私が命じられたのは、今回の買い出しの目的である食材の死守。それをしっかり抱えて、私は言われた通り、沖田さんの背中から離れないように立った。私の後ろはすぐ塀になっているから、背後をとられることはないだろう。

「新選組の沖田総司だな」

私と沖田さん、クラちゃんを囲むように立つ浪士は五人。みな刀を持ち、油断なく構える姿に息を呑む。沖田さんとクラちゃんはあくまで落ち着いた様子で、その人たちを一瞥した。
私が背にする塀に対して、半円を作るように立つ浪士。そして私の目の前には沖田さんの背中、その向こうにクラちゃんの姿がある。

「あまり有名になりすぎちゃうのも困りものだね」

「この人ら、総司に用があんでしょ。千鶴連れて離脱してもよい?」

「あれ、君、ここに何しに来たの?まぁ僕は構わないけど」

「……。しかたない。下手打ったら、あたしが土方さんに殺されるしね」

世間話のような調子で交わした後、一呼吸の間を置いてからクラちゃんは前触れなく駆け出した。両手で握った刀を左下に構え、正面の浪士に向かって走れば、その両脇を固めていた二人もクラちゃんに注意を向ける。そうして三人の相手を彼女が引き受けると、沖田さんは残りの二人に対した。

浪士らはなかなかの手練れ揃いらしく、沖田さんとクラちゃんは人数の不利もあってか苦戦を強いられているようだった。ただ沖田さんの背中で守られているだけ、という現状はとても歯がゆかったけれど、かといって今私が動いても彼らの助けになれるとは思えない。それどころか邪魔になってしまうかもしれないと考えると、指の一本を動かすことさえ躊躇われた。

「ぐぅっ!」

浪士の呻き声。沖田さんの陰になっていて私からは見えないけど、クラちゃんが何らかの攻撃を与えたようだ。血の滴る音は聞こえないから、多分打撃を入れたのだと思う。
続けるように、沖田さんが対峙していた一方の浪士の左肩を斬りつけた。浪士はよろめきながらも刀を取り落とすことはなく、血を流す肩を気にしながら沖田さんから距離をとる。もう一人が様子を窺うようにじりじりと間を詰めてくるのを見て、沖田さんの口が笑みに歪んだ。

だが、その時。

「…ッーーーーごほっ、ごほっ!」

「沖田さん!?」

口元に手を当て、前のめりになりながら沖田さんは激しく咳き込んだ。思わず身を寄せた私が名を呼んでも、彼は返事をする余裕もないようで苦しそうに咳を繰り返す。
それは致命的な隙だったのだ。刀を振り上げ、駆け出した浪士が向かってきても沖田さんは構えをとることも出来ない。せめてと、私は強引に彼の前に身を晒した。抱えていた荷物が地面に散ったが、そんなことを気にしている余裕は、きっと誰にもない。

千鶴ちゃん、と掠れた声が聞こえた気がした。
同時に、真っ赤な血が私の視界を塗り潰す。それは着物の袖を濡らしはしたが、私の身体から溢れたものではなかった。

「………あ……」

高く、飛んだ。何かが。真っ赤なものを噴き出すそれが、目の前、地に落ちる。うで。ひとの。

「……クラ、ちゃ」

正面には、肩から先を失った人影。赤く濡れた刃。大きく見開かれた目が血走る。何事か、叫び出そうとした口が声を放つ前に、刃は動いた。

一瞬、こちらを見た彼女が、おそろしく柔らかな笑みを浮かべる。
その直後、沖田さんの大きな手が、私の両目を乱暴に覆った。






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