07

ショッピングモールに到着して今まで繋いでいた手を離そうとする名前ちゃん。だから俺は反射的にその細い手を掴んだ。だってまだ繋いでたいし。これはたから見たらデートみたいだし。いつもなら迷子とか方向音痴なんて汚名は否定するが今日ばかりは使わせてもらおう。

「俺絶対に迷子になるよ。だから繋いでてくれない?」

『だ、誰かに見られて困らない?』

「誰かって?」

『学校の友達とか…。よく三之助君たちと同じ制服の子みるから。ほら、夏休みだし、知り合いとかに会ったら、』

「あー、このへんじゃここくらいしかでかいとこないしね。名前ちゃんの学校はお嬢様学校だから来ないか。」

『そんな事はないけど。来ない子は来ないかも、私は普通だし。』

「友達に見られたら恥ずかしい?俺が隣じゃ嫌?」

『そうじゃなくて!さ、三之助君が恥ずかしい思いしない?』

困ったように俺の様子をうかがう名前ちゃん。なんでこんなに控え目で謙虚で自分を卑下するのか。俺にはどんな女の子よりも彼女に隣を歩いてほしいのに。普通に繋いでいた手を恋人繋ぎにかえる。にっ、と笑えば顔を赤らめてふいてしまった。

「俺はこっちの方がいいし、誰かに見られたら大歓迎なんだけど?俺の彼女っていいふらすから。」

『…ありがとう。』

「あ、彼女は否定しないんだ。」

『あ!そうじゃなくって!ええっと、だからその、』

「いいよ、わかってるから。俺は名前ちゃんがいいって言うまで待つよ。…多分。」

『多分!?』

「だって俺だって健全な男の子ですから。チューとかしたいし。」

『チュー…。三之助君って可愛いよね、たまに。』

「え、そこ笑うとこ?ここ普通恥ずかしがってなに言ってんの!とかいうとこじゃないの?というか俺がいつ可愛かったの。名前ちゃんのが可愛いよ。」

『その笑った顔。たれ目が下がってなんだか可愛いの。三之助君が笑うとそこだけふんわりというか、空気がなごむというか。私好きなんだ。』

「…それは口説いてると取っていいでしょうか。」

自分が言った事が恥ずかしいと気付いたのかオロオロする名前ちゃん。あー、抱きしめたい。あわよくばキスしたい。ここがショッピングモールじゃなかったらするのに。仕方ないから恋人繋ぎの手を引きよせて手の甲に口づけを落とした。小さい声だったけどひゃぁ、なんて可愛い声をあげた。なにそれ、もう俺を殺す気か。

「ねぇ、このままどっかホテルにでも行かない。」

『三之助君、熱中症かな。先に帰ってていいよ、私買い物してくるから。』

「冗談です、ごめんなさい。手をほどこうとしないで。」

『そういう事公衆の面前で言わないでよっ。』

「誰も聞いてないってー。それに言ったじゃん、健全な男の子なんだから。あんまり待たせると襲っちゃうかもよ?」

『っ、(色気がヤバイ!)』

「おーい、名前ちゃん。早く買おう。それで寄り道しちゃおうよ。」

『え、早く帰らなくていいの?』

「いいの、いいの。どうせジュンコのせいで部屋はバタバタしてるし。多分皆気を使ってくれてるし。少し位なら大丈夫だよ。」

『じゃあ少しだけね。アイスでも食べようか!』

「名前ちゃんのそういうとこ好きだよ。」

悪戯っ子のように笑う彼女はただの優等生じゃない。今通ってる学校だって本当は行きたくなさそうだ。数馬といる方が楽しそうだし。俺達にも段々打ち解けて素を出してくれてる。でもなにかまだあるんだろうな。いつか話してくれればいいのに。本とジュンコの餌を買って少し静かなカフェに入る。

「すいてて良かったね。」

『この先に新しいレストランの店舗が一気にオープンしたんだって。だから皆そっちにいってるんじゃないかな。友達が美味しかったって言ってた。』

「へー、名前ちゃんから女友達の話って初めて聞いた。」

『数馬といる方が落ち着くんだよね。学校の友達は習い事とかで忙しいし電車で通ってる子ばかりだからあまり遊ばないんだ。だからこのへんで遊ぶ子は小学校が一緒だった子か、習い事で一緒の子かなぁ。』

「私立って大変?というか女子校って怖そうなイメージ。」

『まぁ、面倒な事もあるけどうちは結構厳しいから。三之助君がいうようにお嬢様っぽい子もいるからね。黒い車とかたまに見るよ。私なんて本当に普通なんだから。』

「へぇ、でも俺は普通の方が親近感わいていいけどな。まぁ、名前ちゃんが超お金持ちだったらロミジュリみたいでそれはそれで奪いがいがあるけど。」

『三之助君なら家の二階まですぐに来てくれそうだね。』

「伊達に運動部やってないからね。ん?じゃあピアノは習い事なの?でも家で弾いてるよね。」

『ああ、あれは自主練もあるけど。習い事は中学入るまで空手をやってて。高校からはお手伝いさんがこなくなったから家事するためになにもしてないの。学校の部活でピアノやってるから遅くなる時もあるしね。』

空手とかイメージないな。待て待て、お手伝いさん?やっぱりお嬢様じゃんか、と思っていたら否定された。親はピアニストと指揮者で海外を転々として演奏しているらしい。小さい頃からほぼお手伝いさんと数馬の家に育てられたがお手伝いさんが腰を痛めた。丁度高校生になったので自分で家事をやると親を説得したらしい。

「どうりでしっかりしてるわけだ。」

『ほらシングルファザーとかで昼間家政婦さんとか国や市が援助してくれるのは珍しい事じゃないから。金持ちじゃないから負担を減らすため今1人でやってるの。』

「じゃあ名前ちゃんあのオシャレな家に1人な訳?寂しくない?」

『だからよく数馬の家にいくの。数馬の親にうちの親がお願いしてるのもあるし、家族ぐるみで仲が良くて。小さい頃から育ったから第二の家族みたいなもので。隣だからいつもいったりきたりしてるし。それに今年は皆がいるから寂しくないよ。』

「…そこは俺がいるからって言ってほしいのに。しかも数馬が羨ましすぎるっ。どうりで仲がいい訳だよなぁ。普通どっかで幼馴染となんか縁切れるって。寂しくなったら飛んでくからいつでも言ってね。」

『ふふ、ありがとう。』

「音楽一家な訳だ。どうりでピアノも上手いはずだよ。」

『小さい頃から聞いて育ったからね。三之助君の家はどんな感じ?』

「うちは普通に一般の家だよ。父親はサラリーマンで母親はパートしてる。姉ちゃんが2人いるんだけどこれまたもう最悪で。だからかなぁ、名前ちゃんみたいな子が好きなのかも。」

『それって女性に夢を抱いてるって事?私全然ふんわりとかしてないよー。買いかぶりすぎだって。』

「自分じゃ気付いてない素の可愛さもあるけど、気を使えたり、家事が上手だったり。あと時々はっきり物事をいうとことか意志はしっかりしてるとことか。普通の可愛い女の子じゃ多分駄目なんだよな。」

名前ちゃんじゃなきゃ駄目なんだよ。色々無自覚な俺でもわかる。ずっと見ていた。数馬が不運に合うたびにすぐに駆けつけて心配する姿とか。仲良くない俺達にちゃんと目を見て笑顔で挨拶するとことか。男が苦手なのに向き合おうとするとことか。ピアノを頑張ってる音とか、全てが知れば知るほど好きになる。

「俺と付き合ってもらえませんか。」

『…あのね、私三之助君に言ってない事があって。大した事じゃないんだけど私、付き合う人には言おうって決めてたの。だから聞いてくれますか。』

「何でも聞くよ。知りたいんだ名前ちゃんの事。」

『私が男嫌いになった理由なんだけどね、昔拉致られそうになったの。』

「ま、まじでっ。それ大丈夫だった!?」

『三之助君が大きい声出した…。』

「え、そこ?っていうか出すよ、それくらい。名前ちゃん俺の事なんだと思ってるの。あの中じゃ一番俺が男っぽくない?」

『あ、別に男っぽくないってことじゃないんだけど。なんだか私が見てる三之助君はいつもふわっとしてて優しいから。私に合わせてくれてるってわかったたけど。あとあの中なら口調的には富松君が男の子っぽいかな。』

「そりゃ好きな子には優しくしたいじゃん。作兵衛かよっ!左門は中身が男だもんなぁー。数馬と藤内はないけども。」

『あそこは女子っぽい。というか私負けてる。』

「負けてはないけど。あ、話がずれたごめん。」

『ああ、そうだった。いや、それが負けてるんだよね。私を拉致ろうとしたのに間違えて数馬を攫おうとしたの。もう数馬の不運っぷりにはビックリだよね。』

びっくり、っていうか…。本当に可哀想な男だな数馬よ。どうしてそうなったんだ、とか昔から不運なんだ、とか色々聞きたい事は山ほどある。小学校低学年だったんだけど、なんて呑気に話彼女に俺は色々と不安になった。昔とはいえ男嫌いの原因。机の下でぎゅっと拳を強く握った。どんな話だろうと俺は君が好きなんんだ。


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