08
堀川君の前で泣いてしまった。高校生にもなって人前で泣くなんて思いもしなかった。恥ずかしくて顔があげれないけど抱きしめられてるのもどうなのだろうか。屋上とはいえど誰か来てしまったら、そう思うと途端に羞恥心がこみ上げた。しかし柔らかな柔軟剤の香りと少し煙草の匂い、それから堀川君の匂い。呼吸した私にその匂いは凄く落ち着いた。少し冷静になったところで思い出した。
『(さっきのって告白なのかな?)』
「苗字さん、」
『はいっ!いつまでも体重かけててすみません!今すぐ離れます!』
「いや、それは全然いいんだけど。軽いし、苗字さんいい匂いするし。」
『え、そうかな。堀川君の方がいい匂いな気がする。』
「え、僕?今煙草臭いでしょ。ごめんね、もうやめるようにする。」
『やめれるの?』
「うん、吸いたくなったらキスするから。あ、兼さんとじゃないよ。わかってる?」
小首をかしげてのぞき込んでくる甘い顔にきゅんとするのがわかった。えっと、やっぱり堀川君は私が好きってことでいいのだろうか。いやそうなんだろうけど。だってさっき近藤さん達みたいに仲良くなれたら、って言った。それはむっちゃんや加州君たちも指す。しかしそのあとに僕の側にいて、とも言ってくれた。っていうかキス。
『なんでキス?』
「自分で言ったんでしょ。煙草を吸うのは口寂しいからで、キスすればいいって。だから煙草が吸いたくなったらキスするから。それ以外でもするけど。」
『え、』
「してもいいかな?」
『えっと、(言い出したのは私だし、あの時は冗談だったけど。堀川君のことは好きだし、さっきのキスも…)は、恥ずかしい、』
「大丈夫だよ。苗字さんの可愛い顔を見てるのは僕だけだから、」
『よく、そんな台詞が言えますね…。ふ、ふたりきりなら、』
「本当?ありがとう。ねぇ、苗字さん。」
『うん?(告白のこと聞かないと、)』
恥ずかしすぎて、考えることがいっぱいで顔を見られたくなくて。堀川君のネクタイあたりを見ていた私を優しい声で呼びかける。条件反射で上を向けば、少し骨ばった手が私の両頬を包んでキスをした。驚きで目が閉じれない私に反して堀川君は目を閉じていて、その整った顔と長いまつげが心拍数をよりあげる。角度をかえて可愛く唇を啄む堀川君を制止する。やばい、見とれてた。我に返った。
『な、なんでっ、』
「してもいいっていったよね。」
『いや、今だとは思はなくてっ、』
「嫌?」
『いっ!?い、嫌じゃないけど学校だし。いや、さっきからあれだけど、その、色々と急展開過ぎて、』
「でも、2人きりじゃないと嫌でしょ。僕もあんまり可愛い君を他に見せたくないし。苗字さんキスすると隙ができやすいから。学校が嫌なら、家でもいいけど。僕、絶対キスだけで終わる自信ないけどいいかな。」
『…。堀川君、あの可愛い堀川君はどこへ行ってしまったの、』
「やだなぁ、変わらないって。昔も今も僕は僕。頻繁に切れたりはしないけど、根本的には変わらないし。好きな子に触れたいって思うのは当然でしょ。それに猫かぶってるつもりはないけど、苗字さんはこういう僕でもいいって言ってくれたし。」
『いや、うん。好きだけどかっこよすぎて心臓が持たないよ。』
「それはよかった。これからも僕でいっぱいドキドキしてね。」
頬に可愛くキスをする堀川君。笑ってる顔はいつも通りさわやかだ。やばい、雄みがやばいよ。確かにはっきり言ってくれる方がありがたいけど、こうもストレートだと反応に困るよね。というか好きな子、っていったかこの人。とりあえず冷静さを保つために堀川君から離れよう。ずっと座ったまま抱き合ってるし。あ、恥ずかしさが!
『…なんでホールドするんですか。』
「なんで離れようとするの。」
『いや、色々冷静になろうと!大体堀川君私の事好きなわけ!』
「え、今更。」
『いや、うん。一応再確認的な、ほら!色々言ってくれたけど、告白ってとっていいのかわからなくて。』
「はぁ、やっぱり通じてないのか。じゃあもう一回深いやつから、」
『キスは十分だから!』
「気持ちよさそうだったけど、」
『きっ!は、離して!堀川君の意地悪っ!馬鹿!』
「あはは、ごめんごめん。」
「本当に屋上にいるわけー、っていた。あ、やばい。」
「おい、国広ー。おいおい、学校で盛ってんじゃねぇぞ。」
「あれ、2人って付き合ってたっけ?」
がちゃりと開いたドアから3人が入ってきた。鍵閉めなかったの?と堀川君が聞いてくる。いや、こんな長居する気なかったからさ。昨日のキスはどういう意味かって聞いて帰るはずだったのだ。こんな風になるとは、と考えたところで堀川君から瞬時に離れる。もう3人には見られてしまったけどあのままの体制は恥ずかしすぎる。とりあえず逃亡を図るがドアには3人がいてあっさり捕まる。にやにやという視線が痛い。とりあえず安全そうな大和守君の後ろに隠れる。
「国広君なにしたの。すっごい怯えてるけど。」
「え、なにもしてないよまだ。」
『嘘つき。』
「じゃあなにしたか事細かにいってもいいの?」
『言わないでください!加州君!堀川君がいじわるだよ!』
「だから案外邪道だから気を付けなよ、って言ったじゃん。いいじゃん、今までの堀川には雄を感じなかったんでしょ。異性として見れるようになってよかったね。」
「へぇ、そんなこと言ってたんだ。」
「清光、お前スイッチいれちまったぞ。苗字頑張れよ。」
『嘘でしょっ。』
「大丈夫、大丈夫。僕好きな子には優しいから。」
「あー、でっろでろに甘やかしそうだもんねぇ。国広君しつこそうだし、頑張ってね。」
『さっきから頑張れしか言われてない。』
「あ、そうだ。苗字さん。好きなんで付き合ってくれますか?」
「なぁに、告白してなかったの?駄目じゃん、女の子は口にしてほしいんだよ。」
「うん、いや口にしてたし態度にも表してたんだけど。はっきり言わないと駄目みたいで、」
「お前は回りくどいんだよ国広。好きだ!っていえばいいのによぉ。」
「兼定が単純馬鹿なんでしょ。国広君は外堀から埋めてってるんだよ。こうじわじわと、」
「なにそれ怖い。」
『なにそれ怖い。』
加州君とまったく同じ意見だよ。外堀、ではないにしろじわじわせめられていた気をする。しかしはっきり言うところは言うし、もてるんだろうなこの人。じっと、みると惚れた?と意地悪そうに笑った。皆と会った時の事を思い出し赤面する。デジャヴだよ。気づいてるくせに、言わせたいのだろうか。やられっぱなしも釈然としないので好きだよ、といえば嬉しそうに笑った。可愛くてかっこいいって何なのこの人。ずるいなぁ、と思いながら大和守君の後ろに再び隠れた。