テラスからでると日差しがギルカタールの町を照らしている。ちょっと砂っぽいが風が髪をすく。そんな清々しい朝だったのに、清々しくないけども、砂でバサバサするけど。ドッカーン!と突然の爆発音。敵襲か、私がここにいる事がバレたのだとしたらここにいるのは危険か。
『ライルか誰かの所に行った方がいいのかな。チャイカやアメルダを待つべきか。』
「名前様。どこにお行きに?」
『あんたは、ごほん。貴方は確かスチュワートの父上ですよね。(姉さんはこいつを物凄い嫌っている。勿論私も嫌いだ。 厭味ったらしいじじいが)』
「ええ、あっていますよ。挨拶に来ようと思っても貴方様は婚約者候補との逢瀬で忙しそうでしたから。」
『逢瀬ではありませんがこちらからも挨拶にお伺いしないで申し訳ありません。』
「先ほどの爆発音ですが、今調べております。貴方様は戦えないのですからあまり動かない方がよろしいかと。どこに行くおつもりでしたかな。ああ、婚約者候補ですか。この国といい貴方は本当に人に取りいるのがお上手ですね。」
『取りいったつもりはありません。もしそうだとしたら幼い少女に取りいられているこの国に問題があるのかと。しかも貴方がいて爆発が起こるとは、どうしてでしょうね。偉そうにしていてもこの程度とは、私と話している暇がありましたら警備強化でもしたらよろしいのでは?』
「私は政治の方でして。あと、貴方と違って多忙でして、のんびり国にお帰りになった貴方様とは違うのです。」
『私は取引に忙しいんです。私は私で多忙ですのよ。』
「その割には取引の金額には全然足してないそうですが。ああ、ギャンブルで稼いだとか。本当にそんな事を学ぶのでしたら教養を学んでほしいものですな。そもそも貴方様が取引に参加するなんて。」
『…姉さんは今スチュワートとタイロンと仲直りしている最中です。私が取引に参加したのはこの国のためではないです。おわかりでしょう?』
「あの3人は仲が悪くなったはずで…。あぁ、貴方はいませんでしたか?国を出て行かれて。」
出ていったよ、だからなんだ。お前がしらないところで色々ごたごたしてんだ。いいから立ち去りたい。呼びだしたのはそちらですが、と言ってやれば黙る。私が来る事を姉さんたちは知らなかったけど彼らは知っていたはずだ。それを止められなかったこいつの腕もないって事だ。大体スチュワートの性格が歪んだのも姉さん達が仲悪くなったのもお前のせいだろ。
「王が貴方を呼んだとしても貴方が王位につくことはないでしょうに。」
『それはわからない。あんたが私に王位についてほしくなくても姉さんが取引を成立させたら自動的に私は王位につく。大体息子1人扱えない奴が国を扱えると思ってんの?さっきからねちねちとはっきり言いなさいよ。』
「口が悪いですよ。やはりお育ちが悪いのですかね。」
『あんたよりましよ。ギルカタールよりましに普通に育ってる。』
「ギルカタールが嫌いならば貴方は王位につかなければいい。」
『あんたの思い通りにはさせない。私は姉さんに普通になってもらいたいの。大体私が王位につかなくたってあんたの好きにはならないわよ。諦め悪いわね。』
「血のつながらない姉のためにも嫌な王位につくと。感動ですなぁ。」
『そんな事心にも思ってないくせに。それで私になんの用ですか?貴方が爆発音がしたから心配で私の所に来たとかありえないんで。寧ろ便乗して殺そうとするでしょ。』
「それならとっくに貴方は死んでいますよ。」
『貴方は自分の手は汚さないから。誰か仕掛けてくると思ってるの。』
「くく、本当にお姉さまより頭の回転がいい。学べばいい線に行くと思うのですがね。これは本当ですよ。私は貴方となら仲良くやれそうだと思ったんですがね。」
『嘘ばっかり。さっさと出てきなさい。ここは私の部屋よ。』
「せいぜい国を追い出されないようにすることですな。」
『言われなくても。あんたこそ私が王位につい暁には退職させてやるから気をつけなさい。私もせいぜい殺されないように気をつけるわ。』
「本当に肝が据わってる方だ。」
「プリンセスー。あ、…なんか邪魔でした?」
「まぁ、よそ者はよそ者同士仲良くする事ですな。あなた達は姉妹じゃない癖にそっくりだ。この国にいらない、」
『早く出てきなさいっ!!』
「失礼。」
「てめぇ!」
『ロベルト、やめて。お願い。』
「ですが、プリンセス!」
『…はぁ、やっと行ったか。』
「プリンセス大丈夫っすか?」
なにが、と目線をロベルトに向けボスンとベッドに座る。なんだか疲れた。疲労が急にドッと来た。いい朝が台なしだ最悪。ひやりとした殺気。殺さないだろうと大口をたたいたがやろうと思えばいつでも私は死ぬ。向こうからしたら虫を殺すようなものだ。今更恐怖がくる。
「…あんた今にも泣きそうっすよ。それに震えてる。あいつに何か言われました?怪我はないですか。」
『…ごめん。』
「なにがっすか、俺は逆に守ってもらったようなものですよ。ああ、よそ者って言われた事っすか?別に事実だからいいっすよ。」
『だって怒ってたから。あいつもロベルトの事言わなくてもいいのにっ。』
「俺が怒ったのはあんたを泣かせようとしてたからっすよ。入って行った時あんたの部屋にあいつがいて肝が冷えた。だって絶対あいつプリンセスの事よく思ってないでしょ?俺武器だしそうになりましたよ。」
『そ、そう。』
「だから、逆に止めてくれてよかった。これ以上怖い目にあわせたくなかったから。血なんて見たらもっと顔色が悪くなりそうだ。」
目からこぼれ落ちそうな涙を手ですくってくれた。震える手をぎゅっと握りしめてくれた。それだけでなんだほっとする。深呼吸を幾度と繰り返すうちに楽になる。あの時ロベルトが来てくれなかったら、なんて考えるのはやめよう。
『ありがとう、もう大丈夫。あんな奴に負けないから。あれ以上ムカついたらカーティスに頼んで殺してもらうからさ。私には国の事なんて関係ないからね。今だけだよね好きにできるの。』
「…まぁ、そっちのがプリンセスらしいっすよ。」
『あ、そういえばさっきからプリンセスって言ってる。』
「あ、すみませんっ!いやぁ、もう癖なんっすよ!!」
『今日は許してあげる。さっき救われたから。でもこれから名前にしてね恥ずかしいし。』
「…名前って結構色々あるんっすね。」
『よそ者の私が王宮にいる自体がおかしいしね。あんまり歓迎されてないんだよ。しかもこの国でしょ。殺しちゃえばいいのに、っていう物騒な方向に行くしね。こっそり護衛は付いているのかもしれないけど。あいつの事だから爆発にまぎれてそっちに向かえ、とか指示できるくらいの権力はあるし。』
「…まぁ、厄介なのが敵ですよね。寧ろ味方なんていないのか。またなんかあったら言ってくださいよ。あんた溜めそうだし。俺は勿論名前の味方ですから。」
『…ロベルトって結構頼りになるんだね。』
「結構ってなんっすか。これでも強いんですからね!」
『あはは。で、どうしたの?私の部屋に誘ったら躊躇したロベルトが自ら来るなんて。』
「…うわぁ!!そういえばあんたの部屋!!うっわ。しかもベッドに座っちゃったよ、俺!!」
『…え。今更!?だって自分から、名前ー。って言って入ってきたじゃん!!』
「いや、そうなんっすけど。うっわ!!なんかまじすみませんっ!!うっわ、まじ俺最悪ー…。」
『いや、別にベッドに座っただけじゃん。』
んな顔を真っ赤にしなくても。逆にそっちの方が誤解を招きそうだ。本当に可愛いな。私より年上だよね?どこうとするので別に座ってていいよ、と座らせる。恥ずかしいといえば私も涙を見せてしまったのでお互い様だ。寧ろ私のがやばい。
「名前の涙なんて可愛いじゃないっすか。俺の場合は色々ミスだし。だってベッドに座ってしかもあんたは泣いてるし、こんな所ライルに見られたらっ。」
「見てしまったんですけどね、ロベルト。」
『ライル、また気配なく入ってきて。怖いからやめてよ。』
「ライルっ!!これはちがくてだな!!」
「貴方が名前様を襲おうとしている事が違うんですか?」
「違うに決まってんだろ!!」
「名前様には襲う程魅力もないと仰りたいんですか?貴方は。」
『ごめんなさい…。』
「いやちがくって!そういう事じゃないっすよ!!」
「じゃあやっぱり襲う気だったんですね。」
「なんて言えばいいんだよ!!」
「名前様。さっきそこで奴に会いましたが。何か言われましたか?」
『大丈夫だよ。まぁ、言われたけどロベルトが助けてくれた。』
「こいつが?」
「こいつが言うな。いや、寧ろ俺が助けられたようなもんだけど。」
「そうでしょうね。まぁ、役に立ったのならいいです。じゃあ、用件は伝えてないんですね?」
『用件?』
なんか用件があったのだろうか。 ロベルトは遊びに来たわけではないのか。確かにそうだ。あの爆破音なのに城はそこまで騒いでないし、ロベルトも普通に入ってきた。ということはその話か。
「あ、そうでした。だから名前の部屋にきたんっすよ。」
『で、どうしたの。』
「さっき爆発音がありましたがあれはお嬢様の料理の音なんで安全ですよ、と言うことを。」
『姉さんが料理っ!?なんでまたっ。姉さん料理できないでしょ。』
「そうなんですけどねぇ。厨房もお嬢様は立ち入り禁止なのに…。いつの間にか忍び込んだみたいで。困ったものですよ。」
「そんなやんちゃ坊主じゃないんだからよ。」
「用件1つ伝えられない貴方がお嬢様を侮辱するんじゃありません。」
「お前にしたんだよ。プリンセスにその言い方はどうなんだよ。つか伝言はあいつのせいで、」
「名前っ。」
『姉さんっ!!うっわー…、頭ボサボサっ、真っ黒だし。何してるの。 まったく料理はやめなさいと。』
「料理おしえて!」
『人の話聞いてないし。あー、まず着替えてきてよ。話はそれからだよ。シャワーくらい浴びてきたら?』
「ライル。名前が妹だよな?」
「そうですね。あぁやってると本当の姉妹みたいでいいじゃないですか。」
「…そうだな。で、プリンセスの料理でなんで爆発するわけ?」
「さすがお嬢様ですよね。」
『もう諦めればいいのに…。』
「今日スチュワートに言われたのよ!!お前は女らしくないって。」
『んなのいつも言われてるじゃん。』
「そうだけど一回ギャフンと言わしたいじゃない!」
『で、料理な訳?諦めようよ…。無理無理。』
「ちょっと!!名前!一緒に頑張ってよ!!女磨きをするのよっ!!」
『女磨き…、やめようよ…。あいつといい爆発といい今日は疲れたんだから。』
「いいから、いくわよ!!」
やめようよ、という私の声も聞かず姉さんに引っ張られていく。ロベルト達は笑顔でそれを見送った。今日は一緒にお風呂入って、なんて料理が終わった後の予定まで考えだす姉さん。なんだか疲れたけど温もりがあるだけでほっとしたのでその腕に抱きついた。今夜はガールズトークで寝かせないから。