偶然
柔らかい日差しとフカフカのお布団。こんなにグッスリ寝たのは久しぶりだ。聞き込み調査の時に寝るホテルは落ち着かないし。あとは野宿だもんな。長期滞在の時は1人暮らしで楽しかったのに、幕府め。何度も呼びやがって!仕事はいいけど場所がバラバラなのはイラつく。江戸はいい所だから移動したくないな。
『金払いはいいけどな…。さてと。』
布団を畳み部屋をでる。まだ5時か、妙ちゃんは寝てるだろう。昨日、真選組に会い銀時と再会した私。土方さんと銀時は折り合いが悪いらしく喧嘩。滞在場所をとりあう彼らに新八君がうちに泊まればいいと提案してくれた。さかのぼる事昨日の夕方。
「ここです。一応道場があるですよ。まぁ、今は全然ですがね。どうぞ。」
『お邪魔します。』
「姉上ー、今帰りました。」
「新ちゃーん。遅かったの、あら?見ない方ね、この方は?」
「銀さんの幼なじみです。今日はうちに泊めてほしいのですがいいですか姉上。なんだか真選組の方も来てて、案の定喧嘩になってしまって、」
『初めまして。銀時がいつも迷惑ばかり…。すみません。』
「いえいえ。銀さんにはいつもよくしてもらってるのよ。私は妙よ、年の近そうだし仲良くしましょう。男だらけじゃ大変だもの。遠慮しないで頂戴。私もこんな可愛い子が来てくれて嬉しい。」
『そう言ってもらえると嬉しいよ。私は名前。よろしくね。』
「えぇ、勿論よ。本当、女の子が泊まってくれるなんて嬉しいわ!何年ぶりかしら。新ちゃん、今日は万事屋に泊まって。名前ちゃん、行きましょう。」
『ありがとう、妙ちゃん。』
美人でしっかりしているお姉さん。こんな方がいるのだったら銀時もしっかりしそうなのに。寧ろ銀時をもらってくれないかな。死んだ目をしているけど腕は立つ。道場をやっているなら尚更奴にぴったりだ。可愛いなぁ、なんて見とれながら居間に通され、お喋りをする。
『妙ちゃんは道場を…。えらいねぇ。』
「全然よ。名前ちゃんこそ、仕事ばかり。1人で色んな所に回るし危ない仕事も多いんでしょ。潜入なんて、凄いわ。でもそれって秘密にしなくて大丈夫なの?」
『まぁ、化粧とか変装で顔は変えるしね。なんか男には任してられないんだよね。周りあんなんだし。自分で何とかした方が早いでしょ。』
「私たち気が合いそうね!」
『本当。大人しいかと思ったら結構さばさばして手話しやすいし安心したよ。妙ちゃんって美人だし気がきくしモテるでしょう?』
「そんなことはないわ。周りには女なのに強すぎる、なんて言われて。もっとお淑やかにしなきゃ駄目ね。」
『そういう1歩引いてくれる女性も大事だけどさ。私はこの道場を復興させるために頑張って、1人でしゃんと立って。そうやって意志の強い、はっきりとして女性好きだな。カッコいいし綺麗だよ。』
「そ、そんなこと美人さんに言われると照れるわっ。」
『妙ちゃんの方が綺麗だよ。』
「無自覚さんね。」
『私化粧映えするみたいだからすっぴんは地味だと思うよ。女はメイクで変わるんだって。』
「ふふふ、元がいいからよ。」
お菓子にお茶など色々だしてくれ話に盛り上がる。自立した素敵な人で、服も貸してもらった。いい人だ、そして美人さん。強すぎる、ってことは剣術の腕前があるのだろうか。やはりこういう所を切り盛りしてるってことは昔は習っていたのだろうし。
「そういえば私にも1人、すごーくしつこい人がいるの。困っちゃうわ。」
『それ大丈夫?断れば?』
「断ってるのよ。でもストーカーのように付きまとうし、倒しても倒してもやってくるの。家の中にいつの間にかいるしね。」
『(倒しても倒しても?)え、それヤバくない?!警察は?私今日真選組と仲良くなったし頼もうか?幕府の偉い人にも顔聞くと思うし、』
「それがその人が真選組なのよ。それも結構地位が上でね。金だけはあるのよ。」
『え、真選組がストーカーですか?しかも地位が上…?』
いやいや。土方さんがんな事してたら総悟はネット配信してるよね。じゃあ総悟が?…まさかな。でも私にも初対面なのに結構なついてたし節操無いのかも。明日聞いてみよう、みたいな感じでとりあえず寝たんだよな、確か。そして今日、聞かなくてもわかったわ。
「何レギュラーみたいな感じで座ってんだ、ゴリラァァ!!」
「お妙さん!俺というものがありながら誰なんですこの女の子!なんで俺を家に入れない癖にこんな初対面の女の子を泊まらせるんだ!」
「お前と名前ちゃんは全く別だろうが!誰がストーカーを家に泊まらせるんだよ!ってか私の客人に謝れこのゴリラ!」
『あの、気にしてないから…。とりあえず落ち着いて座ったら、』
「え、一緒していいんですか。なんだ案外いい人ですね。」
「んなもん許すかぁあああ!」
「ごふっ!」
あぁ、ご飯くらい静かに食べたかったな。そして妙ちゃんはその細い体のどこにそんな力が?強い、ってそういうことだったのね。これは確かにお淑やかにした方が…。いや、でも驚かないよ。だって机を人の頭で割るなんて日常茶判事だったもん。
『銀時がヅラにね…。』
「名前ちゃん何か言った?」
『ううん。近藤さんでしたっけ。』
「え、俺の事知ってるの?あ、お妙さんとラブラブって噂かな。」
「な訳ねーだろ」
『あの、パーティーで。私赤いドレスを着ていて土方さんに昨日会いに行ったんです。多分松平様から聞いてるとは思いますが幕府からの依頼で。(ってことになったんだよね?)』
「ああ、あの時の!?トシが会わせたいっていうから探していたんだが、」
「ゴリラの分際で名前ちゃんに近づいてんじゃねーよ。名前ちゃん、危ないから今日もうちに泊まってね。」
『いいの?』
「えぇ、大歓迎よ。」
「じゃあ俺もぐはっ!!」
「私このゴミ捨ててくるわ。」
朝からお疲れ様です。じゃあ私は銀時の所に行こうかな。昨日全然話をしてないからな。久しぶりにゆっくり話がしたい。皆はどうしてるのか、とか。身支度を済ませ妙ちゃんに置手紙をして外を歩く。江戸はいつも賑わってるなぁ。
『えっーと確かこっち…。うん、あってるはず。』
「あり、名前じゃないですかィ。近藤さん見やせんでした?あぁ、近藤さんってのは真選組局長で、ゴリラで名前が泊まった姉御のストーカーでさァ。土方も言ってた通り挨拶がてらそのうち会うと思いますがねィ。」
『うん、わかりやすい紹介だね。丁度そのストーカー現場から逃げてきたよ。挨拶なら一応しておいた。』
「まじですかィ。そりゃ、もう手遅れだねィ。今ごろ姉御にボロボロだ。まぁ、あんたと挨拶できただけでもいいか。ああ、そうそう桂が逃げ回ってるんでィ。見かけたら逃げなせェよ。あんた弱そうだし。」
『強くはないけど、桂!?桂って桂小太郎?』
「そうでさァ。手配書、みたことありますかィ?」
『攘夷浪士って事は知ってるけど、』
小太郎が近くにいる。会いたい、ってか会わなきゃ。で、銀時の所にいってちゃんと謝ろう。ずっとフラフラしてた訳だし。連絡しようと思ったら出来たのに私はしなかった。今度は自分から会いに行こう。
『どどどっち行った!?』
「どどど?あっちですが、」
『ありがとう!!』
「え、名前!どこ行くんでェ。うろちょろしてるからそう簡単に見つからないとおもうんですがねィ。」
『(ヅラはどこだ、あれ。この声土方さん!)あっちか!』
「桂ァ!!おとなしくお縄につきやがれ!!!」
案の定、ヅラと対面してる土方さん。っていうかあいつ変装とか一切してないんだけど、馬鹿なの。しかし土方さんに見つかれるとまずいなー。誤解は解けたがパーティーでちょっと疑われてるし。影にかくれて様子をうかがう。こっちに走ってきたヅラを捕まえ口をふさぎ路地裏に入る。土方さんが行った事を確認して手を離す。
『…あっさり捕まった。そんなんでいいのかよ。』
「ぷはっ、貴様なにを、って名前!!会いたかったぞォォ!!」
『真選組に突き出すわよ。』
「すいませんでしたァァ!!でもいつの間に、というかいつ江戸に来たのだ。銀時には会ったのか?ご飯は食べてるのか。」
『お前は私の母親か。とりあえず銀時の所に行こうか。昨日会ったよ、ろくに話してないから。』
「そうなのか?」
『そう、だから今日もう一度会いに行こうと思ったら丁度ヅラが見つかるし。』
「ヅラじゃない桂だ。」
そんないつものやり取りをしながら銀時の家に行く。いやー、小太郎もこんなに変わってないとは。銀時は昔の方がかっこよかった、確実に。辰馬は老けた気がする。そんな私もきっと外見だけは年をとったのだろう。
『それにしても相変わらずヅラだね。』
「ヅラじゃない!!桂だ。そ、そういえばだな。んっと…、」
『なに照れてんのきしょいんだけど。あ、銀時邪魔する。』
「おま、入り方が男らしいな。ってかなにヅラまで来てんだよ。俺は女の子しか歓迎しねえよ?」
『まぁ、銀時とか小太郎とかろくでもない奴と育ったからね。しかも天パだし。』
「それ俺らの前でいうか。あれ、目の前が霞んで…、泣いていい?」
『どうぞ、慰めないけどね。』
「そういえば聞きたいことがあったんだが、その。高杉とその…、にゃんにゃんしたってのは本当なのか!」
『晋助ェェ!!』
なんて事を言ってんだあいつは!ってかあんたより結構年下ですけど!!いや、そうでもない?いや、総悟と私が近いくらいだしうーん。でもでも、ないわぁ。いや、過ごしてきた中の男面子の中では一番にもてたし考えれば一番ありだけど。でも、ない。
「名前!おまえは高杉と!?」
『ちげーよ!!な訳あるかァ!!』
「だよなー、名前の初めては俺だ、」
『死ね。ってか年考えて。』
「そんな離れてねえだろ!…丁度危ないくらいでいいな。」
『本っ当に黙れ。』
「まぁ、嘘の用で安心した。で、名前。今までどこに?連絡もつかないし音沙汰もないから心配したんだぞ。」
「そうだ。銀さんもそれが聞きたかった。」
『あぁ、赤い服の髭のおっさんと旅してた。なんかなんとか姫が攫われたから一緒に恐竜?みたいな背中トゲトゲしてて火を吐く奴倒そうぜ、って誘われて。仕方なく付き合ってた。』
「まじでェェ!!」
馬鹿だ、こいつら馬鹿だ。あれ、私年下だよね?なにこいつら。桃の姫に会った?とか弟さんの緑とかはとか聞きやがる。本当に馬鹿だなお前ら。適当に会ったよ、とかキノコ食ったよ、とか流しておく。そしてやっと話は本題へ。
『そういえばさ。晋助は元気?このへんにいないって聞いたけど。』
「…さぁ?」
「寧ろ俺らが知ってると思ったのかよ。」
『まぁ、そうか。あいつ一匹狼だしなぁ。銀時と晋助が仲いいとか気持ち悪いか。で、2人はなにしてんの?万事屋とテロリスト?はっ、それ金になるんですか。』
「ちくしょう、金がなんだ!見た所お前は金持ちそうだな…。なんでだよ、俺も金が欲しい!で、なにやってんの?」
『欲しいんじゃないか。偶然、出会った奴が仕事くれて。それが変装して情報を聞き出す役目だったの。で、上手くいって今はそういう感じ。潜入捜査が支流かな。』
「完結だなー。ってか偶然だらけだな。名前の人生大丈夫か。」
『まぁね。』
「誉めてません。じゃあ、今まで仕事でブラついてたのか。なんで江戸に来たんだ?見る限り仕事じゃなさそうだが…。はい、10字以内で完結にまとめよ。」
『え!えーっと。辰馬に会ったから。名刺貰ってさ、ネーミングのない。』
「俺のネーミングセンスにケチつけんなぁ!!」
「御用改めである。真選組だァァ!!」
「桂!!今日こそお縄にィってあり?名前なにしてんでィ。いきなりいなくなったと思ったらこんな所で。」
『あり?なんかまずい感じ?』
「じゃ、俺はこれで。」
「ヅラ、てめっ!!ムサいの俺に置いてくな!!」
窓にもう足をかけてる小太郎。バズーカを土方さんに渡して私の隣に座る総悟。それにつっこむ土方さん。言い争いをする銀時と小太郎。私は総悟にお茶をつぎ(人の家だけど)煎餅を食べながらそれを見る。ジミーがなに煎餅食べてんですか!!とツッコミをいれた。なんだっけこいつの名前。山…山、山がついたよな、と悩んでいれば山田でさァ、と隣からフォローがはいった。
『ああ、山田君ね!』
「山崎ですゥ!!名前ちゃんも何納得してんのさっ。この前まで名前で呼んでくれたじゃないっ。」
「へぇ、山崎のくせに生意気だな。」
「そういえば俺らより先に会話らしい会話してるんですよねェ。山崎のくせにまじで生意気でさァ。」
「僕が案内してあげたのに理不尽ですよ!」
「お前のせいでこのむさい奴らが俺の家にくんだよ。まじでなんなのお前。そのまま窓から落ちて死ね。」
「黙れ、銀時。俺はまだ死ねん。名前俺と一緒にこい。」
『は、ふざけんな。ダメテロリスト。』
「ぐはっ。」
蹴ってやったさ。ムカついたから。小太郎は見事に窓から落ちた。銀時とハイタッチをする。また会いに来るからな!と叫んでどこかへ消えていった。もういいよ、なんとなく現状はわかった。皆元気ならそれでよし。
「おい、てめーら。桂の知り合いか?」
「…違います。」
「じゃあ、なんで一緒に煎餅食べてたんだよ!!」
『…偶然?』
「嘘つけェェ!!」
「俺というものがありながら浮気なんていい度胸でさァ。」
『だから総悟はなんなの。それ皆に言ってるの?やっぱり節操無いんじゃ、』
「ちょっと待ってくだせェ。それ何の話ですか。俺はあんたにしか言ってませんぜ。ヤキモチですかィ?」
「てめぇはなにカップルみたいな会話してんだよ!」
「そうだ、そうだ!エスでいいんだったら銀さんにしなさい!」
『えー、皆嫌だ。めんどくさそう。』
そこから喧嘩はヒートアップ。だから初対面すぎてそう言う目で見てないし。その後なんとか土方さんをなだめつけたものの、総悟に真選組に遊びに来るように約束をされた。妙ちゃんの家に行く途中ボロボロになったゴリラに偶然会ったがスルーしておいた。やはり江戸は騒がしい。