十二月も後半に差し掛かった頃。肌を切るような寒さが続くある日、いつものように早朝に目を覚ましたあたしは、手早く身支度を終えてから部屋を出た。すると境内に広がる真っ白な世界に迎えられ、テンションがグッとMAX近くまで上がる。

「雪!」

すぐさま真っ白になった地面に下りて、触れた指を赤くする冷たさを楽しみながら雪を掬い、手のひら大の玉を作っておにぎりのように握り固める。その間、足は目的地に向けて雪の上を駆けており、足を止めた…つまり目的地に着くと同時に、両手の中で出来上がった雪玉を思いっきり振りかぶった。

「見て見て雪いっぱい積もってるよ土方さーん!!」

「麻倉ァァァァア!!!!」

ピッチャー、第一球投げました。氷と変わらないぐらいの強度に固めた雪玉は、狙い通り副長室の障子戸に穴をあけて室内へ(なんかガチャンとか音が聞こえたから、多分壺か何か割れたと思う)。直後に腹の底から出したような声と共に戸を開き、姿を現した土方さんはまさに鬼の形相。
すぐさまあたしは逃げ出すが、韋駄天のごとき土方さんの走りには敵わなかった。境内を暫し走ったところで捕まり、罰として副長室前の廊下での正座を命じられた。

「あれー?クライサ、おまえ土方さんに正座させられてたんじゃねぇの?」

が、大人しく座ってなんかいられません。境内で雪合戦をしている左之たち三人と千鶴の元に歩いていけば、平助が不思議そうにあたしを見た。

「あー大丈夫大丈夫。身代わりに雪だるま作って置いてきた」

「…………へぇ」

手のひら大のやつね。

「っていうか四人だけで雪合戦して遊んでるなんてズルくない?あたしも呼んでよ」

「いや、おまえ土方さんに怒られてたじゃん」

「そもそも、これは遊んでるわけじゃなくてな、訓練なんだよ、訓練」

「なら余計に他の隊士も呼ぶべきじゃない?」

「そうそう。僕だって参加させてほしいなぁ、その訓練」

聞き慣れた声が耳に届いたので振り返れば、見慣れた人物が雪原と化したそこに立っていた。普通に。それを確認してすぐ、あたしは彼に歩み寄り、その袖を掴んで屯所の方へ引き摺っていく。そしてその勢いのまま階段に腰を下ろさせ、不思議そうにこちらを見る千鶴たちに何も説明することなく部屋へと走った。

「アンタは本当に人の言うこと聞かないね!こんな雪の中、そんな薄着で出てくんじゃねぇっての!!」

「クライサちゃん、最近土方さんの心配性が移ったよね。山崎君と同じこと言うし」

「ぐだぐだ言ってないでコレ着とけって。どうせ部屋戻る気はないんでしょ?」

行きと同じダッシュで戻ってきたあたしは、多少うんざりした様子の総司の肩に部屋から持ってきた羽織を掛けてやる。そこで漸くあたしの行動の意味に気付いたらしい千鶴たちが、何故か一斉に苦笑した。
それから四人は左之の一言で雪合戦を再開し、参加したがる総司を何とか押し止めてあたしは彼の隣に腰を下ろす。あたしも雪合戦したかったけど、今はこいつから目を離すべきではなさそうだ。

「クライサちゃんは雪が好きなの?」

「うーん、まぁ好きか嫌いかって言われれば好きなほうかな」

雪見ると北の将軍殿を思い出すから、素直に大好きって言うのはなんか癪だけど。

「好きって言うより……近いものを感じるのかもしれない。あたしが背負うのが、『氷』の名だから」

氷の錬金術師。そう呼ばれることも今はないけれど、背負う二つ名の存在を忘れたことはない。自分の居場所がどこなのか、知らない筈がない。
それでももう少しだけ、ここにいたいと思った。彼らと共に在りたいと思った。……なんてね。

「そういえば、その刀にも氷って名前ついてたよね」

「ああ、『氷纏』ね。別に名前で選んだわけじゃないよ?使いやすそうな刀選んだらコレだっただけだし」

雪合戦に勤しむ四人を眺めながら、総司と暫し談笑を楽しもうかと思ったのだが、背後から襟首を掴んできた鬼副長の登場によってそれは叶わぬこととなってしまった。
また廊下で正座を命じられたけど、机仕事してる土方さんの目を盗んで雪遊びしてました。ミニサイズ雪だるまを大量生産して副長室の前に並べといたら、怒る通り越して呆れられた。

「…そんなに遊びてぇなら、人に迷惑かけない程度に好きに遊んどけ」

「わかった!一人札幌雪まつり開催する!」

「好きにしろ」

「じゃあ実寸大二条城作ろーっと」

「やれるもんならな」

「あぁやってやるさ」

「(……本当にやりそうだな)」






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