一万分の一よりも
「ねえ光、見てこれ!」
そう言いながら、嬉々として柚南が差し出す手の中にあるのは、葉の四つついたクローバー。
俗に言う四葉のクローバーである。
「…で?」
「で?って何よ。もっと他に何かないの?」
「四葉のクローバーやんな」
「そう!すごくない?」
それが四葉のクローバーだという事実を述べただけにも関わらず、柚南の表情はぱっと明るくなった。
「おーすごいすごい」
「棒読みじゃん」
すごくないかと聞かれたので、すごいと答えたのに何が悪いというのか。
勿論、別段すごいとは思っていないので、言葉自体に感情は全く籠もっていなくても仕方ない。
そんな事を思っていると、さっきまで大はしゃぎだった柚南が、急に大人しくなった。
不思議に思い柚南の方へ顔を向ければ、じっと四つ葉のクローバーを見つめる柚南が目に入る。
「ねえ光」
「ん?」
「知ってる?」
「知らん」
「まだ何も言ってないし!」
「聞かれたから答えたっただけや」
財前の言い分は間違っていないが、柚南はまだ何を知っているのかを言っていないのだから、納得できるはずもない。
少しむくれながら睨むが、何の迫力もなかった。
「はぁ。で、何を知ってるって?」
仕方ないので財前が折れ、呆れたようにため息をつきながら聞けば、「ふふん」と、音符マークが付きそうなくらいに得意気な柚南が話し出す。
「あのね、四つ葉のクローバーってね、自然には一万分の一の確立でしか生えないんだよ!」
「へぇ」
「反応薄いー」
いったいどんな反応をしてほしいのだろうか。
一万分の一と言われても、ぴんとこないのが事実だ。
「一万分の一だよ、一万分の一」
「わかったから連呼すな」
「光はこの凄さがわかってなーい!」
いつになく真剣な顔で詰め寄ってくる柚南に、笑ってはいけない場面なのだろうが、なぜか笑いが込み上げてきた。
ああ、そうか。
一万分の一なんてたいしたことあらへんやんな。
「なあ柚南」
「んー?」
「一万分の一より、俺のが凄いで」
「は?」
唐突に何を言い出すのだろうか。
変な事に対抗意識を燃やすのはいつもの事な気もするが、一万分の一に何で対抗しようとしているのだろう。
「六十億分の一」
「六十億…?」
「ん。俺は六十億分の一の中から柚南を見つけたやん」
「…!」
余りにも臭い台詞をしれっと言ってのける財前に驚いたのと同時に、顔に熱が集まってきたのを感じた。
「で、でも告ったのあたし…」
「告られるずっと前から、柚南が俺のこと好きなの事知っとったで」
「え」
自分がその事を知らなかったのが、なんか悔しい。
2011/04/29(Fri)