もう少しで屯所に着く、という辺りでイチくんに会った。そしてその隣には、彼に連れられた千鶴の姿。
「……あのー、千鶴さん…?」
そしてそして。
こちらに気付いた千鶴がクラちゃん!と勢いよく飛びついてきたと思ったら、ぎゅうと力いっぱい抱き締められました。うん、現在進行形で。
「つくよ?」
「……」
「返り血」
「……」
「…黙って見てないでなんとかしてよ。土方さん、イチくん」
「暫く千鶴の好きにさせとけ。散々心配かけたんだから、少しくらいはいいだろ」
「副長の言う通りだ」
「…そうかい」
そりゃ、周りに人の目はないし、あたしとしては別に構わないんだけど。
……それに、彼女のこういう行動は、あたしのことを本当に心配してくれたからこそのものだと知ってるから、嫌な気はしない。ああ、二条城警備の時は怒らせた上に泣かせたんだっけか。
「千鶴。あたしは無事だよ。かすり傷ひとつない」
「……」
「ごめん。心配かけたね。ありがとう」
「…無茶しないで、って、言った」
「うん」
「でも、その無茶が私たちの…私のためだって、私のせいだってこともわかってるの」
「……」
「クラちゃんが無事に帰ってきてくれることもわかってたの。信じてたの。でもね…」
「うん。そうだよね。ごめんね。ありがとね」
泣くまいと目を堅く瞑りながら、必死に言葉を紡ぐ千鶴の背を撫でる。小刻みに震える肩に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「……怖がらないでくれて、ありがとね」
とても強くて、やさしい子だと思う。
あたしを失うことを恐れても、人殺しのあたしを恐れない。
「怖がらないよ」
怖くない。だって、クラちゃんだもの。
そう言って体を離した千鶴は笑っていた。それがとても見慣れた笑みだったから、あたしもまた、少しだけ眉を寄せて笑う。
「おかえりなさい」
両手を包んだ彼女の手はとても温かかい。土方さんとイチくんの微笑みを横目に見ながら、あたしは内心でもう一度礼を言った。
「……ただいま」