西本願寺の屯所はかなり広く、前の屯所よりも部屋数が多い。なので前は二人で一つの部屋を使っていたあたしと千鶴も、一人ずつ小さいながらも個室を使えることになった。
だけどそれからも、あたしたちは時々同じ部屋で一緒に寝ている。並べて敷いた布団の上に横になって、お喋りをして少しだけ夜更かしして、それから仲良く眠りにつくのだ。

「こうして一緒に寝るの、ちょっと久しぶりだね」

今夜一緒に寝よう、と言い出すのは、もちろん千鶴からの時もあるが、大抵はあたしからだ。彼女が落ち込んでいる姿を見かけた時は、大体声をかけていると思う。千鶴は一人になると色々考え込んでしまうふしがあるから、考え事をするには十分な時間がある夜を、彼女一人で過ごさせてしまわぬように。単なるあたしの自己満足なんだけどね。

「そうだね。最近は少し忙しかったから」

「無理してない?いつも走り回ってて大変そうだけど…」

「してないよ。あたし、自分に出来ないことはしないから。新選組のために身を粉にして働く気もないしね」

灯りを落とさぬまま、布団の上に千鶴は座って、あたしは横たわってお喋りの時間を楽しむことにする。暫くしてから、ところで、と本題を切り出した。

「今日の巡察、何かあった?」

そう問うと、千鶴は表情を変えて俯いた。
彼女は今日の昼、左之の十番組に同行して巡察に出かけた筈なのだが、その後、夕食の場で会った時には何だか様子がおかしかった。巡察中に何かあったのだろうと思っていたが、どうやら当たりらしい。

「…斬り合いでもあった?」

「……うん…」

詳しく聞いてみると、巡察中に改めようとした店に隊士らが入っていったところ、中にいた浪士たちに突然襲いかかられて斬り合いになったらしい。千鶴はその時は店の外にいたため巻き込まれはしなかったが、隊士からも死人が出てしまったことに気を落としているようだ。
巡察は命がけだ、と最初に聞いていたし、実際に同行するようになってから幾度もそのような場面に立ち会ったことはある。それは彼女も同じな筈だが、かといって慣れでどうなるというものでもないだろう。少なくとも、彼女の場合は。

「武士って大変だよね。恨みがどうとかだけじゃなくて、勝ち負けを決めるってだけでも、殺し合わなきゃならなかったり」

いっそジャンケンで決めちゃえよ、ってことでもいちいち刀を持ち出してきたり。本当に面倒な人たちだよ、武士って。

「そうだね…命懸けじゃなくて、もっと別の方法で勝敗が決まればいいのに」

「たとえば?」

意見がぶつかり合った時、それが各々にとって譲れない想いであればあるほど、それを押し通したいという気持ちも大きくなるだろう。それこそ、相手を殺してでも貫きたい想いがあるかもしれない。
そういう時、侍同士なら刀の戦いになるものを、他のどんな方法でもって勝敗を決しようと言うのか(ちなみに、『話し合い』は当然却下だ)。

「……たとえば」

「うん」

「たとえば、だよ?」

「わかってるよ」

念を押すようにそう言ってから、それでも答えにくそうに目を逸らしながら千鶴は改めて口を開く。

「…………花札、とか」

オチた。

「だっ!だから、たとえばの話なんだってば!!」

「いや、それにしたってさぁ…博打じゃないんだから」

あまりにも、な発言に気が抜けてしまい、布団に突っ伏したあたしに千鶴は焦り混じりに声を荒げる。ツッコミどころ満載な発言だった自覚はあるらしい。確かに命懸けではないが、かわりに金が賭かってそうだ。

「他には?」

「他!?」

えーとえーと。あたしを納得させる答えを探しているのだろう、頭を抱えた彼女は随分と必死な様子だ(っていうか、他の答えを求めるあたり、あたしも総司のことを言ってられないぐらいにはSなのだろう)。
その後苦し紛れに出された答えといえば、将棋とか、囲碁とか、そんな娯楽的なものばかり。殺し合いに比べればそりゃとても平和的だが、実現する可能性なんて皆無だろう。まぁそれは、千鶴自身にもわかっているんだろうけど。

「待って、もっと他にも…えぇと、鬼ごっことかかくれんぼとか…」

「(もはや子どもの遊びでしかないし)……うん、でも、千鶴はそれでいいよ」

「え…それってどういう…?」

「気にしないの。褒めてんだから」

「褒めてるの…?」




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