結晶を思い出に
しんしんと積る雪をみていたら急に読んでいた本の内容を思い出した。思いたったら吉日、と思い職員室に走る。シナ先生に頭巾を借りて庭へ下りる。羽織を纏ったがそれでも寒く手足の先から悴んできたけど気にはしない。上から静かに降る雪を頭巾で受け止めた。
『少しでいいはず、』
「名前!こんな雪の中何やってるの!」
『伊作!』
「もう、頭に雪が積もっちゃってるじゃないか。どんだけ外に居たの。」
『今来たとこだけどくのいちの方からなにも差さずに来たから。というか伊作はこっちに来ちゃ駄目!』
「なんで、うわああああ!」
『だから言ったのに…。まだ縁側を歩いていたほうがこけても安全なのに。まぁ、雪の上でこけたならそんなに痛くないか。大丈夫?』
「大丈夫だけど寒いよ。ところでなにしてたのさ。」
雪の上で盛大にこけた伊作に手を伸ばす。手を掴まれれば冷たっ!と怒られ伊作の手に私の手が包まれる。じんわりと温もりが伝わってきて思わず笑顔になる。そんな私を見て伊作は照れたように笑った。なんというか可愛いな、伊作は。
『雪だらけになっちゃったね。』
「そうだよ。女の子が身体を冷やしちゃいけないよ。ほら、暖かいお茶をいれてあげるから部屋においでよ。今は留三郎もいないから雪が落ちても文句は言われないよ。」
『ふーん、食満君がいない部屋に私を誘うんだ。』
「なっ!そ、そう言う事じゃなくてっ。風邪でもひいたら大変だし!」
『彼女が寒がってて2人きりなのに手も出さないと。』
「…だしてもいいの?」
『さぁ?それはどうでしょう。』
ニヤリ、と笑って伊作についた雪を払って縁側に上がる。色々葛藤しているのか唸っている伊作はため息をついて私の雪を払った。髪の毛を優しく撫で熱を帯びた瞳で私を見る。本当にいいの?とでも言いたそうな瞳にゾクリとする。男なら黙って手を出せばいいのに。優しいというか、意気地なしと言うか。とりあえず部屋に行ってお茶をいれる。
「僕がやるのに。」
『伊作にやらせたら零す可能性の方が大きいでしょうが。はい、保健委員長が風邪をひいたら示しがつかないからね。ちゃんと温まりなよ。』
「それは僕の台詞だよ。それであんな所でなにやってたの?それ先生の頭巾でしょ?」
『ああ、雪の結晶が見たくて。知ってる?雪の結晶って色んな形があるんだけどどれも凄く綺麗で。黒い布とか板に降ってくる雪を乗せて虫めがねとかでみると見える、って書いてあった気がして。』
「そうなの、凄いね。」
『結構前に読んだ本だったからあんまりよく覚えてないんだけどね。確かそんなんだった気がすると思って。考えだしたら行動した方が早いと思ってね。』
「名前は思いたったらすぐ行動、だからね。それで黒い布を借りに職員室にきて雪をとってた、って事?」
『そう。それで伊作が安定の不運をだしてここにいるってこと。』
「そっか、邪魔してごめんね。」
『ううん。伊作に会いたかったから。なんだか寒い日はひと肌恋しくなるし。』
「…嬉しいけど、それは誘ってるのかい?」
『さぁ、どうでしょう。』
もう一度ニヤリ、と笑えば今度は距離を縮められ唇が奪われた。伊作の髪から溶けた雪の雫がたれ、私の胸元におちた。それが冷たくてビクリ、と動けば伊作はそちらに目をやる。少し赤い顔をして私の瞳をいいよね?とでもいうように見た後そのしずくを首から胸元にかけて舐め降りる。
『っ、』
「身体が熱いけど名前。僕はまだ寒いから暖めてほしいんだけど、いい?」
『断ったらやめてくれるの?』
「ええ、ここまできてやめるの?挑発したのは名前なのに。それに僕も会いたかった。冬ってどうしても外に出なくなるから会う回数減るし、」
『ああ、確かにね。』
「それに冬のせいで色んな所が滑りやすくなってよく転ぶし、雪が積もって罠の印が見えなくてよく穴に落ちるし。不運の回数が増える気がする。」
『それは冬とか雪とか関係なく年中じゃないの。』
「なんでこんな色気のない話ししてるんだっけ。さっきまでいい雰囲気だったのに。」
『伊作のせいだと思うけど。』
「えー。」
『まぁ、そんな伊作が好きだよ。』
伊作の頬を両手で包んでその唇に噛みつく。手が冷たかったのか今度は伊作がビクリ、とはねた。おかげで私の手は伊作の体温を奪って熱を取り戻したけど。熱い吐息を飲みこんで、その手を頬から首筋、とどんどん下に下げていく。
「…抑えられなくなっちゃうよ?」
『抑える気あったのかな伊作君や。』
「名前が魅力的すぎて無理ですね。」
『おほめの言葉どうもありがとう。でも伊作のせいでせっかくの雪溶けちゃったよ。』
「結晶が見たいなら僕が作ってあげるよ。」
『そんなことできるの?』
「まぁ、雪は無理だけど食塩とかなにか違うもので。雪は溶けてなくなるけど塩ならある程度保存がきくだろうし。」
『雪と塩じゃ全然違うよ、雰囲気が。わかってないなぁ、伊作は。』
「ええー、結晶にはかわりないじゃない。」
『まぁ、いいや。諦めるから。その代わり冷えた身体を暖めてよね。』
首筋にあった手をそのまま服の中に突っ込む。うひゃあ!なんて可愛い声を出す伊作をケラケラ笑っていると押し倒された。仕返しだ、とばかりに腹に手をいれられる。背中からゾクゾクする感覚に思わず逃れたくて伊作の背中に手をまわして抱きついた。伊作の髪の毛に雪がまだ残っている。目には形として見えないが雪の結晶は確かに目の前にある。だったらいいか、とその柔らかい髪に指を通した。