「麻倉、お前も一杯ぐらい呑んだらどうだ？さっきから食ってばっかじゃねぇか」
「成長しないっつっても、本当ならそろそろ酒くらい呑める年なんだろ？」
「島原出禁になっていいなら呑むけど」
「……は？」
「あたしが呑むと、大体の物が壊れるって話だから」
「……そりゃまた…」
密会の場が、宴会の席になって少し。あたしと千鶴は料理を楽しみ、土方さんや左之と新八は酒を呑んでそれぞれ羽を伸ばしていた。
「千鶴ちゃん、お酌してくれ。もう空になっちまった」
「はい、わかりました」
「千鶴、こっちも頼んでいいか？」
「あ、はい！」
「いやー、やっぱり女の子に注いでもらった酒はうめぇよなぁ」
「……ねぇ。なんで誰も、あたしに酌しろって言わないの？」
新八の脇に行ったり左之のそばに行ったり、忙しそうな千鶴を眺めて呟きがちに問うと、当然のことのような口調で土方さんが答えてくれた。
「酌しろって言ったところでしねぇだろ、お前は」
「うん。てめぇでしろって答えちゃう」
「だからだろ」
「だからか……」
その時はまだ平然としていた土方さんだが、その日は珍しく酒量が多く、左之に指摘されても、呑みたい気分なのだと言って止める気はないようだった。土方さんは酒に強くない。むしろ弱いと言っていいと思う。あたしや左之の不安は、その後見事に的中した。
「おい、千鶴。これは本当に酒なのか？水じゃねぇだろうな」
あ、この人酔ってるわ。あたしは疑うこともなく確信した。それは飲み会の途中、高頻度で酔っ払いがする内容の発言だから。
「お酒ですけど…？」
「酒の味がしねぇな。もっと強いやつを出せって店の者に言ってこい」
「で、でも…」
そこで新八と左之も気付いたようだ。土方さん、しっかり酔ってらっしゃいます。
左之が千鶴に、彼が酒に弱いことをこっそり教えれば、それを聞きつけた土方さんは
「おい、誰が弱いんだ？なんなら俺と勝負ーー」
とか言いながら刀を抜こうとするし、必死にそれを止めようとしている千鶴を指図すんじゃねぇとか怒鳴りつけるし。
「絡み酒…？土方さんって面倒くさい酔い方するんだね…」
「普段のあの人なら、あんなひどい呑み方滅多にしねぇんだけどなぁ…」
とりあえず手早く休ませてしまおう、ということになり、土方さんは千鶴に支えられる形で、先程店の者に頼んで借りた個室へと連れられていった。
あの人に酒呑ませるってなった時から、こうなるだろうことは予想出来たけど…あまりに予想通りすぎて溜め息が出る。今頃、個室でも千鶴は絡まれているんだろうか。頑張れ。
「応援してやるくらいなら、一緒に行ってやりゃあよかっただろうに…」
「だって酔っ払いの相手って面倒くさいんだもん。あたしが行くと、土方さん殴っちゃいそうだし」
「千鶴ちゃんも可哀想に…一人で頑張ってんだな…」
「そっちこそ、哀れむくらいなら手伝ってやればいいんじゃないの？」
その後も新八と左之は座敷で呑み続けていたらしい。あたしは土方さんが今日中に戻らないだろうことを近藤さんたちに伝えるためにも先に帰ることにしたので、個室に行った土方さんがちゃんと寝てくれたのか、千鶴がどれだけ苦労したのかはわからない。
翌日、屯所に戻ってきた千鶴に話を聞いてみると、かなり大変だったと何故か微笑ましそうな顔での答えをもらい、その隣で頬を染めて顔を背ける土方さん、という珍しいものを拝めた。
彼女の微笑みの理由を問い質したのは言うまでもない(妨害してくる土方さんは相当面白かった)。