09

あれから少したって僕らが付き合っている、ということは学校に広まっていた。苗字さんは恥ずかしがっていたけど牽制の意味をこめていたらいつのまに、という感じだ。彼女は気づいてないだけで交友関係が広い。ただの友達だよ、と笑っていうが男は思っている以上に単純という事をわかっていない。君に笑いかけられただけで気があるのか、と下心をもって近づく輩。それを僕は笑いながら圧をかける。だから周知の事実となるのは僕的には満足だ。

「堀川、こわーい。」

「え、なにが。」

「他の男睨み過ぎだって。廊下でさりげなく手つないだり、教室のドア開けたりさ。クラスではそんなべったりしてないんでしょ。ってことはそれ全部他の野郎の目気にしてやってんでしょ。」

「清君はよく見てるなぁ。兼さんなんか全然気づかないけど。クラスでは女の子と話したり色々あるだろうし。僕がずっとくっついてて彼女が恥ずかしかったり気まずい思いをするのは嫌なんだ。だから一応自重してるよ。」

「偉い。まぁ、十分バカップルだけどねぇ。自重してるならさ、俺らの前でもしてくれない?」

「清君達の前でも引っ付けなかったらどこで引っ付くのさ!」

「必死か。」

学校という場所は人の目が多い。先生から生徒まで大勢の前で付き合ってる、と公言はしなくていいと思う。そういうのを目にして不快になる人もいるから配慮しなければいけない。かといって苗字さんが寂しいと思ったり、別れたと思われるは許せない。そして隙あらばと思ってる低俗な男どもにもわからせなければいけない。彼女は僕の物だと。

『あ、堀川君。あれ、加州君もいる。』

「お、噂をすればってやつだ。やっほー。」

『え、悪口?』

「んなわけないでしょ。堀川が苗字さんを好きすぎてうざいよねって話。ああー、俺も彼女作ろっかなー。」

「ふふー、いいでしょ。でも、苗字さんからの愛が足りないと思わない?僕はこんなに愛情表現してるのに。」

「堀川が重いだけじゃないの。」

「え、清君だって愛されたいでしょ。」

「そりゃ勿論!俺だけを見て可愛がってくれる人がいいに決まってるじゃん。」

「だよね!」

『いやいや、ちゃんとす、好きだよ…。』

「…嬉しそうだね堀川。お邪魔虫は退散するよ。堀川の事甘やかしてあげてね、イライラしてるから。」

『え、』

余計な事を言って去っていったな。大丈夫?と清君が座っていた席に座り僕を見つめてくる。苗字さんが可愛いからいけないんです、といえば意味わからないという顔をされた。他の奴らが君を見てる、なんて言ってもきっと信じてくれないんだろうな。醜い嫉妬なんてかっこ悪いから大丈夫の意味を込めてその白い頬を撫でる。

「そういえば迎えに来てくれたの?」

『うん、先生への用事終わったから。そういえば長曽根先輩に会ったよ。堀川君をよろしくってさ。いいお兄ちゃん、って感じだね。』

「そうなの。じゃあよろしく頼みました。」

『ふふ。なぁに、それ。和泉守君は?一緒に帰らないの?』

「え、3人で帰るつもりだったの?」

『うん。この前一緒に帰ったじゃん。』

「いや、そうだけど…。あれは部活終わりの流れでたまたまであって。さすがに兼さんも気を遣うでしょ。」

『気を遣えたんだ。』

「はは、どうかな。でも今日は安君と帰ってたから気を使ってくれたのかも。そのおかげで2人きりだね。」

『っ、』

机に置いてあった手を恋人繋ぎにして、軽く引き寄せる。柔らかい唇に吸い込まれるようにキスをすれば彼女の息が止まった。いい加減なれればいいのに一々びくつくとこが可愛い。でも一回してしまえば僕に合わせるように頑張ってくれる姿も可愛い。机が邪魔で彼女の横に移動する。もう一度キスをしようとすればやんわりと静止された。え、嘘でしょ。

『きょ、教室なんですけど。』

「うん、でも放課後だし誰もいないよ。人の気配もないし、ドアも締まってるし。」

『で、でも急に誰か来るかもしれないでしょ。あ、イライラしてるって言ってたし煙草吸いたいの?』

「苗字さんが好きだからしたいんだけど。」

『ひぃ…、』

「ふふっ。なにその悲鳴。」

『そんな台詞がさらりとでてきて怖いなと思って…。』

「最近煙草吸いたい、って衝動ないかな。イライラしても苗字さんに会うとほっとするっていうか。キスしなくても大丈夫かも。あ、キスはしたいけど。んー、まぁ確かにさっきはちょっとイラついてたけど。」

『そういえばどうしたの?なんかあった?』

「…原因は君だけどね。」

『え。』

なにかしたか、と考える彼女。そりゃあ他の男が君を狙っててイラつくなんて思いつかないだろう。だからキスしてよ、と笑いかければ固まった。苗字さんは僕のお願いに弱い。それを知ってるから僕はあえて頼む。ねぇ、お願い。君が好きだから、触れたいし触れてほしい。君からのキスが欲しい。イラついてるから、煙草吸っちゃうよ。吸う気なんてさらさらないくせに。可愛い君からキスがもらえるならそんな嘘を僕はいくらだって吐くだろう。

『…堀川君って本当意地悪になったよね。』

「ん?どうして。」

『わかっててやってるでしょ。…私が拒否しないことを知っている。』

「言ったじゃない。結構邪道でね、って。それに僕のお願いも嘘ついてることもわかってて、それを理由にしてる苗字さんも結構意地悪だと思うけど。」

『だって恥ずかしいでしょうよ!』

「うん、だから僕をキスの言い訳にしていいから。だから頂戴。」

『っ、』

「…じゃないと僕からしちゃうよ、」

『する気ある?』

「ない。したいけど、苗字さんからして欲しいから今は僕からしない。」

にっこり笑ってやれば彼女が溜息をついた。僕の肩に手を置くが中々先に進まない彼女に早くしないと誰か来ちゃうかもよ、なんて言う。ぐっと肩に置いた手に力が入り困ったような顔をする。するり、と彼女に近づきおでこと鼻に順番に小さくキスをする。それに少しほっとしたみたいだが仕上げとばかりに首筋を舐め上げれば小さく悲鳴をあげた。力の入る両手を再度恋人繋ぎにして僕は耳元で囁く。名前、早く僕にキスをして。



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