素晴らしき行動力

主君を見た時に、護衛の仕事かと思った。側に使え、お守りし、戦にはあまりでないのだろうと。しかし今回は歴史を守るため、僕も戦うという事。それに伴い主君も戦にかかわるという事。僕がいた時代の女性とは主君はまるで違ってはいるがとても出来る人だ。そして不思議なお方だ。

「主君、ここにおられましたか。」

『あら、前田。探させてしまった?ごめんよ。』

「いえ、長谷部さんが主がいないと言っていたので。」

『仕事は全て終わらせたから大丈夫だよ。遠征部隊もまだ帰ってこないし、夕餉の時間にはまだ余裕でしょ。』

「もう仕事を終わらせたのですか。朝見た時には書類が山になっていましたが。」

『ああ、資料も混ざっていたからね。そう見えただけで実際にそんな量はないよ。』

「それではどうして書庫へ?お仕事以外のなにか書物をお探しですか?僕も手伝います。」

『いやいや。前田、ここへおいで。』

書庫の奥、日当たりのいいところの椅子ではなく地べたに座り壁にもたれかかっていた。奥に足を踏み入れないとわからない場所にいた主君は自分の隣を指す。命令通りに隣に正座して座ると真面目だねぇ、と笑われる。どうして主君はこんなところに座ってるのだろうか。

『日が暖かくて、風が気持ちいでしょ。それにほら、』

「…稽古の音ですか?」

『そうそう、あと誰かが通ると声が聞こえたりね。椅子に座ると窓の外から座高が高くなってこっちが見えるわけよ。そうすると皆がわざわざ声をかけてくれるでしょう。嬉しいんだけど、私は皆の素というか日常の音が好きなの。』

「だから床に座っているのですか。」

『そ。それに書庫の匂いって好きなんだよね。皆の日常の音を聞きながら本に目を通すのが最近のブームなの。』

「ぶーむ?」

『あー、日課というか。たまたま本丸ぶらついてて迷ってさぁ。休んでたのがきっかけなんだけど。』

「まだ迷われるのですか。」

『広いんだってこの屋敷…。仕事するときはあそこの部屋に引きこもりっぱなしだから。反動でフラフラ歩いてるとねえ。どうも迷うんだよね。多分ぼーっと歩いたり外の景色見てて道を覚えようとしないんだろうね。』

「それは…、長谷部さんが探すのも納得ですね。」

『でもほら、こうやって偶然楽しい事も見つけられるし。』

「主君は仕事ができるしっかり者ですが、息抜きも上手な不思議な方ですね。楽しい事を見つけるのがお上手です。僕もよく鳥の声を聴いていますが、皆の声もいいものですね。」

『私って不思議?』

「いや、その!悪い意味ではなくてですね!」

必死に弁解しようとする僕をわかってるよ、と笑ってくれる。仕事や戦の事になると急に真面目な顔になり空気がぴんと張る。自分の背筋が伸びるのがわかる。しかしそれが終われば途端にそれがなくなりふわっとした空気になる。お腹すいたー、等気の抜けける事をいって周りもそれにつられる。

「主君は切り替えが上手で素晴らしいです。」

『考えるのが面倒なだけだよ。今日はここまでで終わり、って思った方が頑張れるでしょ。私はすぐサボりたい気質だから自分にムチ入れないとやれないの。ようはマイペースなんだろうね。えっとマイペースは唯我独尊じゃなくて自分主義じゃなくて。周りに合わせず自分の時間で動く、みたいな。』

「そうは見えませんが…。主君は周りをよく見て、優先順位をつけて仕事を進めるので効率もいいです。だから自由な時間ができるんですよ。働き方が上手なのです。僕は主君の仕事姿、カッコいいと思います。」

『そういってもらえると主冥利につきるね。それで前田は長谷部に言われてここに来たの?』

「いえ。それもありますが、僕自身が気になったものですから。仕事が終わらないようでしたらお菓子でも差し入れしようかと。」

『…タイ焼きが食べたい。』

「はい?」

『タイ焼き、食べたくない?』

「たい焼き、ですか。」

『そう。そういえば小腹がすいたと思ったら15時なんだね。前田、食べに行こう。』

「い、今からですか?」

『前田がお菓子っていうから。』

けしてそういうつもりで言ったわけじゃないのだが。こういうところが不思議だ。いつもしっかりしているのにたまにとんでもない事を言う。タイ焼きは可愛いものだが、この前は急に鮪食べたい、と言い出し解体ショーを企画していた。思い立ったらすぐ行動。次の行動が読めなくてはらはらするが計画性はばっちりだから不思議だ。

『今から行けば夕餉の支度には間に合うし、仕事は終わってる。ついでに醤油がすくなかったから買いに行って。ああ、郵便物もあるからポストによって。そしたらあの書類も一緒に出したいから…。前田、数分待ってくれる?書類仕上げる。』

「はい、勿論大丈夫ですが…。」

『ん?タイ焼きじゃないやつがいい?』

「いえ!お供いたします!」

『そーか。いいんだよ、食べたいものがあったら言って。私はタイ焼きの気分なだけだから。』

「僕も主君からタイ焼きという言葉を聞いて食べたくなってまいりました。」

『お、それはよかった。そしたら書類を早く片付けてくる。この本は今後使えそうだから部屋に帰ってじっくり読む。こっちとこっちは必要なとこメモしたから、戻しといてくれる?』

「(いつの間に)かしこまりました。お部屋にお持ちになる本と対になる本が確かありましたよ。本をお戻ししたら、そちらの本も探しましょうか?主君が書類を仕上げる間には探し終えると思いますので。」

『本当に。ありがとう前田。気が利くのね、さすがだ。』

「いえ、これも主君のおかげです。」

なにかしたっけ?と考える主君。負けてられないな、と。素直にこの人のためにもっと自分も精進せねばと思う。きっと主君はすぐに書類を仕上げてしまうだろう。出来が良い人だから。そして今日はタイ焼きという目標もあるからいつもより早いに決まっている。僕も早く仕事をしよう。少しでも早く2人で出かけられるように。



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