ奴だな。使えねぇ穴なら、使えるように作り変えりゃいいんだよ」

「そんなことが、できるのか?何の力もないんだぞ?」

「人間の身体はなぁ、意外と不思議なモンなんだぜ?よかれと思って、この俺様がお前のケツ穴開発してやるよ。ナッシュの為に、なあ?」

 ベクターがドルベの顔の近くでニッコリと笑う。ドルベは考え込んだ。ナッシュと、ゆくゆくはそうなるだろう。いや、そうなりたい。これは知識がなくても本能が求めるモノだった。それはドルベも知っていた。
 しかし、男は本来穴に欲望を入れる方。受けるように作られた性器はなく、受け入れる場所は肛門しかないのだ。人間になって排泄を覚えたばかりのこの穴に、何かを入れるということが想像できようか。だが、繋がりたいと思う以上そこを変える他ない。ベクターはその術を知っている。そして、ドルベの為にそれをしてくれると言うのだ。ドンサウザンドの呪いが解けた彼はもう仲間を裏切る必要はない。きっと、これもドルベを思ってのことだろう。
 そう結論したドルベは、ベクターに頷いた。

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