食卓には男が二人。
お前の口に運ばれて行く食物をじぃと見つめる。
形の良い大きな口に、咀嚼されて、唾液に塗れて、かみ砕かれてどろどろのぐちゃぐちゃに、跡形も無くなって、お前の中に取り込まれて逝く。
嗚呼、嫉妬に狂ってしまいそうだ。と思った。
この食物達の様に、
バラバラになった赤い塊の俺を、お前は、骨の随まで貪ればいい。
そして俺はお前の血となり骨と化して永遠にお前の中で眠り生き続ける。
それが出来たらどれだけ素敵だろうか。
嗚呼、嗚呼。
俺をもっと愛してくれないか、
弦一郎。
「蓮二、何をぼおっとしている」
「え? ああ、すまない」
真田の声に柳は虚けから抜け出した。
今は食事中で、箸が止まっていた事に気付く。
「蓮二、どうかしたのか?」
訝しげに問う真田の眉間にはいつもの三割増し深く皺が刻まれている様な気がする。
「いや、何でもないよ」
にこやかに微笑むと、柳は然も何も無かったかの様に再び箸を動かし始めた。
食卓を彩る料理達。
主食に副菜にとバランス良く彩られている料理は二人分にしてはやや多めに感じる。
柳は主食の回鍋肉の牛肉を箸で摘み上げると言う。
「弦一郎、肉が多くないか?」
「蓮二、お前はもっと肉を摂り栄養を蓄えるべきだ」
「俺は魚の方が好きだ」
「それがいけないのだ、好き嫌いせずにしっかりと栄養を摂れ」
「弦一郎みたいな筋肉マッチョなんて俺は御免だ」
摘み上げた牛肉を真田の皿へ運ぶと、食べかけの回鍋肉や白米もそのままに柳は席を立った。
「蓮二!」
真田の制止を気にも止めずにリビングのソファーに座る。
柳の背中から真田の溜息が聞こえた。
真田はもう一度大きく溜息を付くと、柳の背中に先より少し大きな声で話しかける。
「食事を続けるぞ、蓮二」
「残りは弦一郎が食べて良いよ」
すぐに柳の返事は返ってはきたが素っ気の無いものだった。
真田は柳の背中を眺めながら少し考えた後、ふっとはにかむと小さな子供を宥める様になるべく優しい声色で問い掛けた。
「駄目だ。お前が食べなくては俺がお前の為に腕を奮った意味が無いだろ?」
柳がゆっくりと真田の方を振り返ると、優しく微笑む真田と目があった。
柳は少しの間黙り込むと、ソファーから離れてキッチンへ戻る。
元居た食卓の席に着くと真田と再び目を合わせて、柳は困った様に笑う。
「弦一郎はずるい」
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