理論的恋愛事情

運動神経、というよりは反射神経は人並みよりちょっとよかった私。そんなものはバイトに使わないと思っていたが役に立っている。それはまひるのパンチを蹴りで止める事をこの数カ月で学んだ事。女子には暴力をふるってこないので主に止める時に使うのだが、

『…相馬さん。なんでそんなにひっつくんですか。仕事の邪魔ですよ。』

「だって名前ちゃんがいれば伊波さんからの攻撃からは回避できるんだよ!こ離れる訳ないじゃん!」

『男なら自分でなんとかしてみようとか思わないんですか。だらしない。』

「立ち向かったりなんかしたら俺死んじゃう。」

『そんなんで死んでたら小鳥遊くんはとっくに死んでますから。相馬さんは一回くらい死んで心を入れ替えたほうがいいですよ。』

「酷い!」

『世のため人のためです。』

「そんなに性格悪くないよ俺!」

最近こうして私に避難してくる相馬さんは後ろから私を抱き締める。彼氏でもない人にひっつかれると落ち着かないし変だ。佐藤さんは私に相馬さんを預けておけば楽だということが判明したらしく助けてくれたのは最初だけだったりする。そして私も抵抗を諦めた。

『相馬さん、彼女じゃない人に抱きつくのはどうかと。私も困ります。』

「困るの?」

『そりゃ恋人じゃないのにとか色々気にしますし。ただのバイト仲間じゃないですか。相馬さんにとってまひるは恐怖かもしれませんが私に逃げられても、』

「じゃあ、付き合う?」

『まひるに勝つための特訓にですか?嫌ですよ。自分でジムにでも行ってください。弱そうですもんね相馬さん。体力なさそうというか。全部情報でなんとかしようとするからこうなるんですよ。』

「なんで俺けなされてるの!?そうじゃなくって、恋人になるか、って聞いたのに。」

は?と間抜けな声が出た。目の前の人はそんなのも気にせずにこにこといつもの様に笑っている。意味不明だ。付き合う、そういう意味だったのか。彼からそんな台詞が飛び出すとはまったくもって予想してなかった。彼は私が好きなのか。いやいや、ないな。

『相馬さんは人の弱みにつけこんで楽したり人の恋愛を見て喜ぶのが趣味であって、自分が恋愛するのは違うでしょ。』

「うわぁ、酷い。だって名前ちゃんがいれば伊波さんから守られるし俺はどっちかっていうと好きだし。名前ちゃんも恋人なら抱きついてもいいって事だよね?」

『それは好きってよりまひるから逃げる、っていう目的前提というか…。理論的ではありますがそんが事情とか嫌なんですけど。それ守ってくれるなら誰でもいいじゃないですか。』

「あ、嫌そうな顔ー。嘘嘘。冗談だって。」

『なんだ、冗談か。』

「ちゃんと好きだよ。」

『…そこですか!?好きが冗談じゃなくて、』

「冗談で告白するようにみえ…るの!?頷かないでよ!どっちかというと、なんて嘘だよ。好きしかなでしょ。こんなに抱きついてるのに気づかないなんて轟さん並みだよ。」

『それは言い過ぎです。大体人に信じてもらえないような生活を日ごろから行っている相馬さんが悪いんですよ。』

「なんで振られてもないのに心が痛いんだろうか。」

『相馬さんが私を…、』

今まで抱きつかれてた事がなんだか途端に恥ずかしくなってきた。にこにこ笑う彼は私が守らなきゃだしまあ、お似合いなのかなと抱きしめ返してみた。別に嫌いじゃないしね私も。だったらもっと前に抱きつくのを禁止している。

(私も好き、かも)
(かも!?あ、でもこれからは抱きつく以上もありだよね)
(なしです)
(なんで!?)



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