数分後、君の腕の中

平和な休日の繁華街の賑わいが喧騒にかわる。後ろを走りぬいて行った真選組が高杉だ、と叫んでいる。過激派攘夷浪士よ、と人々が反対方向に逃げる中私は彼らを追った。高杉とは腐れ縁である。だからどこからか私を見つけたこれまた腐れ縁の死んだ目の天パが、止めるように私の名前を叫んだがシカトだ。高杉に会うことを心配しているのだろう。なら安心してほしい、私は高杉に用はない。

『…見つけた。』

「これはこれは、」

「名前!?またあんたっすか!?今あんたに構ってる暇は、河上先輩!?」

私が標的のその男に切りかかり、また子が制裁する前に万斉が私をはじいた。そのまま攻防戦を繰り返しながら川を下る。靴が水けを吸って重い。このまま下流まで行けば海があり彼らの船があるだろう。彼を追って私に助太刀しようとする真選組が邪魔だ。ヅラからもらった小型爆弾を投げる。派手な音と水しぶきが舞った瞬間私は彼の懐に入る。

「名前さん!?やばい、見失った!」

「河上万斉は海へ逃げたかもしれない!」

「急げ!」

ぶくぶく、と泡が上がる。服の分水の中は重く身体が沈む。万斉へと手を伸ばす。私の手にはもう刀はない。彼は逃げることなく私がなにをするかこちらをみている。ぼやける視界の中彼のサングラスが顔から取れそうになるのをキャッチし、かけ直す。その縮めた距離を彼は更に縮め私に口づけをした。ぶくぶく、酸素が口に端から逃げる。ようやく捕まえた、と私は嬉しくなった。


鬼兵隊の船でお風呂を借りた私は高杉の前で酒を飲んでいた。呆れたような目で見られているが、慣れた。私が万斉を捕まえるような素振りで交戦し、どのような流れかは毎回違うが結局はこの船にあがるという結末が毎度繰り返される。銀時は薄々気づいているようで、止めに入っている。まぁ、奴は私が高杉に会いに行っていると思っているみたいだが。

「普通に逢引できねぇのかお前らは。」

『どっかの誰かさんが指名手配で世界ぶっ壊そうと暴れてるもんでね。』

「毎度毎度街中で本気でやりやってる奴に言われたくねェなァ。」

『本気でやらないとばれちゃうでしょ。それに万斉は楽しんでるのよ、私じゃ勝てないもん。』

「そんなことないでござるよ。腕を上げたな名前殿。」

『おかえり、お風呂長かったんだね。』

「北島に捕まったでござる。あいつは未だに拙者と名前殿が仲のいいライバルで、見かけたら喧嘩売りに来るおなご、と思ってるのでな。」

『毎回こうして泊まるのにそれもどうなの。ピュアなのかな。』

「俺の前でそういう話はするな。さっさと部屋に戻れよ。まぁ、お前のおかげでいつも敵が散らばって逃げやすいからなァ。これからも暴れてくれていいが、なんでお前ら毎回海から這い出てくるんだかな。」

鼻で笑いながらも楽しそうに見てくる高杉。君たちの移動手段が船なんだから仕方ない。空を飛ばれたら私にはどうしようもないし。背の高い万斉の後ろをついて行きながら考える。この人が海に揺蕩う姿が好きだ。海が似合う、とかそういうことではない。ぼやける視界の中私に手を伸ばし口づけをしてくれる。それが私は安心する。

『(まるで2人きりの世界、っていうのは乙女思考すぎるけど…。なんせ外ではゆっくり会えないしなぁ)…お邪魔します。』

「いつも入る前に改まるが、何度も来てるでござろう?」

『でも一応万斉の部屋、なわけだし…。』

「風邪をひくでござるよ。こっちへ、」

『万斉がそういう事するから照れるのよ。』

「では来てくれないでござるか。」

『いや、行くけども…。』

自身の膝の上を叩く。2人きりになると甘い雰囲気をだすのがこそばゆい。この人は案外恋愛脳だ。高杉にも呆れられるので普通に隠れてこようか、と提案したこともある。逃亡劇みたいで楽しいし私がよければあのままで、と笑っていった。万斉と剣を交えるのはいい勉強にもなるし私は構わないのだが。海の中も好きだ。必ずこの逞しい腕で私を捕まえて、抱きしめてくれる。

「…誘ってるでござるか?」

『どうして?』

「腕をなぞってるのに他の意味があるなら聞きたいでござるよ。まぁ、誘ってくれてたらというのは拙者の希望だが。」

『私たち一緒に居れる時間が短いんだから襲えばいいのに。腕は、逞しい腕に抱きしめられて安心するな、と。』

「同意がないのはよくない。好いたおなごがいるのだから優しくしたいでござろう。しかしその発言は誘われたとうけた。」

『万斉にならなにをされても構わない。』

「…名前殿は男を喜ばすのが上手いでござる。」

『他の男は知らないけど貴方が喜んだならそれでいい。』

優しく床に寝かせられ覆いかぶさる彼を視界一杯に見る。やはり海の中より現実世界の方が彼をしっかり見れていい。上半身を起こし彼にキスをする。水が入りそうで心配だったさっきとは違って柔らかい舌が翻弄する。自分たちから発せられる水温と心臓の音がやたら響く。サングラスを外し彼の髪や輪郭を丁寧になぞりじっと見る。

「そんなに見つめられたら照れるでござるよ。眼鏡もないし、」

『海だと視界がぼやけるから、今のうちに焼き付けとこうと思って。』

「拙者だけ恥ずかしいのは理不尽でござろう。」

『さっきから動いている手の動きとか、音とか私だって恥ずかしいんだけど。海の中では無音だし、余計なんか、』

「必ずキスをねだるから好きなのかと思ってたが、」

『好きだよ。なんていうか神秘的っていうか。誰にも邪魔されないでしょう、水の中なら。嫌ならやめるけど…。危ないっちゃ危ないし。』

「いや、拙者がこの一連を辞めない理由もそこにあるでござる。無音ゆえ、名前殿の音がより一層聞こえて心地よい。頼ってもらっている、という気もするし。神秘的、それには同意見でござるよ。人魚姫がおりてきた、といつも思ってる、むぐ。」

『そんな恥ずかしいこと思ってたの?!やめよう、私次回から普通に来るわ!』

「恥ずかしい事なら名前殿も言ってたでござろう。それにもっと恥ずかしい事もしているのに、ぐっ、」

万斉の口を手でふさぐ。人魚姫って、恋愛脳にもほどがある。ここは鬼兵隊の船だ。誰が聞いてるかもわからんのに。あの高杉の呆れ顔、今更の気もするが。どうしたものか、と悩んでいると生暖かい感触がして万斉をみる。私の手を舌で舐めているらしい。獣を狩るような目をされ条件反射で手を離すとすぐさま口を塞がれた。名前殿が腕の中に戻ってくるならどんな形でもいいでござる、と言われればそれまで。確かに、そうだ。私は彼の身体に腕を回した。


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