「痛いの、飛んでけ」
柳は、微かに震える俺を抱き締めて、そう言った。
先程俺に殴られ、切れた唇に血が滲んでいる。
「れん、じ、」
愛してる。
俺の言葉は声にならず、涙となって頬を伝い柳のYシャツに染みをつくる。
痛いの、飛んでけ。
俺より痛いはずの柳は再度そう繰り返すと、まるで赤子をあやす母親の様に優しく笑い、抱き締める腕に力を入れた。
この世界が二人きりならいい。
二人きりなら、こうしてお前を傷つけることもなかったのかもしれない。
否、それは違う。もし、世界が俺とお前の二人だけだったとしても、俺はこうしてお前を傷つけていたに違いない。
俺のかわりに蓮二は血を流し、蓮二のかわりに俺は泣く。
なんて不器用なんだ、俺達は。
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