寒くなくなった
「んー、もう春だっていうのに寒い」
「せやなぁ、この前なんか雪降ったしな」
学校からの帰り道を並んで歩く。
柚南がふと呟いた言葉に、白石はちゃんと返事を返してくれる。
「早く桜の花が見たいね」
「でも桜が咲く頃には俺ら高校生やで?」
「うん。でも、蔵と同じ高校だから気にならないや」
嬉しくなるような事をさも当然のことのように言う柚南に、白石は少しだけ笑ってから、
「ほなら、俺も気にならん」
「?」
「柚南と同じ学校やからな」
柚南は白石の言葉に、嬉しいと感じ、顔を綻ばせる。
そんな柚南の顔を横から覗き込んで、
「なぁ、手ぇ出して」
と、真面目な顔で言う。
「え?」
「大丈夫、折ったりせぇへんよ」
冗談ぽく笑う白石に少しどきっとする。
「うん…」
怖ず怖ずと手を差し出せば、白石はその手をとってひざまづき、手の甲に口付けた。
「!!」
驚いて手を引こうとするが、強く握られて動かなかった。
ひざまずいた白石の目の高さにある自分の手。
その先から、いつもより真剣そうな、射抜くような目で見つめる白石から、目が逸らせなかった。
「柚南」
俯いた柚南に、普段より低い声で、小さく、けれどしっかり聞こえるように白石が名前を呼べば、赤くなった顔を上げた。
「手、このまま繋いどってもええ?」
「う、うん」
まだ顔の熱は引かなくて、寒さなんかいつのまにかどこかに行ってしまった気がした。
2011/2/8(The)