マーメイド・シャーク/中(上)



 ベクターの城で捕らわれた数日後、ナッシュは最初の部屋よりももう少し上質な部屋に移された。
 しかし、手の戒めは解かれないまま。裸で寝台の上に力なく横たわる。
 この部屋には鍵がかかっておらず、誰でも出入りができる。その為、毎日代わる代わる性欲に飢えた兵士達がナッシュを抱きに来ていた。
 兵士が来ても、ナッシュは力を入れることが出来ず、なすがままだった。ぼんやりとした頭で、ただ快楽のみを享受する。
 そして、彼らに言われるままに奉仕をした。

 ナッシュは気づいていないことだったが、彼の食事には定期的に媚薬が盛られていたのだ。
 薬が盛られると、いつも身体が熱くなり、思考が正常に動かなくなった。そして触れられると気が狂いそうな程気持ちが良かった。
 彼は最早矜持や感覚、正常な思考を破壊され、ただ兵士の性欲処理に使われる性奴隷へと成り果ててしまったのだった。

 今日も、ナッシュの部屋に男が訪れた。静かに横たわるナッシュの身体を強引に開き、彼の口に太い男根を入れる。

「ん、ふ……っ」

 苦しみを感じながら、ナッシュは男のそれを口で扱いた。
 何度も何度も繰り返す内、どこをどう舐めれば感じるのかわかってしまった。彼が口淫を行うと、大抵の男はあっという間に上り詰めてしまう。
 今日ナッシュを犯しに来た男も、そう長くは持たなかった。ナッシュの口から男根を取り出し、早々にナッシュの孔に挿入する。

「っふ、……はぁ、はぁっ」

 眼を閉じて眉を寄せながら、男の揺さぶるままに荒く息を吐き、快感を受け取った。尻を締めて男の快感をより引き出す。
 男はナッシュの身体を押さえ付けて、顔に笑みを作りながらガンガンと腰を振った。
 程なくして、男はナッシュの中に射精した。ナッシュも短く、色の薄い精液を出す。
 男は満足したように、精液に塗れた彼を置き去りにして部屋を出て行ってしまった。

(っ……)

 ナッシュは、小さく痙攣しながら横向きになり、胎児のような格好で蹲った。
 


 ナッシュと男の一連の行為を見ていた影があった。…そう、それは彼の心配をして様子を見に来たドルベだった。
 彼は少年の細い身体が男によって揺さぶられ、白く塗られていくのをどうすることもできずただじっと見ていた。ぐっと、淡い灰色の眼が歪められる。
 男は部屋から出ていくとき、ドルベに気づくと慌てて一礼をした。そして一瞬、ニヤリと口角をあげた。
 おそらく、ドルベがこの性奴隷を…ナッシュを抱きに来たと思っているのだろう。
 ドルベはその男を一瞥し、ナッシュの部屋へ入って行った。
 
「ナッシュ…いるか」

 声を掛けてみる。しかしドルベが部屋に入って来たのに気付いていないのか、ナッシュは蹲ったままだ。
 近づいて顔を見てみると、彼は疲れたように眠っていた。ドルベは起こさないように抱き上げ、そのまま部屋を出る。
 彼が向かったのは城に備え付けられている浴室だった。門番等の兵士が使うもので、造りはそこまで豪華ではないが広い。
 眠っているナッシュを座らせ、ドルベは湯を出して彼の身体を温めた。
 そして、石鹸を使ってナッシュの身体を洗ってゆく。

 こういうことを始めたのは、ナッシュが性奴隷として扱われるようになってからだ。
 彼をこの城へ連れてきた数日後、ドルベはようやくナッシュに会うことができた。彼はずっと城の奥の一室に監禁状態だったのだ。
 久しぶりに会った彼の眼は虚ろで、生気がなかった。しかし、快感にはしっかり反応し、言いつければ奉仕も行う。奴隷そのものだった。
 その、ナッシュのあまりの変わりようにドルベは絶句し、そして後悔した。

(私がここに彼を連れてこなければ、彼はこんなことにはならなかった)

 命を取り留めたとしても、人として生きる意味を失ってしまっていてはそれは死んだも同然だった。
 ドルベは悲しみ、せめてもの罪滅ぼしとしてナッシュを浴室に連れてゆき、身体を隅々まで洗ってやった。中に流し込まれた何人分のものかわからない精液もそっくり掻き出して洗い流してやる。
 たまに、激しい行為を強要されたのか、失禁しているときもあった。しかしそれでも構わず綺麗に洗ってやる。
 意識はあるのだろう。時折、ピクリと身体を反応させたり声を掛ければ体勢を変えてくれる。
 しかし、思考が正常に働いていないようだった。その眼にドルベが映っているのかも疑わしい。
 まるで、ナッシュを介護しているようだった。人の身体を清めるのはそう簡単な仕事ではない。それに洗っても洗っても、また彼が誰かを受け入れれば途端に汚れてしまう。
 だがこうしないと気が済まなかった。これは自分の彼に対しての罪なのだから。

 ナッシュを洗い終わったあと、またそっと抱き上げて元の部屋へと運ぶ。気持ちが良かったのか、彼は先程よりも安らかな寝顔をしている。

「おろすよ」

 部屋に着き、一声かけてドルベは寝台にナッシュを寝かせた。奴隷は拘束を解くことと服を着ることは許されない。せめて風邪をひかないように、傍らにあった薄い布団をかけてやった。
 次の客が来るまでの、その場しのぎでしかなかったけれど。

「おやすみ、ナッシュ」

 ナッシュの寝顔にニコリと笑いかけて、ドルベは部屋を出た。




 ナッシュはぼんやりと眼を開けた。今日は夜に3回程抱かれて、そしてそのまま眠ってしまった。夜中には誰も来なかったらしい。

(いい……匂いがする……)

 身体から、精子の生臭い臭いではなく、石鹸のいい香りが漂っていた。
 いつも、意識を失ったあとこうやって誰かに身体を清められていた。深い意識の水底でだが、誰かが優しい手つきで洗ってくれているのを感じた。
 眼を覚ますと、どんなに汚れていた時でも、何事もなかったように綺麗になっていることが多かった。最も、眼を覚ます前に誰かに犯されまた精液塗れになっていることも少なくはなかったが。
 誰かはわからないが、皆が自分を性処理の道具としてしか見ていない中で、情けをかけてくれる人間がいたのだ。
 ナッシュはごろりと寝返りを打つ。ジャラリと、腕を拘束する鎖の音がした。その音はナッシュを現実へと呼び戻した。

 自分は、声と人魚の身体を捨て、人間に復讐するために人間になってここに来た。なのに、その人間に一矢報いること叶わず、今彼らの道具として生かされている。
 ーーー屈辱だった。抵抗も攻撃も出来ず、虚しさだけが残る。
 あの自分を見下す王の顔が思い浮かんでは、はらわたが煮えくり返る思いに苛まれる。

(俺に力があれば……もっと力があれば。畜生……)

 屈辱と快楽の間でどうしようもない憎しみが生まれた。人間の王に、自分を抱く人間に、そして非力な自分自身に。
 気が狂ってしまいそうだった。……否、正気を保っていられるのが最早不思議なことだったのだ。
 ナッシュは歯を食いしばって寝台を殴りつけた。

 しかし、彼には考える暇は与えられなかった。
 ナッシュの部屋の扉が開く。
 次の客が、やって来たのだった。



「っ……ふ、あぁっ……ああ……」

 ドルベは今日もベクターの部屋に呼ばれて、彼に抱かれていた。後ろから貫かれ、背中を反らして喘ぐ。

「お前の身体は、その辺の女より淫乱だな。ほら、もっと尻を締めろ」

 背中をパチンと一つ叩かれるだけで快感だった。ビクビクと身体を震わせて孔を締め、中のモノを締め付ける。

「ひゃあ、んんっ!あっ……陛下!気持ち…あぁっ……!気持ちっいぃれすぅっ…!はぁ、んっ陛下っ……!」

 最近、ベクターがドルベを部屋に呼ぶことが多くなった。
 しかしすることは変わらなかった。ただ気紛れにドルベを抱く。彼は、女に飽きてしまったのだろうか。
 そんなことを考えながら律動を受け止めていると、背後で笑い声が聞こえた。

「そろそろ、ナッシュの奴も頃合いだろうな」

「……!?」

「奴は恐らく、俺が侵略した敵国の民か……まあ、その辺りだろう。俺に牙を剥くためにこの国、ひいては城へ入ってきたのだろう。……誰かのお陰でな」

「あああっ!」

 愉しげに、ベクターは彼のモノをくわえこんでいる尻をピシャリと叩いた。衝撃と快感にドルベは悲鳴を上げて寝台に頭を擦り付けた。

「俺に危害を加える意思があるうちは、それを取り除き快楽と奉仕を教え込ませるために調教させておいた。しかし奴の状態を聞くに、そろそろ俺が使ってやってもいいほどに慣らされているようだかな」

 ドルベは寝台から頭を離し、眼を潤ませて彼の方へ振り向いた。

「ならばっ……陛下……はぁ、…一つ、お伺い、してもっ…ぁ、…よろしい、でしょうか……?」

「ほぅ、なんだ?」

「敵国の、民と……見破られて…おりながらなぜ、彼を生かし……はぁ、……彼を連れてきた私を……罰されないのでしょうか……?」

「フン。そういう奴隷がいても悪くはあるまい?それに、あの憎しみに染まった眼を快楽に染め上げ俺の前に屈させるのも一興」

 ベクターが背中に覆い被さる。深くなった結合にドルベは短く悲鳴を上げた。
 そして耳元で、彼はドルベを煽るように囁いた。

「お前も一度奴を抱いてみてはどうだ?声は出ないが肌や具合はいいようだぞ」

「………!」

 驚き、声を発しようとした瞬間、ベクターが動きを速めた。激しくドルベの尻に太股をぶつけながら、彼は容赦なく中を穿ち、前立腺を突く。

「あっ…!あっ、あっ、あっ、あぁっ!激し、激しいっ……んんっ!ぁ、陛…下っ!」

「お前のような淫乱では物足りないかも知れないがなあ」

 そのままベクターが揺さぶっていると、限界が近づいたドルベは自分のモノを片手で扱き始めた。
 ベクターも息を荒らげ、己を追い込むことに集中する。

「んっ……ぁ、ああぁ、あっ……!」

 ほどなくしてドルベが自分の手の中に射精し、その後ベクターも彼の中で果てた。

 ベクターはドルベの中からズルリと引き抜き、寝台に座って余韻に浸る。ドルベは脚をガクガクと震わせながらベクターの方へと近づいた。
 彼はドルベの頭を掴み、精液を出して汚れたモノを舐めさせた。王の性交の相手をする者は皆こうやって、最後に彼のモノを清めるのだ。

「ん……んぶっ……ぅ……はぁ…っ…」

 一通り精液を舐めとり、また残りも吸い出して、ドルベはベクターのモノから顔を上げた。
 そして王の許しを得ていそいそと着替え、彼の部屋を後にする。

 自分の後処理は家に帰ってからだった。浴槽に湯を張り、身体に湯をかけて中に出されたベクターの精液を掻き出した。

「んんっ……は、ぁ……」

 排水口に湯と共に白濁液が流れるのを見る。子を成すことは出来ず、ただ受け止めては流れていく彼の精液。そしてそれは自分にもあるものだった。
 ふと、ナッシュの身体を清めていた時に彼の中の精液を掻き出していた時のことを思い出す。自分と同じように、彼にも誰かのものが出されていた。誰かのものが……。
 ふるりと身体が震え、ドルベは我に返った。今自分は何を考えていたのだろうか。
 一瞬だけでも彼の中に自分の精液を出したいなどと思ったことが浅ましく感じ、自嘲した。

 ナッシュは、男と言えど顔は整っており、身体も開発されているとなれば、女に飢えた兵士ならば喜んで抱けるような、道具としては上質のものだった。
 しかしドルベは、いくら彼が性奴隷であり自分にもナッシュを「使う」権利があったとしても、彼を抱く気にはなれなかった。ナッシュを性欲処理のための道具として彼を見ることなどできなかったのだ。
 ドルベが彼に対して抱く思いは、そういうものとはもっと別の所にある。その筆頭になるものが、「罪と責任」であった。

 ドルベは身体を洗うのもそこそこに、渦巻いて行く思考を振り払うように浴室を出た。
 そろそろ、ナッシュを洗ってやらねばならない時間だ。

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