良いのか悪いのか、総司はいたっていつも通りだった。
「あれ。おかえり」
「あいよ、ただいま」
ついさっき千鶴から感動的な『おかえり』をもらったばかりだというのに、物凄く普通に挨拶されました。
総司は土方さんの言ってた通り、自室で大人しくしてたらしい。縁側に腰を下ろして足をぶらつかせている。
「髪、濡れてるね」
「一風呂浴びてきたからね。粗方落とせたと思うけど」
血の匂い、とは敢えて口にしなかった。
あたしが首にかけていた手拭いを頭からかけ直すと、総司は振り返っていた体を戻してしまう。部屋の真ん中で足を止めたあたしからは、彼の後ろ姿しか見えない。
「がっかりした?僕が普段通りだから」
「別に。凹まれても面倒だし、心配されるのは千鶴だけで十分だよ」
「千鶴ちゃん、怒ってたでしょ」
「謝り倒した。ちゃんと機嫌直してくれました」
「それは良かったね。あの子宥めるのって意外と大変だから」
それはアンタも同じだよ、とは言わず、かわりのように歩みを再開する。総司は振り返らない。それをいいことに、その背を背もたれにするようにして腰を下ろした。
合わせた背中が、一瞬緊張した気配がした。見えないけれど、多分目を丸くしていることだろう。
「クライサちゃん?」
「ん?」
「空いてるよ」
ここ、と総司の手が叩くのは、彼の隣。だけどあたしは首を振る。
「いいの。ここが、あたしの居場所だから」
ーーそれが、総司の喜ぶ言葉でないことくらい、知ってる。
それを認めたくないのは、誰より彼自身なのだから。
「……そう」
現に、答えた総司の声からは、既に先程まで含まれていた笑いは消えていた。
落ちる沈黙。気まずい空気に苦笑して、それを払拭しようと口を開いた時、総司が呟いた。
「…これじゃ、どっちが『剣』か、わからないな」
「え…?」
「なんでもないよ」
返ってきた声も、感じる気配も普段通りのものに戻っていた。
(だけど、)
その呟きが、何故か、この上なく怖かった。