意思疎通ができない
※学パロ
美術室で本をめくる。誰もいないこの部屋が私には至福の時間だ。その幸せな時間は数十分とはもたないけれど。案の定がらり、と美術室のドアが開き2人が入ってきた。学年が違うくせに仲がよろしいようで。本を閉じ、心地よい風を感じていた窓を閉める。まぁ、大体換気はできたであろう。1人は私に目もくれず自分の定位置に座った。もう1人は軽く私に挨拶とばかりに手を挙げる。
「邪魔するぜ、うん。」
「別にこいつの部屋じゃねぇんだから気にすんな。」
『サソリ先輩の部屋でもないですけどね。』
「こんだけ私物にまみれてりゃ、俺たちのアトリエみたいなもんだろうが。ワイヤーと、カンナ、それから、」
『ワイヤーはいつもの場所。在庫なくなりそうだったんで発注して明日には来ます。カンナは研ぎしのとこから来週戻る予定です。学校ので我慢してください。材木は美術部が使うって持ってきましたよ。文句は美術部員に言ってください。』
「学校の奴じゃ話にならねぇ。大体俺のアートの人形になる材木がなくてどうしろってんだよ。なんで渡したんだ、能無しかお前は。」
『美術部員でもないのに部屋を占領して、備品使ってんだから文句言ってんじゃないですよ。自腹で買ったやつがあんだからそっち使えばいいじゃないですか。あ、デイダラ君の粘土は右の棚。美術部が新しい粘土頼んでたから試しで貰ったのもあるよ。』
「そうか、じゃあ使ってみるかな。旦那も名前にキレてもしょうがねぇだろ、うん。」
「チッ。次は絶対阻止しろよ。しかたねぇから今日はこの前の仕上げをするか。」
『色塗るなら絵具出してありますよ。』
「へぇ、気が利くじゃねえか。」
『待たされたら切れる癖に。本当嫌な先輩ですね。これがもてる理由がわからないですよ、まったく。』
「ははっ、言われてるぜ旦那。」
「殺すぞデイダラ。餓鬼にはわからねえんだよ、俺の魅力はな。」
いや、絶対顔だけでしょあんた。その容姿と芸術的センスで先生も人目おいているらしく、こうして美術室の1つを占領してもなにも言われないなんて世の中おかしい。海外で入選したこともあるらしい人形は繊細で綺麗だが私にはホラーでしかない。この部屋に無数に置いてある腕や指のパーツは夜見ると不気味だ。そんな彼はこんな性格なので人は遠巻きにしか見ないし、本人もあまり干渉を好まないのか親しげな人をみたことはない。そんな偏屈男が連れてきたのがデイダラ君だ。
「なぁなぁ、名前。今回の俺の新作どう思う!やっぱり俺は天才だよな、うん。」
『前回との違いが判らない。』
「何言ってんだよ、よく見ろ!この羽の部分が全然違うだろ。前のは神話の鳥をイメージした神の使いだ。神々しくこの世の物とは思えない美しさ。今回のは地上にいる鳥で世の中の荒波にもまれる中強くたくましい姿をしてるだろ、うん。」
『鳥なのに荒波に揉まれてるんだ。どっちにしろ鳥でしょ?』
「全然違うぞ、うん!」
「名前に芸術の事言っても無駄だ。こいつは凡人中の凡人だからな。」
『天才より凡人の方が生きやすいんでありがたいですが。芸術家なんて変人ばっかじゃんか。私はデイダラ君の作る作品好きだよ。なんかゆるくて可愛いよね。』
「緩くねえし、うん!?芸術的だろ!」
『だから好きだって。』
「嬉しくねぇ!」
『わかったよ、じゃあ嫌い。』
「それも嫌だ!」
なんちゅー我儘だ。これだから芸術家は嫌いだ。自分の作品を評価してほしいくせに、見てほしいところと違うとこを褒めると文句を言う。作り手の意図とは違う感じ方をするのは仕方ないだろう。価値観は様々だ。しかも彼らは仲がよさそうにみえて芸術的価値観は違うらしくよく喧嘩する。作るものが違うんだし芸術に対する思いも違くていいのではないか、と凡人で普通の私は思う。
『どうせ爆発するんでしょうよ。』
「どうせとか言うな。芸術とは一瞬の美しさ。散ってこその美。芸術は爆発なのだ!」
『それはいいんだけど、うるさいしあぶないからよそで爆破さしてね。』
「名前に良さを分かってもらえるように見せてるんだろ、うん。」
『大丈夫、凡人にはわからないから。それに私はデイダラ君の作品好きだから爆破しちゃうの勿体ないと思っちゃうから。』
「だから言ったじゃねえか。永久に残るものこそが美。綺麗なまま美しい姿を保つこそが美だ。人間もこのままでの姿でいれれば最高なんだがな。」
『考えが怖いんですけど。あー、サソリ先輩顔だけはいいですけど後は老いてくだけですもんね。』
「脳も顔も平凡のお前に言われたかねぇ。」
『デイダラ君もイケメンなのに勿体ないよねぇ。本当2人って損してますよねぇ。だから2人ができてる、なんて噂ががちで広まるんですよ。いやぁ、これも美形じゃなかったらここまで盛り上がらなかったはずですし。顔がいいのも困りもんですね。その美形を活かしきれてないのも困りもんですが。』
「おい、今なんて言ったんだよ!うん?!」
『残念なイケメンだなって。あと性格最悪、主にサソリ先輩。』
「犯すぞ名前。」
「いや、それさっき言ってなかったぞ、うん。いや、そこじゃなくって、ってか旦那も何言ってるんだよ!」
『さっきから馬鹿にしてる平凡な女を抱くんですか。本当に頭おかしいですね、芸術家って。』
「名前も対抗するなよ、うん!誰と誰ができてるって!?」
『私とサソリ先輩ができてるわけないでしょうが。私の胃に穴が開く!』
「可愛がってやるよ。」
悪役さながらの笑みを浮かべる。怖すぎてデイダラ君の後ろに隠れた。可愛がるじゃないくて、こき使うの間違いだあれ絶対。デイダラ君が勢いよく振り返って私に付き合ってないからな!と言ってきた。2人がそういう仲だろうがどうでもいいのだが、あまりにも必死で頷く。アーティストには多いと聞くし私に偏見はない。ただサソリ先輩を選ぶなんて見る目なくね、と思っていた。
「お前失礼なこと考えてるだろ。」
『まさか。凡人にはわからないところに惹かれたのかなって思っただけです。私は願い下げですけど。』
「よし、こっち来い。一発殴らせるか、やらせろ。」
『サソリ先輩って二言目にはそういう物騒な言葉言いますけど。欲求不満ならきゃあきゃあ言ってる女の子を抱けばいいじゃないですか。喜びますよ。』
「嫌がって泣いてるのがいいんだろうが。」
『…死ねばいいのに。』
「お前がそうやって喧嘩売るから旦那も言うんだよ、うん。というか旦那はそういう変な噂流されてもいいのかよ!」
「俺はデイダラの片思いでうざってぇんだ、と答えてるからな。だから真相は俺たちができてるんじゃなくてお前の片思いだ。」
「ふざけんなっ!」
『なるほど。道理でこんなむかつく先輩と一緒に密室で芸術活動ができるわけだ。あー、じゃあ私は邪魔ですね!金輪際ここに寄り付かないんで!あー、これでむかつく備品係からも解放される。』
「名前が来なくなったら噂がマジになるな。」
「まじでやめてくれ!お願いだから来てくれ!ってかここに来るのやなのかよ。」
『嫌に決まってるでしょうが!なにが嬉しくて口悪い先輩の助手みたいなのやらされなきゃいけないんだか。お礼の一つも言わないくせに人をこき使いやがってっ。』
「…それは旦那が悪いな、うん。…でも俺は名前がいるから来てんだし、助手やめんなよ。勿論芸術活動する、っていう目的もあるけど、」
赤くなる顔を手の甲で隠してそっぽを向く。だから、うん、とかなんかごちゃごちゃ言ってるデイダラ君。ん、どうした急に。今までそんな素振りなかったじゃん。サソリ先輩を見ればうざってぇ、という目で見られた。元はといえばお前のせいだかんな。デイダラ君が私に告白めいたことを言うが本当に芸術家の考えることはわからない。