期待してまっせ

数歩歩けばそのままついてくる。ぺたぺた、ぺたぺた、と。私が止まれば彼も止まった。ひよこのようだ、と例えれば可愛いものだが。これが短刀なら文句はない。しかし振り返れば不機嫌そうなたぬきがいる。圧しかかけられてねぇよ、これ。主のこと殺気で殺す気かなこの子。なんだよ、さっきからさぁ。

『たぬきよ、文句があるなら口で言いなさいな。今は喋れるんだから。』

「たぬきじゃねぇ。」

『あんた最初好きに呼べっていったじゃん。他所もたぬき、が支流っぽいし。呼びやすいし、可愛いじゃん。』

「可愛いとかどうでもいいんだよ!ああ、このさい呼び方はどうでもいい!戦!戦に行きてぇんだよ、俺はっ。なのに駄目、反対、内番、とかいうから睨んでんだろうが。言ったところできかねぇじゃねぇか!」

『んま、主に対してなんて口の聞き方なのかしらー。そんなじゃいつまでたっても出陣なんてさせられませんぜー。』

「…むかつくな。される気ねぇんだろ、どうせ。」

『ありますとも。』

睨んでたと思ったら落ち込んで。そして今度は嬉しそうな顔をした。同田貫正国ってわかりやすい。私の中でのたぬきのイメージはそれ。刀は戦う物。だから強ければいい、飾り何てどうでもいい。戦が好き、ちまちましたことは嫌い。他の審神者は仲良くなるまで怖い、っていう可愛らしい女の子もいたが。打ち解けてしまえば楽だ。私は最初から楽だ。考え方が一緒だから。

『刀は強ければいい。そしたら怪我しないし、折れないし。そのためには戦に行く必要がある。』

「その通りだ。」

『しかしそれ以外にも人間になったからにはある。ご飯を食べなきゃ力が出ない。刀の時は兜を割ったかもしれないけど人間の身体ってのは面倒なのよ。鍛えなきゃそのいい刀は使えない。だから筋トレとか稽古とかも大事なの。』

「んな事わかってるよ。筋トレも稽古もしてんだよ。いい加減戦にだせっていってんだ。」

『強くなったとおっしゃりたい。』

「ああ、そうだ。…ってか気持ち悪いからやめろよ、たまに丁寧に喋んの。おちょくってんのか。」

『たぬきは顔に出るから面白いのよ。』

「いい度胸じゃねかぁ。」

ぴきぴき、と青筋がたつ。きゃあ、なんて棒読みしてみてもイライラを増やしただけらしく頭をぐりぐりされた。いたたたた、主ですけど。私主なんですけど!!戦に出そうと思ったのに、なんてぽそりと言えばすぐに手を放し嬉しそうにする。やはりたぬきはわかりやすくて可愛い。明日からイベントが始まるから行っておいでよ、といえば拳を出してきた。

「必ずあんたの望む結果を持ってくるからよ。期待して待っとけ。」

そう好戦的に笑ったたぬきに期待してるよ、と笑い返し部屋に戻る。そして数日後、私の部屋の前で死んでいるたぬきを発見した。死んでいる、といっても比喩だけども。完全に伸びている。歩くのもやっとで倒れている、と言った感じかな。しゃがみ込み顔を見ると目は開いていた、こっわ。

『どうしたー、たぬき。』

「…お前は鬼か。」

「ありゃ、主は鬼だったのかな。それじゃあ切らないといけないね。」

『ちょっとやめよう、髭切さんや!おい、たぬき!お前が余計なことをいうからっ。』

「冗談だよ、冗談。それできつねくん?はどうしたんだい。」

『私が今たぬき、って言ったのに。君は本当に期待を裏切らない男だよ。』

「ありがとう。」

『褒めてないよ。髭切、わるいけどなにか甘味を持ってきて、3人分。疲れた時には甘いものだよ。』

「わかったよ。」

たぬきの頭をぽんぽんと優しく叩く。さすがに運べないから部屋まで頑張ってよ、というと身体を重たそうにあげて部屋に入った。イベントで周回させまくっている第一部隊。疲れたメンバーから代わって休んでもらっているが、たぬきは出ずっぱりだった気もする。赤疲労とかって隠せたりするシステムありましたっけ?なにそれ気合?

「悪かった…。」

『次回から自分の部屋で休みなよ。心臓に悪いから。』

「そうじゃねぇよ。期待しろ、って言った割に結果を出せなかった。」

『あー、報酬のドロップか。いいよー、あんなん奇跡のレベルだし。まぁ、回りまくればいつかでるって。たぬきの出陣が無駄なわけじゃないでしょ。それにレベルも結構上がったしさ。こうやって交代で戦を回すのも仲間なんだし戦略のひとつでしょうよ。』

「…そうかよ。」

『怒るとしたら、仲間を頼らなかったことかな。疲れたの隠して、重傷おったらそれこそぶん殴るよ。』

「そりゃ怖えな。」

『そうだよ。強いものは引き際もみれる、周りを見れる、そういう人だよ。力だけが強さじゃない。それは大分わかってきたと思うけどね。』

「ああ、あんたのおかげでな。ただ、久々の戦だったからよー。張り切っちまっただけだ。ここで手柄をたてればまた戦に行ける、そう思うのはもうしょうがねぇ。しみついてるもんだ。」

『一人で突っ走るような奴は戦にはださない。昔のたぬきのようにね。けど今は違う、期待してまっせ。』

拳をだせばこつん、と返ってきた。あれは地獄だった、と嫌そうな顔をするたぬき。中傷なのに出陣するとかわめくからいけないんだよ。江雪さんに気絶させてもらって内番と稽古(レベルの差ありまくり)でずっとぶち負かす、という事を繰り返したのが効いたな。強ければいい、しかし強さは様々だ。ああ、戦に行きてぇ、と呟くたぬきの頭を叩いた。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -