アガパンサス
なにが始まりだったかはもう覚えてないけどなぜか知らない女の人と勝負する事になって、なぜか負けた。しかも1点差なんて悔しい。あの技さえ敗れれば。にゃろう、と呟きもうひと勝負挑もうとしたらファンタが投げられてきて彼女はベンチに座っていた。
「どうも…。」
『なんだっけ。まだまだだね、でいいんだっけ?ファンタでよかったよね。』
「俺の事知ってるんっすか?そういえばツイストサーブも見切ってた感じだったし。しかもあり得ないほど強いし。」
『えー、普通だよ。それに1点差なんだからあんまり変わらないでしょ。私立海の男テニマネなの。ちなみに幸村の幼馴染。それで昔からいじめってほどに練習に付き合わされて…。ムカつくあの魔王。』
「ああ、なるほど。」
通りで強いわけだ。自己紹介されて名前でいいよ、と名前さんがくったくない笑顔で言う。なんていうか立海のマネージャーっぽくないというか。ていうか俺マネージャーに負けたのか。にゃろう。
『噂通り越前君は生意気で可愛いんだねぇ。うちにも可愛い後輩がいるけど赤也はちょっと喧嘩っ早いというか言葉が汚いというか。』
「切原さんっスか。俺は別に可愛いくないです。ねぇ、それよりもうひと勝負しない?次は勝つよ。」
『よーし、と言いたい所だけど疲れた。1年生と違って体力ないのよこっちは。』
「そりゃないッス。もうすぐであのへんな技突破できそうなんだし、勝ち逃げなんて卑怯だ。」
『次勝てるかもわからないじゃん。それに変とかいうなよ私の技を。あれを突破できてもまだ技は持ってます―。』
まだ技があるのか、と思っていたら楽しそうにすんな、と帽子のつばを下げられた。帽子を直すと髪をポニーテールに結んでにやりと笑う名前さんがいた。ラケットを持とうとする手にわくわくするのが自分でもわかる。
『しょうがないなー。あと一勝負ね。』
「ッス!!」
『負けたらファンタ奢りねー。』
「次は負けませんから。次の技も出して見せます。」
そりゃ、楽しみだな。と笑う彼女に久々に胸が高鳴り始める。ボールを追うたびにもっと知りたくなってもっともっと俺は走る。ポニーテール好きなんでしょ、と打ち込んだ球は勿論落とした。前を見ればしてやったりの顔。ほんと食えない人。
アガパンサス
(恋の予感)