03
あの告白以来、僕達の間で特に変わった事は起きない。先輩は僕を後輩として扱い、僕はそれを素直に受け入れる。というか受け入れざる負えないというか。こういう時どうしていいかわからない。そもそも奥手、と言われる僕に女性の事なんてわからない。ああ、もうどうしたらいいんだ。
「という事で、皆に相談したいんだけど。」
「金吾が4年生のくのたまに告白したぁ!?」
「なにそれ、知ってたか喜三太。」
「僕は金吾から名前先輩のお話は聞いていたけどぉ。告白したのは知らなかったぁ。やるね、金吾!」
「そういう事じゃないだろー。しかも振られてるんだぜ。」
「それでよく会いに行けるよな。普通気まずいって。」
「っていうかくのいちの4年生ってあんまり見たことないかも。どの先輩?」
「それもびっくりだけどさ。どうしたらいいか、ってことでしょ。体育委員会ならいけどんじゃないの?」
「それどういう事だよ。」
「押し倒せ、ってこと?」
「無理やり口吸いくらい男らしく決めてみれば金吾、って。顔真っ赤にしてる。」
「兵太夫がそんなこと言うからだよ。」
だってそんな事無理に決まってる。こんな初な金吾がよく告白できたね、みたいな生温かい目線を感じながら深呼吸で落ち着かせる。うん、僕もつい勢いでいっちゃったから自分で告白できると思ってなかったよ。は組のチームワークで皆が意見をいいあう。
「皆静粛に。確かに七松先輩率いる体育委員会の勢いを金吾も継いでるとは思うけど、さすがに金吾に押し倒すのは無理だと思う。」
「さすが庄左ヱ門!僕にはそんな事無理だよ。でも、このままじゃ駄目だとも思うっ。」
「ねぇー、僕たちもその名前先輩に会いたいんだけど駄目?」
「ごめんねしんべヱ。先輩は大人数が苦手みたいなんだ。」
「あの、もしかしてだけど私その先輩見たことあるかも。」
「え、乱太郎はあるの!?」
「うん。定期的に医務室に来られるんだ。でもその時は私達医務室から出るように言われるから挨拶くらいしかしたことないけど。」
「それってなにか聞かれてはまずいってこと?」
「新野先生は勿論そうだけど、あとは伊作先輩と三反田先輩しか知らないみたい。一回聞いたことあるんだけど色々あるんだ、しか言われなくて。深くも聞けないじゃない。」
「でも医務室ってことは具合が悪いってこと?」
「そういえばいつも三反田先輩から巾着袋を受け取ってた。結構定期的なんだけど最近は頻度が多いんだ。聞いたら任務の事、っていわれたけど。」
「あ、それってもしかして青色の?確か三反田先輩がいつも医務室で準備してお持ちになるよ。」
「って事は薬って事?」
どんどん胃が重たくなってくる。乱太郎が見ているって事は医務室にいっているのは間違いない。そしてもしあれが薬ならば容体は悪化しているという事だ。大人数が駄目、というのはもしかして体に負担をかけるから?
「僕の予想なんだけど言ってもいい?金吾。」
「…うん。庄左ヱ門の意見が聞きたい。」
「名前先輩はなにかご病気をされていて、それは一部の人しか知らない。隠していて定期的に薬を飲んでいるとしたらなにか重い病気なのかも。先輩があまり学園で見かけないのも4年生の先輩方が自ら会いに行くのも頷ける。もしそれが本当なら告白を断ったのもそのせいじゃないかな。」
「金吾が嫌いなんじゃなくて、」
「病気を気にして?」
「っ!僕はそんなこと、」
「落ち着いて、金吾。まだ決まった訳じゃないから。」
「でも名前先輩に直接聞くのも、ねぇ。隠してるって事は知ってほしくないってことでしょ?」
「だったら4年生の先輩に聞いたら?金吾は次屋先輩と同じ委員会だから仲いいし、三反田先輩も問い詰めたら話してくれそうだし。」
「僕いってくるよ!」
は組の教室を飛び出して4年生の教室を目指す。もしも、もしもそれが本当だった。僕はどうするつもりなんだろうか。それでも知らずにはいられない。ろ組の教室にいけば富松先輩はいたが次屋先輩はいない。そうだよ、あの人がいる訳ないじゃないか。仕方ないのでそのままは組へ。
「仕方ないって嫌だなぁ。」
「でも三反田先輩が一番詳しいですよね。乱太郎も見てると言っていますし、いつも渡している巾着は薬袋なのですか。名前先輩はどこか悪いんですか!」
「あんまり声を大きくしないでっ。とにかく真相がどうあれ僕達は名前自身から口止めされてるんだ。だから肯定も否定もできないよ。」
「そんなっ、」
「そんなに知りたいのなら直接本人に聞いてみなよ。」
「浦風先輩っ。」
「ちょっと、藤内。」
「もうここまできたらしょうがないだろ。それで名前も金吾自身も傷ついていいと思うなら。ちゃんと覚悟をしないと駄目だよ。隠してる事を聞くという事はその人に踏み込むという事だからね。」
「…僕にお話してくれるでしょうか。」
「もし本気で名前を好きなら、知りたいと思うなら俺は止めないよ。」
「な、なぜそれを!」
「体育委員会はわかりやすいからね。」
「作法委員会が怖すぎるんだよ。金吾、名前は今日の夜医務室に来るよ。もし来るなら僕が時間をとってあげる。どうする?」
こんなに真剣な三反田先輩を始めて見た。浦風先輩も僕をじっと見る。知りたいです!といえば2人で顔を見合わせた後、優しい笑顔になった。きっと名前先輩は今も苦しんでいる。もし僕のために振ってくれたのだとしたら。それでも僕は貴方が好きなんです。