「あの、沖田さん」

「うん?」

「……わざと遠回りしてません?」

「あれ、わかった?」

買い出しに行くためクラちゃんの姿を探していると(私は未だ、一人で屯所を出ることを禁じられている。外に用がある時は供をするから気軽に声をかけて、とクラちゃんが言ってくれたので、それに甘えようと思ったのだ)、散歩のような足取りで境内を歩いている沖田さんに会った。
それから、よくわからないうちに沖田さんが買い出しに付き合ってくれるという話になり、私は彼と共に屯所を後にしたのだが。

(クラちゃん、怒ってそう…)

沖田さんは昨日まで風邪を引いていたので、今日も大事をとってお休みする、とクラちゃんから聞いていた。だけど、本人は何食わぬ顔で外を歩いてるし、そばにクラちゃんがついていないということは、彼女が知らないうちに部屋を出てきたのだろう。今頃、すごく探してるんじゃないかな…

「だってさ、せっかく外に出たんだから。すぐに帰っちゃうのは勿体ないじゃない」

「それは……よくわかりますけど、沖田さんは…」

「そうだね。小うるさい補佐役が、今頃探し回ってると思うよ」

私の心配事を、沖田さんはやっぱり承知しているらしい。だからこそ、普段通らないような裏道を選んで、屯所に帰るのを故意に遅らせているのだろう。
気持ちはわからなくもないけど、と溜め息をつこうとした時、沖田さんが持ってくれていた荷物(買ってきた食材だ)を急に差し出してきたので、私は反射的に受け取る。落とさないように抱え直しながら沖田さんへ目を向ければ、彼は私から少し距離をとって、ゆっくり辺りを見渡しながら刀の柄に手をかけた。

(敵……!?)

今私たちがいるのは、人の多い大通りを離れた裏道だ。私たちの他に人の姿は見えず、お店や民家の裏手になるから、襲撃の場所には適しているのかもしれない。私は緊張して、身動き一つ取れずにいる。その時、沖田さんが一息に刀を抜いた。

振り上げられた刀と振り下ろされた刀が、激しく打ち合って悲鳴のような音を立てる。刃越しに相手と目を合わせて、沖田さんは笑った。
刃同士が離れ、飛び下りるようにして刀を振り下ろしてきた(実際、傍らの民家の屋根から飛び下りてきたようだ)相手は、沖田さんの前に着地してすぐに立ち上がる。ひどく機嫌の悪そうな顔をしたその人は、抜き身の刀より鋭い目をしていた。

「早かったね、クライサちゃん」

「……総司。アンタ、あたしに喧嘩売ってんの?」

「まさか。ちょっと散歩したかっただけだよ。心配させてごめんね、反省してます」

「完全棒読みだよ」

クラちゃんだった。私に軽く手を振ってくれたけど、思っていた通り、言いつけを破った沖田さんに対してすごく怒っているみたいだった。だけど怒鳴りつけるようなことはしない。……多分、諦めてるんだと思う。

「だけど、上から来るとは思わなかったな」

「上から探すほうが合理的でしょうよ」

「理屈はわかるけど、実践出来るのは君くらいだと思うよ」

「あっそ。……そんなことより」

クラちゃんは未だ、刀を納めない。それを担ぐようにして峰を肩に当てると、沖田さんから外した視線を物陰へと向ける。沖田さんも刀を握り直し、私のそばに立った。

「あの殺気、君のだけかと思ったんだけど」

「バカ。あたしの殺気がこんな安っぽいわけないでしょ」

物陰から数人の浪士が飛び出してきたのは、その直後だった。






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