15000 リクエスト | ナノ


マルフォイ邸にて。

 きらびやかな世界が嫌いとは言わない。むしろ私にとって社交界というものは情報交換の場でもあるし、うら若き乙女たち(自分は含まれないのかと言われれば微妙だが)が母親に将来嫁ぐであろう男の候補たちのもとへあいさつする機会でもある。残念ながら私にそんな機会はなさそうだけど。

 とはいえ、そこに余興を求めるのかと言われれば微妙だ。いや、一般的には求めるのかもしれない。けれど、私は昔からこの場に楽しさを求める前にシリウスに連れられて両親とともに家に帰っていたからわからないのだ。
 せめてホグワーツに入学するまで、見た目は品の良い淑女でいろという理由だったかもしれないが。

 さて、そんな過去もあったが、今日は入学してから数年たった日だ。
 あれから忙しくてほとんど来ることがなかったこのきらびやかな場にまた来ることになろうとは。思ってなかったわけではないが、退屈この上ない。……と、思っていたのだが。

「ふむ、案外悪くないですね」

 自分の髪を軽く掴んでからくるくると回してみた。手間暇かけなくても完璧な兄とは違い、時間を掛けて手入れしている髪は普段はストレートなのだが、今日はナルシッサ従姉さまに遊ばれ、やわらかく弧を描いてる。パーマをかけるのなんて初めてだったが、悪くはなかった。
 最近一気に成長したからドレスだって新調した。一部成長してない箇所があったがそこは置いておいて。
 
 それになんといっても、顔の半分近くを装飾で覆い隠している仮面が良かった。
 最初、今回はマスカレードパーティ……いわゆる仮面舞踏会だと聞いたときは、主催のルシウスの趣味がわからないと思ったものだ。最初からあの人とはいろんなことであわないから今更言わないけれど。ペットに孔雀はないでしょう、孔雀は。
 
 けれど実際は「案外悪くない」どころではなく、彼を褒めて花束を送りたいくらいには気に入った。
 最近そもそも社交界に顔を出してなかったこと。学生は休みのときには課題が山のようにあるし、そうでなくても私はバーティとの手紙で忙しかった。
 メイクもヘアスタイルもいつもとは少々違うこと。ここでいういつもとはもちろん普段学生を送っているときではなく、社交界の話だ。
 それにこのナルシッサ従姉さまの用意してくれた仮面。少々重いが、顔が半分以上隠れてしまうからいつものように愛想よく振りまく必要もなかった。
 総合して、私は今日奇跡的にナマエ・ブラックと認識されることが少ないのだ。それが良いことだけとは思わないけれど、少なくとも肩の力を抜ける社交界は初めてで心が踊った。

 ありがとうルシウス! なんだかんだ言ってもナルシッサ従姉さまの旦那がルシウスで良かった。

「ナマエ?」
「えっ」

 突如として名前を呼ばれる。ここにきて1発で私の名前を当てたのはナルシッサ従姉さまくらいだ。両親が来ていたら含まれるかもしれないけど、けど、声が違う。
 知ってる声。それも私が彼をよく知る声。
 サア、と血の気が引く音がした。

 なんで、なんで、バーティがここにいるの。
 まさか会えるとは思わなかった友人に会えるとは。いや、そう、会いたかった。だから嬉しい。嬉しいけど。嬉しいけど……!

 だからってまさか、デザートを貪っているときじゃなくても良いじゃないか!!

 ルシウス主催のパーティなのだから、かれ料理も美味しい。お金がかかってる、という意味ではなく、妻のナルシッサ従姉さまという、魔法界の中でも食にうるさい監督がいるからだ。
 私にとって、最高の料理人といえばクリーチャーだが、それでもルシウスの家の屋敷しもべ妖精だって負けてはない。最高級の食材で、最高においしいものを作り上げる。とくにパーティなんかでは量こそ多くないけれど、腕によりをかけた料理が出てくるものだ。
 にも関わらず、私は普段両親の前で知らない大人や子どもに微笑みを浮かべ、あいさつを繰り返し……結局食べることはなかった。
 だからたまには、少しは、ナマエとバレない可能性があるなら、と手に取ってしまったのだ。決して食い意地が張ってたわけではない。かわいくてキラキラしていて美味しそうな、罪深きデザートがあるのが問題なのである。

 そんな、はしたない。貴族の娘とはいえないような姿を、1番大切な友人にバレるわけにはいかなかった。とっさにバーティに顔を逸らす。

「わ、私はナマエなんて名前じゃないです」
「いや、ナマエだろ? それとも、きみは友達に嘘をつくのか」
「うぐ」

 確かにそれは……うん。バーティについて良い嘘なんてあるわけがない。
 恐る恐る、声のほうへ向く。緑の仮面をつけていて、顔の大半は隠れていたけれど、やはりバーティだった。仮面の向こうで、優しい微笑みを見るとホッとしてしまう。

「やあ、ナマエ。会えて嬉しいよ」
「あの、私もうれしいよ……? けど出来ればこのことは忘れて欲しいなあ」
「なんで?」
「はしたないから! 品がないから! 」

 ほとんど泣き言のように言うが、バーティは首を傾げる。なぜ? という表情をする彼に、なぜと言いたいのはこっちだった。
 私は母に見られたらあとあと怒られることをやったのだ。父に見られたら溜め息をつかれることをした。シリウス……は、たぶん笑うでしょう。

「あきれられてもしょうがないことしてるでしょ、私」
「デザート食べてるだけだろ」
「だけって!」

 少々子どものようだが、それでも拗ねてみれば、バーティはくすくすと笑った。一体どこに笑う要素があったのか。

「ああ、ごめん。ナマエでもそんなこと気にするんだな」
「……馬鹿にしてる?」
「してないけど、おかしくて」

 バーティにとって、私のそれは本当にささいなことだという。本当に本当に? といえば、目を細めてうなずくのだ。
 なんて恥ずかしいところを、と思ったけれど、バーティに見つかったというのはあるいみ幸運だったかもしれない。だれにも言わないと言ってくれたし、彼に感謝しなくては。

「まあその代わりと言ってはなんだけど、せっかくのパーティなんだから踊ってくれますか?」
「それはもちろん喜んで」

 変わった趣向の催し物だったけど、バーティには通じなかった。それがいまになってなんだかおかしくなって、普段は心のなかから楽しめないダンスも、楽しくなるだろうと予想できた。

 そういえば、本当になぜバーティは私に気がついたのだろう。ふと、気になって聞いてみれば、少し悩んだ後、彼は元気よく口を開いたのだ。

「理屈はわかんないけど、俺は多分ナマエなら丸焦げになってても全身タイツになってても水死体になっても、魔法で誰かに変身してもわかる自信がある!」
「男前ですか?」
「男前というかナマエの友達だから」

 あっ好き。

2018/11/15


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