赤と緑の子羊
「「どこだここ!」」
怒声とも悲鳴ともとれる少年ふたりの大声。グリフィンドールとスリザリンという犬猿寮の少年達だというのにまあ仲のいいこといいこと。
……というかどこだここ、って。ホグワーツでしょうに、ホグワーツ。確かにめちゃくちゃ広いですが。
しかしあわあわとしているところを見るともしかして新入生とかでしょうか。なら仕方ない、優しい私が彼らの行きたいところへ連れていって差し上げましょうかね。……シグナスがいないから暇とかじゃないんですからね!!
「そこの少年達、大丈夫ですか?」
「す、スリザリン生!」
くしゃくしゃの髪にメガネのグリフィンドール生にビクッとされました。……え、あなたが一緒の子もスリザリン生じゃないですか。私の目が節穴なのでしょうかね。
対照もう1人の、プラチナブロンドをオールバックにした少年はぱっと表情を輝かせる。ほう、愛いやつめ。それはそうとなんか誰かに似ているような……?
「すみません、ここ一体何年ですか?」
「……は? 1945年でしょう」
「「1945!?」」
「え、ええ」
何を驚いているんだこの子たちは。
「ポッター、きみのせいで…っ!!」
「マルフォイが変な魔法使ったりするからだよ!」
「あーもう、何わめいているんです、めんどくさい」
思わず舌打ちをしてしまったなか、ふと、彼らがお互いによんだ名前を思い出す。
「ポッター」、「マルフォイ」だったか。どこかの同じ姓を持つ先輩方の親戚かなにかだろう。そう考えてみればよく似ている気がする。
そんなことより。聖女のように、迷える子羊を導く羊飼いのように心優しい私が声をかけて差し上げたのは彼らの怒声を再び聞く為ではなく、彼らの行きたいところへ連れていってあげるためだ。だんだん面倒になってはきたけれど。
「子羊……ではなく、少年たち。どこかへ行きたいのではないのですか」
「えっ行きたいというか…」
「どうするべきか悩んでいるというか…」
「あら、悩みですか。よければ聞きますよ」
「えっ」
「ええっ」
驚く少年達。
…別にここまで驚く必要なくないですか。こう見えても私はスリザリンでよく相談を受けるタイプですし。ま、大半はシグナスのことが大好きな女子生徒たちから、付き合いたいからなにかアドバイスをくれというものですけど。
ドヤ顔の私に二人の少年はお互いに顔を見合わせる。そして口を開いたのはグリフィンドールの少年だった。おずおず、と少し不安そうにしている。
「あの、相談したらアドバイスとかくれますか」
「ポッター!」
「もちろん。てきかくなアドバイスを差し上げましょう」
「僕グリフィンドールですけど」
「子羊…悩みに寮はどうでもいいです」
他人の悩みを聞くのは私の趣味でもありますからね。
「じゃあ、相談させてください」
やっぱり不安そうなグリフィンドールの少年。スリザリンの少年もこちらをチラチラ見ているところをみると、どうやら二人とも関わっている問題らしい。なんてわかりやすい。素直とバカは本当に可愛いですね。
「あの、実は僕とマルフォイ…未来からきたんです!」
「!?」
「未来に帰りたいんです!」
「そ、そうでしょうね」
どうしよう、すげえビビりました。あまり動揺しないことで有名な私でも動揺しています。
未来からとは……しかしここは魔法学校。生まれも育ちも魔法界の私にとっては「微妙に信じ難いけどまあありそうだししんじてもいっかな」という問題のレベルだった。
「僕たちが未来に帰るためにアドバイスが欲しいです」
「お願いします」
アドバイスは差し上げますとは言いましたがスケールでかすぎませんかね。アドバイスといっても……あ。
「校長のところへいきましょうか」
その後、校長室からダンブルドアのいる変身術の教室に行き、少年ふたりは未来に帰れましたとさ。めでたしですね。